スターティングメンバー
栃木SC [4-4-2] 14位
前節は残留争いのライバル松本に勝利し連敗を2で止めた栃木。苦しい展開を何とか守り抜いた勝利だったが、首位相手にもそれを発揮できるか。スタメンには前節出場不可だった乾が復帰。ベンチからは森が外れ、負傷から復帰のジュニーニョが11試合ぶりにメンバー入りした。
ジュビロ磐田 [3-4-2-1] 1位
3年ぶりのJ1復帰に向けて視界良好の磐田。前節北九州戦は先制されるも前半のうちに4点を返す貫禄の戦いで3連勝を達成した。6戦連発中のルキアンを筆頭に、好調を維持するメンバーを今節も継続。2015年の半年間栃木に所属した金子はベンチ入りとなった。
一つ飛ばしも想定内
栃木は残留争いから少しでも遠ざかるため、磐田は優勝に向けて京都を跳ね除けるため、互いに目標達成の足がかりにしたい一戦は戦前の予想どおりアウェイチームがボールを握る展開で進んでいく。
磐田のボール保持の狙いは栃木のSB裏を狙うことだった。山本康や遠藤の2ボランチが最終ラインをサポートしながら丁寧に繋ぐなかで、攻撃のスイッチとなるのは3バックの中央に入る大井。大井はパスを選択するときに近くの味方へ預けることは少なく、一つ飛ばしてWBに中距離のパスを入れることが多かった。
この日の栃木がいつもより前からのプレッシングを自重しているように見えたのは、大井のパス選択によるところが大きいと思う。栃木は基本的にミドルゾーンで構えながらも、できればSHを皮切りにサイドから圧力をかけたいはず。このときSHがプレスをかける相手は対面のCBになるのだが、ここを一つ飛ばされてしまうことでプレス方向をWBへ転換するシーンが何度も見られた。矢野も谷内田もそれほど前に出られなかったのはこのためである。
栃木としてはなるべく全体のベクトルを前向きにしたいため、磐田のWBに対してSHが間に合わなければSBが前に出ていく。このとき生じたスペースに前線の選手が流れることでサイドから前進していくというのが磐田の攻撃の大枠だった。
ただ、栃木もSBの裏を突かれることは織り込み済みである。どのチームもそこを狙ってくることが分かっているためかえって対応にバタつくことが少なくなってきている。カバーリングの中心はボランチが担うが、ルキアンが流れたときはCBの柳や乾が着いて行くなど、状況に応じた対応はスムーズに行うことができていた。磐田の攻撃を想定内に抑えられたことで、ボールを支配されても慌てることはなかった。
一定の守備の自信を得たことで流れを明け渡さなかった栃木は前半17分に先制点をあげる。ピッチ中央から谷内田のふわっとしたボールに合わせたのはCB柳。オフサイドラインぎりぎりを抜け出して決めたゴールはチームトップの今季6点目。谷内田も3試合連続でゴールに直接絡むなど首位相手に大きな仕事をやってみせた。
【10/17磐田戦】
— 栃木SC公式 / Tochigi SC (@tochigisc) 2021年10月17日
10月17日(日)にホームで行われましたジュビロ磐田戦のハイライト動画を公式YouTubeチャンネルにアップしました。
📹PICK UP📹#柳育崇 の得点シーン⚽️
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3トップ下システム
飲水タイム後の磐田はそれまでボランチに入っていた遠藤を一列前へ移動。並びの上では大津、遠藤、山田の3トップ下システムと表すのが近いのかもしれないが、それぞれが流動的に動くためほとんどポジションレスになっていた。
磐田の細かい繋ぎは決まった仕組みがあるというよりは判断レベルの高い選手たちが互いに空気を読み合ってやっているような印象だった。山田がボールを受けに下りれば遠藤が高い位置でDFラインと駆け引きし、ルキアンが中央でポストプレーすれば大津がストライカーポジションに入る。それほどスピード感のある攻撃ではなかったが、一人一人の技術が高いため狭いディフェンスの合間を縫って繋ぐビルドアップに栃木は手を焼くこととなった。
ここ最近栃木が戦った相手、例えば京都や大宮はタッチライン際に張る選手に長いボールを入れて、栃木のスライドの間に合わないサイドを起点にする攻撃がメインだったが、磐田は片方のサイドに人数を集めてそこでの細かい繋ぎから突破を図れる強さがあった。トップ下の3人とWBが絡み、山本康とCBも繋ぎのサポートに寄ってくる。密集して押し込まれるため栃木もそこには人数をかけざるを得ない。ブロックが寄ったところでルキアンへ浮き球を入れられると、ボランチのプレスバックも間に合わないため、特に柳や乾はシビアな対応を求められた。
この時間の栃木は豊田までもがブロックに吸収され、完全に押し込まれる格好となっていた。なんとかボールを持ち出せたとしても全体の押し上げが足りず孤立したところを囲まれてしまう。失点シーンは苦しい時間が続いた流れを切れなかったことが最後に形として表れてしまった印象である。乾がサイド対応を強いられるアンラッキーな側面もあったが、クロスを上げた鈴木の個人技、合わせることに注力した大井のポジショニングも流石だった。
10/17 vs. 栃木 #PickupPlay📽
— ジュビロ磐田 (@Jubiloiwata_YFC) 2021年10月17日
鈴木雄斗選手の巧みな切り返しから、最後は優しいクロスに大井選手が頭で合わせて同点弾。これが今季初ゴールとなりました。
🎬ご視聴は #DAZN で!https://t.co/ZM0z3vWWBz#大井健太郎#栃木SCvsジュビロ磐田 #UNITEFORW1N pic.twitter.com/MdMtBlWW2h
虎視眈々とタイミングを窺う
後半も磐田がボールを支配する展開で進んでいくが、苦しんだ前半終盤と比べれば前から引っ掛けたり、セカンドボールを回収してカウンターに繋げたりと栃木の狙いとする攻撃の形は作れていた。引き続き遠藤が前寄りのポジションを取っていたこともプラスに働いただろう。瞬間的にボランチ脇でフリーとなる谷内田がボールを持ち運んでから豊田へスルーパスを出したシーンはその象徴。ここではタイミングが合わずオフサイドになってしまったが、前半のように耐える一方ではないことを示したシーンだった。
虎視眈々とカウンターのチャンスを窺うなかで、後半12分には敵陣でセカンドボールを拾った流れから溝渕のクロスに豊田が合わせられず。後半18分には自陣深くからのロングカウンターを発動するもピッチ中央を駆け上がる黒崎がシュートを打つまでには至らなかった。矢野もプレーエリアをサイドに追いやられてしまうことも多く、チャンスがありながらもなかなかシュートに持ち込むことはできなかった。
一方、磐田は後半も3トップ下システムは健在。それぞれが神出鬼没にボールを受けに下りてくるため、とりわけ栃木のボランチは彼らの立ち位置にかなり翻弄されただろう。後半10分のシーンのように中央で数的優位を作られてしまいピッチを横断されてしまうこともあれば、途中出場の金子が入ってからは内側をラインブレイクする動き出しに対応する必要もあるなど、いつにも増して仕事量は多かった。
飲水タイムが明けてから栃木はジュニーニョと有馬を投入して前線の活性化を図る。チャンスの場面でのジュニーニョのFKは物足りなかったものの、プレッシングの強度を見る限りは膝の調子も大丈夫のようである。畑との関係性から抜け出してシュートを放った有馬もそろそろ一発目が欲しいところ。
磐田は終盤攻撃のカードとして怪我から復帰したファビアンゴンザレスを投入するが、それまでの流動的な攻撃が効いていたことを考えると少し悪手だったように思う。大森を投入しなかったことからFWとしての得点感覚に期待していたのだと思うが、栃木にとしてはそれまでと比べればストレスが減ったようなイメージだった。
後半はスコア動かず1-1で試合終了。最後は5バックで守った栃木が首位相手に貴重な勝ち点1をゲット。攻めに攻めた磐田は負けなしを継続したものの、連勝を伸ばすことはできなかった。
最後に
磐田はやはり強かった。個々の技術レベルや、栃木の出方を見て飲水タイム後に変化を加えた柔軟性を見れば、J2において図抜けた存在であるのは間違いない。それだけに粘って掴んだ首位相手の勝ち点1には大きな価値があるし、互いの立場を考えれば決して悲観することのないドローゲームと言えるだろう。
ただ、引き分けが御の字だとしても前半終盤の試合運びは課題である。磐田の圧力をまともに受けてしまったことで全体を押し上げる機会を創出できなかった。後半それなりにカウンターを打てたことを考えれば、失点までに何か策を見い出せれば無失点でハーフタイムを迎えられたかもしれない。
それでもリーグ最高の攻撃力を誇る相手に最小失点で抑えられたことは自信になるだろう。今後の対戦相手は町田、山形、千葉と難敵揃い。この日のように苦しい時間も粘り強く戦うことができれば、残留争いに向けて着実に勝ち点を積み上げることはできるはずだ。
試合結果・ハイライト
得点 17分 柳育崇(栃木)
44分 大井健太郎(磐田)
主審 吉田哲郎
観客 8209人
会場 カンセキスタジアムとちぎ