栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【やれることをやる】J2 第35節 栃木SC vs FC町田ゼルビア

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スターティングメンバー

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栃木SC [4-4-2] 14位

 前節は磐田に1-1のドロー。リーグ屈指の攻撃力を誇る首位相手に粘り強く戦い貴重な勝ち点1をもぎ取った。先発の変更は1人。有馬が3試合ぶりにスタメン入りし、怪我から復帰の山本は4ヶ月ぶりにベンチに名を連ねた。森は前節に続き、畑は6月以来のメンバー外となった。

 

FC町田ゼルビア [4-4-2] 7位

 前節は秋田に勝利したものの、直前の2連敗で昇格争いから一歩後退した町田。なんとか昇格戦線に生き残るためにも落とせないホームゲームだ。前節からスタメンの変更はなし。前回対戦でゴールを決めた鄭大世はベンチスタート、元栃木の森下はメンバーから外れた。

 

 

SHの立ち位置から始まる攻防

 この日の栃木は前節磐田戦を踏襲するようにミドルゾーンにブロックを構える時間が多かった。2トップはボランチの高江と佐野をケアすることに集中し、相手CBにはボールを持たせることを許容。前で奪ってからのカウンターを念頭に置きつつも、全体的にまずは背後のスペースを使わせないことを第一優先にしていた。

 ハイプレスで自らSB裏を空けてしまうリスクを避け、がっぷりよつに組む戦いを選んだ栃木だが、そのなかでもこれまでのハイプレスの一端が垣間見える部分もあった。鍵となったのがSHの矢野と谷内田。あらかじめSBにもCBにも寄せられる場所にポジションを取ることで、ボールの出処に対して素早く判断して寄せていく。SHがスイッチ役を担うことで全体のプレッシングのオンオフを上手く使い分けられていたように見えた。

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 前半の飲水タイムを迎えるまでは、このSHの立ち位置のメリットもデメリットも見えた。立ち上がりは町田のペース。町田は前述のとおりプレスの少ないCBやボランチがボール保持の中心となってボールを捌いていくなかで、序盤は主に栃木の左サイドから前進を開始することが多かった。

 立ち上がりの2分には谷内田と佐藤の間に下りてきた右SH吉尾が高江からボールを引き出す。1タッチで平戸を経由して左サイドの太田に届けると、太田は鋭いグラウンダーのクロスをゴール前に送り込んだ。続く4分には谷内田の頭を越えるボールを三鬼が受けると、平戸を経由して左SHの太田へ。太田の落としを受けた佐野がミドルシュートを放つシーンがあった。いずれもあえてSHの立ち位置を曖昧にしていることに対して逆手を取るような攻撃だった。

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 一方栃木は、町田のリズムに慣れてくると中央に差し込まれたパスを西谷と佐藤の両ボランチを中心に絡め取る回数が増えていく。このとき生きていたのが曖昧なポジションを取っていたSHである。カウンターに移った局面ではボールサイドと逆のSHは瞬間的にフリーになりやすい。特に左SHの谷内田はスペースに入ってボールを引き出すのが上手かった。局面が変わるや否や、いち早くスプリントを開始する豊田や溝渕と連携しながら縦に早く攻めていく形はトレーニングで念入りに準備してきていることが窺えた。

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消されたカウンターの起点

 栃木がSHの立ち位置を良い意味で曖昧にできていたのは、町田のSBが栃木のプレッシングを引き出そうと低めのポジションを取っていたからである。SHはボールが自身を越えたらプレスバックすれば良いため、それなりに強気のライン設定をすることができた。

 ただ、飲水タイムを経てからはそうもいかなくなってくる。この日の栃木があまり前からのプレッシングにこだわってないことを確認すると、町田はボランチの一人を最終ラインに下ろし、SBを押し上げる形に可変。これにより栃木のSHはそれまで見ていた相手(CBとSB)の距離が少しずつ遠くなってしまい、ジリジリと立ち位置を下げざるを得なくなっていった。はじめはCB高橋の左側に高江が下りてくることが多く、高江が出し手となって同サイドの太田を生かす形が多かった。

 こうなると栃木にとって苦しいのがボールを奪った瞬間である。序盤の攻撃を牽引したのはボールサイドと逆のSHだったが、自陣に押し込まれてしまうとポジションを上げる余裕がないためカウンターの経路が成り立たなくなってしまう。とりわけ栃木のカウンターにおいて重要な存在であった谷内田がSB三鬼のポジショニングにより最終ラインに吸収されてしまったのは痛恨だった。

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 栃木としてはカウンターの布石を消されてしまったことで攻撃で盛り返す時間を作れないことが苦しかった。それでも守備のスライドが途切れることはなく、ゴール前の献身的なシュートブロックも含めてなんとか凌いで前半終了。0-0でハーフタイムを迎えた。

 

 

守備強度を優先

 後半も町田がボールを握り、栃木が耐えつつカウンターを窺うという構図は継続。ただ、前半と比べれば栃木は前から行こうという姿勢がいくらか強くなったように見えた。苦しい前半を踏まえて押し込まれ過ぎないようにとのアプローチだろう。

 前からプレッシングをかけるにあたって手綱を握っていたのはボランチの2人。トップの選手主導でプレスをかけるのではなく、プレスのタイミングや寄せる角度を後ろから指示することで、ボランチが主体的に前線の選手を押し出していくイメージだった。佐藤から豊田へのコーチングが中継を通して聞こえてきたシーンがあるので時間のある方は確認してほしい。

 豊田や有馬の片方を前に押し出したときはボランチが列を上げて相手ボランチへのパスを牽制する。ここまで2トップが背中の選手に気を取られていたところをケアすることで、前からの守備を復活させて重心を上げようという狙いだった。

 一方町田は栃木のボランチの可動域が増えたのを見て平戸が中盤に顔を出す機会を増やしていく。栃木の前線の背後でボランチに寄せられないようにボールを引き出すと、逆サイドに展開することで上手く栃木の網を掻い潜っていくシーンが何度かあった。

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 平戸や吉尾らに中盤に起点を作られたときや、最終ラインにプレスがかかってないときには、やはりサイドに揺さぶられることが多かった。谷内田を早めに交代させた理由として守備強度を維持したかったことを上げているが、サイドを巧みに振り分ける町田のビルドアップに対して早めにフレッシュな選手で手を打ちたいという意図は理解できる。後半プレッシングを修正した15分間においてなかなか攻撃のトリガーになれなかったのも大きいかもしれない。

 町田も町田でボールを握りながらもなかなかエリア内に侵入するほど決定的なチャンスを作ることはできなかった。鄭大世や岡田など攻撃的なカードを切ってからはシンプルに途中出場選手の特徴を生かそうとしていたが、最後の局面では近くの選手との即興的な攻撃が多く、ゴールを脅かすには至らなかった。

 栃木も攻撃的なカードを中心に切っていくが前の選手が守備に奔走することも多く、カウンターの経路とするべき逆SHに預けられない場面や、ジュニーニョや黒崎が自力で持ち運んだ先て孤立してしまうなど、攻撃のチグハグさは否めなかった。攻撃の形が作れずに時間が経過していくと85分以降には三國を投入して5バックに変更。勝ち点1を意地でも持って帰る割り切った戦いにシフトした。

 後半アディショナルタイムには乾がエリア内で二度のピンチを体を投げ出してブロックするなど最後まで粘り強い戦いを披露。なんとか町田の攻撃を凌ぎ、アウェイで貴重な勝ち点1を持ち帰ることに成功した。

 

 

最後に

 もちろん勝てれば良かったが、この試合で勝ち筋を見つけるのは難しかったように思う。谷内田を起点としたカウンターも十分なクオリティを発揮できなかったし、頼みの綱であるセットプレーもその機会自体が少なかった。なによりシュート2本では相手ゴールを脅かすのは難しい。

 それでも勝ち点1を掴むことができた。割り切った戦いを選択しても耐えきれないチームがあるなか、失点ゼロに抑え込める渋とさが今の栃木の強みである。同じく残留争いを戦った2019年ほどスタイルチェンジに派手さはないものの、残留争いを現実的に乗り切るためのアジャストが田坂監督は絶妙である。

 リスクを冒して勝ち点3を目指すことも大事だが、下位との差を縮められないことも大事。今後も一つずつ着実に積み上げていければそう遠くないうちに安全圏に辿り着けるはずだ。

 

 

試合結果・ハイライト

栃木SC 0-0 FC町田ゼルビア

得点 なし

主審 岡宏道

観客 3542人

会場 町田GIONスタジアム