はじめに
前節長崎戦はエラーの連続とそれによるトーンダウンで惨敗を喫した栃木SC。今節の相手はここ7試合勝利のないFC岐阜。20位vs21位と、今後の行く末を占いそうな一戦は栃木のホーム、グリーンスタジアムにて行われました。
スタメン
栃木は前節長崎戦からスタメンを4人変更。「栃木SCのために戦える」選手をチョイスしたという田坂監督。途中出場が続いていた田代は今季初先発、浜下は第2節以来、大島は第7節以来のスタメンとなりました。フォーメーションは[4-4-2]。
4連敗、その間得点なしと元気のない岐阜。前日の結果を受け、暫定で最下位に沈むなど、早く浮上のきっかけを見つけたいところでしょう。今節はここまで多用してきた[4-3-1-2]ではなく[4-2-3-1]を採用。前線にはタレントを擁しているものの負傷者が続出し、若い選手の多いメンバー構成となりました。
前半
「短」だけではなく「長」という選択肢
岐阜のサッカーというととにかく細かいパスで局地的に数的優位を作りながら、たまらず出てきた相手守備のギャップを突いて前進していくという印象があります。下位に沈みながらもパス数、パス成功率がリーグトップクラスなのがその証左であり、大木監督のサッカー観の浸透が読み取れるここまでの結果になっています。
ボールをある程度持たれることが予想される栃木は、むやみにプレスをかけ過ぎず、ブロックを崩さぬよう相手の出方を伺いながらカウンターを狙うといったプランで試合に臨みました。
では試合へ。
実際に試合が始まると、岐阜は予想した以上に前線に長いボールを供給してきました。そのターゲットは右SHの粟飯原。栃木は左SB西谷優希が対応しますが、CBやCHから早いタイミングで繰り出される背後へのボールに手を焼いているように見えました。
ではなぜ岐阜はこれまであまり用いなかった戦い方を採ったのか。次の3つの理由があったからと思いました。
①西谷優希に対する粟飯原の質的優位
②ピッチコンディションの悪さ
③何が何でもゴールというメンタル的側面
まずは①西谷優希に対する粟飯原の質的優位について。質的云々は分かりにくいので、平たく言えば、粟飯原の攻撃vs西谷優希の守備のとき、粟飯原に分があると考えたから、といったところです。
西谷優希はシャドーやSHなど攻撃的なポジションを本職とする選手です。しかし栃木では、左SBに怪我人が続出したという消極的理由、弟和希との共演をしやすくするという積極的理由から、左SBや左WBにコンバートされて起用されています。そのため素の守備力はそれほど高いとは言えません。
岐阜はまずはそこを突いていこうしていました。ロングボールでの供給が多かったのは身長差(西谷優希=165センチ、粟飯原=178センチ)を考慮してのものと考えられます。
次に②ピッチコンディションの悪さ。これは栃木も開幕から苦しんでいるところで、その悪さは戦い方にも影響が出てくるほど。特に足元で繋いでいこうという、岐阜のようなチームには致命的な部分でもあります。そのため岐阜はリスクをかけずに現実的な手段で前進することを選んだとも言えます。
最後に③何が何でもゴールというメンタル的側面について。岐阜はここまで総得点「5」。これはリーグ最小の数字です。前節の試合後や今節の試合前も語ったように、大木監督は点を取ることが浮上の引き金になると考えています。そのようなメンタル的アプローチもあり、チーム全体のベクトルはここ数試合のなかでは最も前を向いていました。そのため、シンプルにストロング(粟飯原)を生かそうといった展開になり、併せて積極的にミドルシュート打っていく場面も見られました。
右サイドを起点にしようという意識が共有されていた岐阜。西谷優希は自陣に押し込まれる時間が増え、なかなか攻撃に転じることができませんでしたが、岐阜のエリアの中に入っていくアイデアが乏しかったこともありピンチのシーンはそれほどなく。逆に栃木は、少ないチャンスから大黒が35分と42分に立て続けにシュートを打つなど、自らアクションしていくプレーが見られました。
前半は流れからのミスはなく、岐阜にボールを保持されても「攻めさせている」といった感覚のなか試合は進んでいきました。
栃木のCKにおける守備に何が起こっているのか
ミスのない守備のなか、かえって目立ってしまったのがCKにおける守備の場面。二度の決定的ピンチを凌いだものの、前節長崎戦ではCKから2失点を喫しているだけに、間違いなく問題は生じています。なぜここに来てセットプレーから弱点を露呈してしまっているのか。
前半12分、岐阜の一本目のCKのシーン。
栃木はCKの守備において、ゾーンとマンツーマンを併用しています。ゾーンディフェンスはストーン役の大黒と中央の田代。西谷和希と浜下が少し距離を開けて岐阜の選手を見ていることを考えれば、残りの選手はすべてマンツーマンでのディフェンスになります。
セットしたポジションからシュートに至るまでのシーン。
ここでは4vs4になっていたところから2人がニアサイドに、2人が中央~ファーに流れ込み、岐阜④甲斐が栃木⑲大島に競り勝ってヘディングシュート。1vs1の競り合いに勝ったことでゴール正面でのヘディングとなりましたが、ここは間一髪。田代が奇跡的にブロック(当たった?)し、CKへ逃れました。
続いてのシーンも栃木は同様に守備をセットします。
このシーンでは、ニアに走り込んだ岐阜の選手がマークを振り切り大黒の前でフリック。その瞬間、マンツーマンで付いていた⑭西谷優希と④藤原がボールウォッチャーになったことでマークを離してしまい、最後は岐阜⑮会津がシュート。これは枠の上に外れましたが、無人のゴールに2人をフリーにしてしまう1点もののエラーを犯してしまい、あわや失点というピンチを招いてしまいました。
前節長崎戦もそうでしたが、栃木は2つ目のシーンのようにニアフリックに対して非常にボールウォッチャーになりやすいところが最大の課題と言えます。
マークに付いていたものの高さ勝負に負けた、というものであれば、ある程度納得できます。1つ目のシーンは、どちらかと言えば競り負けにあたると思います。ただ、2つ目のシーンについては、完全なマークミス。長崎戦の失点の再現を見ているようでした。
正直ニアフリックは大抵の相手に対して効くイメージがあります。栃木も京都戦ではこの形から決めています。だからこそここはもう少しタイトに行きたいところ。ダブルストーンであったり、相手をニアに行かせないコース取り、など策はいくつかあります。相手は栃木を攻略するうえで、CKをキーにするでしょうし、ここは早めに手を打っておきたいところです。
後半
恐れない姿勢が生んだゴール
後半立ち上がりの10分、ついに栃木が均衡を破ります。
古波津の縦パスを大島が落とすと古波津がさらに岐阜のSBイヨハ裏のスペースに浮き球パス。いち早く浜下がボールに追いつくと、切り返しから左足でクロスを供給。中央では岐阜の選手と栃木の選手が2vs2の同数となっており、見事な動き出しから大黒がヘディングシュート。これがネットを揺らし栃木が先制に成功しました。待ってました、この瞬間。
【4/28 岐阜戦】
— 栃木SC公式 (@tochigisc) 2019年4月28日
浜下瑛の切り返しから最後は大黒将志⚽️
この時を待ってました🌟追加点に期待です💪#栃木SC #FC岐阜 #栃木_岐阜 #全員戦力 pic.twitter.com/AO2tpaK5VR
サイドからのクロスは前半から一定の効果を見せており、中央の枚数を確保できる2トップを採用したプランからしても、まさにスカウティングどおりといった先制弾になりました。
古波津の縦パスの意識、逆足になることも厭わない浜下のプレー選択によりもたらされた先制点。前への意識、恐れない姿勢から生まれたこのゴールに、スタジアムは「求めていたのはこれだ!」と言わんばかりの盛り上がりに包まれました。
再三の右サイド攻撃に倒れた栃木
先制後、栃木はへニキのヘディングシュートや大黒のボレーシュートなどからゴールに迫るなど、ホーム初勝利を求めるサポーターの声に応えるように押せ押せの展開に。しかしなかなかゴールが奪えません。こうなると怖いのが岐阜の一発。後半20分前後から岐阜がペースを取り戻すと、ついに後半40分、失点を許してしまいます。
失点に至る直前のシーン。
岐阜CBのボール保持時、耐える時間の長くなっていた栃木はできるだけ押し込まれたくないという心境からか、積極的に前からプレスをかけました。
しかしそのプレスは不十分なものに。マッチアップの原則を崩し兼ねないプレッシングへのリスクヘッジもなく、芋づる式的に対応に行った藤原は粟飯原に綺麗な反転からスペースを明け渡すと、最後は山岸の右足シュートで万事休す。再三の右サイド攻撃にあと5分耐え切れれば勝利という状況でしたが、流れのなかから唯一と言っていいほどのエラーにより失点を許してしまいました。
試合はこのまま1-1のドローで終了。栃木は6試合、岐阜は8試合勝利なしという結果に終わりました。
最後に
試合終了後に選手に向けられたブーイング。ブーイングの是非に対しては言及しませんが、この試合だけを切り取って見れば、気迫も迫力も、闘う姿勢も十分感じ取れる試合内容でした。失点時間を考えると、あと一歩で勝利を逃した試合でしたが、チャンスの数を見れば引き分けもやむ無しといった印象です。
ただ、それでもブーイングが起こったのはしばらくホームで勝利がないから。もう勝たなければ危ないという危機感からでしょう。
いずれにせよサポーターはどんな形であれ背後にチームへの期待を携えながら闘っています。苦しんだ後の勝利が格別なのは言うまでもありません。その勝利を全力で喜べるように。変わらぬ姿勢でサポートし続ける姿勢を今、問われているような気もします。
試合結果
得点 56’大黒(栃木)、85’山岸(岐阜)
主審 佐藤 隆治
会場 栃木グリーンスタジアム
観客 4,799人
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