栃木SCのことをより考えるブログ

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【戦術を機能させるためには】栃木SC vs V・ファーレン長崎(●1-3)

はじめに

前節柏戦はチーム全員が粘り強く闘い、3試合ぶりにクリーンシートを達成した栃木。今節は引き続き降格組の長崎を迎えます。前節得た守備の自信をベースに、攻撃をどう上積みしていくか。序盤戦とはいえ降格圏にはできるだけ足を入れたくない栃木にとって、初勝利もかかる大事なホームゲームとなりました。

 

 

スタメン

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ここ数試合、相手の形に応じて最終ラインを構成している栃木。この試合は長崎の4バックに合わせて[4-2-3-1]のフォーメーションを採用しました。前節からスタメンの変更は一人。右SB福田に替わり久富が入っています。

 

前節は岐阜を4得点で粉砕した長崎。序盤戦こそなかなか点が取れず下位に沈んでいましたが、ここ2試合は計6得点をマーク。そのほとんどがFWの選手から生まれており、チームとして攻撃の軌道が乗ってきた印象です。スタメンは変わらず、ベンチには高杉が今季初のメンバー入りとなりました。

 

前半

長崎の鮮やかなセットプレー

前半8分、試合は早々に動きました。

長崎CKでのリスタートの場面。左のコーナーアークから大竹がアウトスイングでボールを供給すると、岩間に競り勝ったイサンミンが後方へフリック。フリーになった香川が冷静にヘディングで流し込み、長崎が幸先よく先制しました。

 

両チームのキャラクター、そして過去の対戦成績を見れば、一点を争う固い試合になることは十分予想されました。しかし文字通り出鼻をくじかれてしまった栃木。柏戦で見せた堅守は何処へ、と嘆きたくなるような失点劇に「ああ、またか...」とスタジアム全体のボルテージがトーンダウンしたような印象を受けました。それくらい長崎のセットプレーは美しくデザインされていたものでした。

 

栃木はCKの守備はマンツーマンをベースに、ニアにはストーンと呼ばれる選手のほか数人がゾーンでボールを跳ね返します。その攻略として長崎は、ボールがエリア内に到達するまでの短い時間のなかで連動してマンツーマンを剥がし、選手の少ないファーにできたフリーマンをフィニッシャーとする狙いを持っていました。よく見ると大竹のキック時、フィニッシャー役の香川は密集の外、エリアの端でフリーになっています。オフサイドで取り消しとなった前半26分のCKのシーンも、この時は寺田が香川番をしていましたが、ベクトルがニアに向かってしまい、ファーに走り込む香川は初動の時点でフリーになっていました。

 

入念に準備されたセットプレー。これがあまりにも綺麗に、再現性をもって行われてしまい、チームは意気消沈。脳裏に焼き付いた柏戦の良い記憶が、かえって傷を深めてしまうような立ち上がりとなり、チームとして挽回しようとする覇気はすでに薄れかけているようにすら感じられました。

 

 

両SHのポジショニングを巡る攻防

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長崎はオーソドックスな[4-4-2]でした。両SHが内側のハーフスペースに入ることでSBのオーバーラップを生かしつつ、時折玉田が下がりながら、全体で中盤の人数を増やして攻めるといった仕組みでした。

そんな長崎に対して、栃木はマッチアップベースの[4-4-2]ブロック。トップ下寺田が大黒と同じ高さを取りました。このとき2トップのタスクは長崎CHへのパスコースを消すこと。中盤の密度を高めてくるならそもそも中盤は使わせない!といったイメージです。

これによりサイドにボールを誘導させるわけですが、面白かったのが守備時のSHの役割。マッチアップを軸にするのであれば、SBにボールが渡ったら一目散にSHがプレスを行います。しかしここではまずは中央のコース消しを優先。ハーフスペースに入る長崎SHに対してはSHが内側に入りながら対応することで、まずは中央を切っていこうというプランが共有されているように見えました。

 

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しかし、その完成度はそれほど高くなく。前半17分のシーンでは、長崎の右SH大竹がハーフスペースを越えて中央レーンを取った際、左SH西谷和希はプレスの行き場を失っているように見えました。そのまま、長崎右SBの亀川にボールが渡ると、前進を止めるため栃木は左SBの西谷優希が対応することとなります。その後、背後の空いたスペースを長崎に使われるといった芋づる式的な崩されてしまいました。

栃木は岩間が付いて対応したため大事はありませんでしたが、ゲームプランとして中央を使わせないことを掲げるなかで、バイタルエリアを簡単に空けてしまうといった点は、今後改善していく必要がありそうです。

 

 

試行錯誤はしているものの

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前半の立ち上がりから失点を喫した栃木。どうしても失点が混むとメンタル的に重心が下がってしまうもので、前半はアタッキングサードに侵入できたのも数える程度でした。

後ろを3枚にしてへニキも交えた4vs2で数的優位を確保しながらも、これ以上の失点を避けたい心境のDF陣はボールのリリースが早く、ビルドアップでの貯金を前方に送り出せず。リードする長崎は4-4のブロックを維持しながら栃木の攻撃が終わるのを待てばよいだけで、栃木はサイドにボールを入れても効果的な前進はほぼできていませんでした。しまいにはトップ下の寺田がDFライン付近でボール捌きをサポートするなど、よりゴール前での迫力が減り、攻撃が全体的にチグハグに。3失点目を許してからは、それがさらに顕著になるなど悪循環のまま前半を終えることとなりました。

 

 

後半

生まれ変わった後半

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後半開始とともにへニキ、森下に替えて浜下、田代を入れた栃木。[4-2-3-1]の形はそのままに、人を替えて3点ビハインドからの打開を図ります。

すると、ハーフタイムに田坂監督から相当の激を入れられたのでしょう。後半立ち上がりから栃木は溌剌としたアクションを見せます。

攻撃の急先鋒となったのが途中出場の浜下。後半最初のプレーからドリブルで強引に突破しCKを獲得。その後も自陣深くや、長崎のMF-DFライン間でボールを受けると、1人2人をドリブルで抜いていくなど後半の攻撃を最も牽引する存在でした。

 

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前半トップ下だった寺田が痺れを切らして下りて来ていたことを考えれば、同じポジションに入った浜下は、ポジションにシンプルに、前線の選手としてプレーしていました。もちろん、プレースタイルの違いによるものなので優劣をつけるものではありませんが、精神的に縮こまった前半からの立て直しを図るには、うってつけの交代策だったと思います。

チームとして前へのベクトルが高まると、それによりSBも攻撃的な立ち位置を取れるようになり、最終ラインのビルドアップも4人が形を変えながら余裕を持って組み立てることができていました。3点をリードする長崎が無理にプレスに来なかったことは考慮する必要はありますが、分厚い攻撃で長崎陣内に押し込み、カウンターに移行する隙も与えないネガトラや守備意識の高さに、前半とは対照的な、田坂監督がやりたいのはこんなサッカーなのだろうという理想像が見える展開になりました。

 

左サイド密集攻撃の有効性と課題

後半は攻める栃木、耐える長崎といった展開になりましたが、栃木の攻撃はやはり武器とする左サイドから繰り出されるものに比重が置かれていました。言うまでもなくその中心は西谷ツインズ。双子のプレー感覚は非常にシンクロしていて、そこにCHや他の2列目の選手が絡む攻撃は、今のところ最もゴールの匂いがする攻撃だと思います。

個人的に面白かったのは弟和希のパスを最も受けているのが兄優希というところ。和希がタッチライン際でタメを作りながら優希の上がりを促しつつ、相手の裏を取るパスで一気にペナ横へ、といった形が多く、また優希を囮に和希自身がカットインする形も兼ね備えており、ミドルサードからアタッキングサードにかけての攻撃はこの2人の存在により多彩さを生んでいました。

 

課題はアタッキングサードに侵入してからの部分。この試合、優希がサイドからクロスを入れるも弾かれるといった場面が多く、また和希のカットインもその後のコースを切られて奪われてしまうなど、なかなかすっきりと完結できていない印象でした。理想形はやはりPKを奪ったシーンで、今後このような形がどんどん出てくれば、より武器になってくると思います。西谷ツインズの攻撃は栃木の攻撃のバロメーターと言っても今やもう過言ではありません。

 

最後に

結果は1-3の惨敗。後半盛り返した栃木を強かにいなす長崎の試合巧者ぶりも見える試合となりました。

やはり栃木の課題は前後半でのチーム全体のテンションの差。長崎の出方を考慮しても、なぜ後半のような積極性を前半は出すことができなかったのか。

イタリア、セリエAユベントスの指揮官アッレグリはよく「サッカーをするのは戦術ではなくプレーヤーだ」と言うそうです。彼はあくまでサッカーを、ディテールまで詰めた組織的な戦術でクオリティを高めるのではなく、選手が気持ちよくプレーすることでクオリティは生まれてくるものとして捉えています。そのため戦術を機能させるための根底はメンタル的な部分、とりわけ選手のモチベーションに由来するところが大きいと考えています。

監督とはアナリストとしての側面と、モチベーターとしての側面の両輪があって初めて結果を出せるものだと思います。

失点はどんなにも恐れても完璧にゼロにすることはできません。それならば失点は仕方ないものとして、失点を受け入れた上でのメンタル的アプローチが最も必要なのではないでしょうか。

連敗を喫した試合後、柏戦の前の週の練習から選手へのアプローチを変えているそうですが、今週はどのような練習を行ったのでしょう。その結果は次節岐阜戦で見えてくると思います。

 

 

試合結果

J2 第10節 栃木SC 1-3 V・ファーレン長崎

得点 栃木=90+2’大黒(PK) 長崎=8’、22’香川、40’呉屋

主審 榎本 一慶

会場 栃木グリーンスタジアム

観客 3,947人

 

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