栃木SCのことをより考えるブログ

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【歯がゆさを目標の糧に】J2 第32節 栃木SC vs 大宮アルディージャ

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スターティングメンバー

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栃木SC [4-4-2] 14位

 前節は首位京都相手に善戦したものの、巧みな試合運びを前に敗れた栃木。5試合ぶりの敗戦となり残留争いから一歩抜け出すことはできなかった。前節は契約上の理由で出場できなかった谷内田が左SHに復帰。森は再びベンチスタートとなり、松岡がメンバーから外れた。

 

大宮アルディージャ [4-2-1-3] 17位

 残留争いを戦う強豪は復調の兆しを見せている。前節は馬渡のFK弾で相模原との直接対決に勝利。ここ5試合で3勝目をマークし、降格圏からの脱出を決めた。好調を維持するべく先発の入れ替えはなし。ベンチには7試合ぶりに石川が入り、前回対戦で得点をあげたイバはメンバー外となった。

 

 

押し込めた背景

 大宮とは過去9試合対戦して1勝4分4敗。初対戦から4連敗したため大きく負け越しているが、ここ5試合に限っては負けておらず、むしろ相性の悪くない相手という印象がある。このカードの特徴はロースコアになりがちなところ。2015年に栃木が0-2で敗れた以外は一方のチームが複数得点をあげたことはなく、現在の両チームの立場を踏まえれば今回もその傾向は変わらないと思われた。それだけにミスから与えた早々の失点は単なる一失点以上の重みがあった。

 早い時間での先制点が影響したのか、この日の大宮は最終ラインがかなり低かった。初めから重心を下げているというよりは押し込まれるとなかなか押し上げられないイメージだった。

 よって栃木は一度相手を押し込むことができれば二次攻撃、三次攻撃に繋げることができていた。味方のクリアボールに反応する河田には柳と乾がチャレンジ&カバーで対応することで起点を作らせない。ここは前節のウタカを経験していることも大きかったように思う。

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 栃木のロングボールは大宮のSB裏を狙うものがほとんどだった。特に多かったのが左SBの松本のところ。中央から有馬が斜めに走り出してスペースでボールを貰ったり、畑のフィジカルを生かしたキープなどからサイド奥を取っていく。ここ数試合と比べて西谷を経由してサイドを揺さぶる回数が少なかったのは、サイドでの細かい繋ぎからクロスに至ることが多く、また畑や黒崎が単独でCKに持ち込めていたからだろう。前半21分の黒崎の裏街道は見事なので見てほしい。

 

 

攻守の成否の生命線

 試合前に相手の土俵ではプレーしないと霜田監督が語ったように、大宮の狙いはプレッシャーをかける栃木に対してどうビルドアップするかだった。具体的にはスペースとフリーの選手を見逃さずに前へ進められるか。対する栃木もそこは承知の上。とりわけ前半29分から32分にかけてはその駆け引きの一部が垣間見えるものだった。

 前半29分、GK南からのビルドアップで松本に預けると、畑はプレスのターゲットを西村から松本に変更。これにより黒崎はステイして柴山のマークを継続。中盤を見ればよくなった西谷は松本から斜めに入るボールに寄せることで菊地のトラップミスを誘うことができた。

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 続く前半30分には、大宮は三門を西村の左側に下ろす形でスタート。そこに合わせるように栃木はプレッシングを開始し、この場面では松本に対して長い距離を走った黒崎がアプローチ。このとき西谷は柴山のケアに行っていたが、中盤のスライドが機能していたため佐藤は松本から斜めに入るボールに寄せることができた。再び菊地のミスを誘ったこのシーンはショートカウンターの起点にもなった。

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 前半32分にはGK南からパスを受けた西村が内側に下りてくる柴山へ縦パスを供給。入れ替わるようにスペースに抜ける菊地には西谷がついていった結果、柴山は前向きでボールを受けることができた。おそらく大宮のセオリーはここから逆サイドに広げること。ここでは柴山が後ろに下げてしまったが、右側で河田が両腕を広げてアクションしていたことを考えれば栃木としては助かったシーンと言えるだろう。

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 大宮は両WGをタッチラインぎりぎりに張らせることからも、とにかくピッチを広く使って栃木を揺さぶろうという狙いはあった。前述の複数のシーンも中央で起点を作れれば逆サイドに開くことまでが基本セットだっただろう。栃木はそれを踏まえた上で、プレスをかけながらも上手く中央を消す守備を実行。セカンド争いも含めて中央での球際勝負では栃木が強引に前に持ち出せるシーンが多かった。

 栃木目線でもそこは攻守の生命線だったと言える。引っ掛ければカウンターの起点になれるし、そこが少しでも乱れれば簡単に逆サイドに展開されてしまう。プレスを受ける松本から1タッチで放り込まれたロブパスを柳が後逸したシーンがその一つ。ここでは中央の河田に収められ右サイドに開かれてしまった。いかにピッチを横断させないかが守備の鍵だった。

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センターバックvs河田で決まる形勢

 後半立ち上がりに生まれた互いの得点は、栃木のCBと河田の勝負結果がそのままスコアに表れたといえる。

 大宮の追加点となった後半6分のシーンでは、河田のポストプレーに対してCB二人がアタックにいけていない。落としを受けた黒川が縦パスを入れて攻撃が加速すると、そのスピード感のまま菊地にGKとの一対一を沈められた。

 その一方、谷内田の得点は前半同様チャレンジ&カバーを機能させたことで敵陣に押し込む展開を作った流れから生まれている。相手の股下を通してからのピンポイントクロスでのアシストは芸術点が高い。前半は裏街道を成功させるなど黒崎の動きはキレていた。谷内田にとっては記念すべきプロ初ゴールとなった。

 

 栃木のCBと河田の攻防は大宮のビルドアップにおいても頻繁に見られた。前半の大宮は逆サイドに開くための中継地点をトップ下の菊地や潜ってきたWGが担うことが多かったが、後半はその役割を河田が引き受けるように。河田の身体の強さを生かしつつ、下りてくる動きを合わせることで中央での起点を作りたかったというところだろうか。

 それに加え、後半の大宮で目立ったのがビルドアップのスタート位置でGK南のすぐ隣に三門を配置していたこと。ボールを受けた三門は左右どちらに預けても、ハイプレスから栃木のSHを引き出せる構図になる。芋づる式に空いた中央に入れることで、こちらも中央での起点づくりに一役買っていた。大宮は三門が南の左側に立っていたこと、よりパスの出し手としてプレーできるのが西村と松本だったことから河田とマッチアップするのは柳が多かった。

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 CBは移動距離が自ずと長くなるが、この構図でのハイプレスはことごとくはまっていた。そしてほとんどが敵陣でのショートカウンターに移行できていた。奪ったボールはペナルティエリアの幅で縦に速く攻めていく。中央へ突破したり、サイドをチラつかせながら内側に切り込んでいく攻め筋は、これまでの栃木が積み上げてきたスタイルだった。

 途中出場の矢野、森が入ってからも同様で、ショートカウンターに加えて有馬を中心にサイド奥へボールを引き出す動きや、間延びすれば大宮のボランチ脇をSHが突くことで、押し込むための道筋は十分確保できていた。栃木にとって良い時間帯を過ごすなかで、それだけに何気ないセットプレー一つで穴を開けられた3失点目は痛恨だった。

 

 再び2点のビハインドを背負った栃木は松本と植田を投入し、ボールを握った展開での圧力を高めていく。[5-4-1]でゴール前を固める大宮に対しても植田のアクションからサイドを崩しかけた点は収穫。栃木のスタイルを習得しつつある植田が見せたパフォーマンスは、短い時間ながら今季ベストだったと思う。

 

 試合はこのまま1-3で終了。栃木は2連敗で3試合勝ちなし。大宮は相模原・栃木と直接対決で連勝を飾り、一気に14位までジャンプアップした。

 

 

最後に

 この試合の感想としては「勝つことだけができなかった」が相応しいだろう。相手を自陣に釘付けにする場面は数多く、シュートも相手の4倍となる20本を放った。おそらくシュート数は今季最多だと思うし、攻撃の時間の長さがそのまま支配率にも表れたのだと思う。

 それだけに結果がついてこなかったのが惜しい。京都戦のような力負けならまだしも、試合の要所とセットプレーから許したリードで簡単に屈してしまったのは、チームの勝負弱さを表すに他ならない。栃木は元来守備の堅さがベースにあるチーム。どんなに劣勢でも耐え切れれば栃木のゲームなのである。長いトンネルを抜け出すきっかけとなった愛媛戦で見せた、死にものぐるいでボールに食らいつく守備には心を打たれた人も多いだろう。不格好でもそのような姿勢を強く続けることができれば、残留の光は大きく見えてくるはずだ。

 

 

試合結果・ハイライト

栃木SC 1-3 大宮アルディージャ

得点   4分 西村慧祐(大宮)

   51分 菊地俊介(大宮)

   57分 谷内田哲平(栃木)

   83分 河本裕之(大宮)

主審 岡部拓人

観客 4861人

会場 カンセキスタジアムとちぎ