栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【避けられない結末】J2 第26節 栃木SC vs レノファ山口FC

スターティングメンバー

栃木SC 3-4-2-1 18位

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 3週間ぶりのリーグ戦となった前節はアウェイで熊本に勝利。セットプレーから大森と宮崎が得点を挙げ、守ってはGK丹野を中心にクリーンシートを達成した。これで順位は18位に浮上。残留圏内の17位と1ポイント差まで詰めることに成功した。

 前節からのスタメンの変更は2人。川名と負傷したラファエルがメンバーを外れ、森と大森が先発入り。福島は前節プレーした右WBから左CBにスライドし、ベンチには柏から新加入の山本桜大が入った。

 

レノファ山口FC 4-4-2 5位

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 リーグ戦中断明けの初戦はホームで大分と対戦。前半に河野、後半にヘナンが得点を挙げると、相手のシュートをわずか3本に抑えてクリーンシートを達成。1万人を超える大観衆の前で今季の好調ぶりを示すような快勝を飾った。

 前節からのスタメンの変更は2人。田邉に代わってボランチに入った佐藤謙介は8試合ぶりに先発。野寄に代わって若月が入り、前節トップの河野は左SHで先発となった。

 

 

マッチレビュー

■序盤の潮目を読み切って先制に成功

 中断明け初戦を2-0で快勝した両チーム。遠方アウェイが続く栃木にとっては残留圏内浮上に向けてもうひと踏ん張りしたい一戦となった。

 立ち上がりは長いボールから素早く敵陣に入っていく狙いを見せる両チーム。山口は夏の移籍市場で獲得した酒井がターゲットとなり、主に左サイドに流れて起点を作っていく。空中戦で無類の強さを発揮していた梅木の後釜として加入した酒井だが、同様のタスクを与えられているようだった。

 その酒井に向けて山口は徹底して長いボールを供給。シンプルに高さで競わせることもあれば、森の背後のスペースにロングパスを入れる形もあり。森がダブルチームを組もうと下がれば後ろで新保がフリーになるため、山口としては左サイドにボールを集めるメリットは大きかった。

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 よって栃木は右サイドから押し込まれることになるのだが、回収したボールを左サイドに逃がしていく作業はそれなりにスムーズにできていた。宮崎がフィジカルを生かして縦パスの受け手となりボランチ勢が近い距離でサポートする。シャドーも含めた中央4枚は距離感が近く、ショートパスで左の大森まで広げることができていた。

 しかし、山口もここへの対応は非常に早かった。基本的には全体がボールサイドに圧縮しているのだが、逆サイドのSBはやや外寄りで栃木のサイドチェンジを警戒。栃木は大森に預けても対面の前貴之が早めに縦を切ってくるため、思うように前進できず。福島は吉岡の前向きの圧力を受けてアバウトに蹴り出すか、同じくプレスを受ける横の選手に預けるしかなかった。

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 山口の長いボールと縦切りプレスに対して栃木は長いボールで回避するため、試合は自ずとアップテンポな展開に。意図的に試合のペースを上げているという意味では山口が主導権を握ったといえる立ち上がりだった。

 しかし、先制点を決めたのはやや押されていた栃木だった。17分、山口の後方の繋ぎを神戸が引っ掛けるとショートカウンターを発動。ゴール前で奥田→神戸と繋ぎ、最後は大島が落ち着いてゴールに流し込んだ。この日初めて繋ぐ気配を見せた山口であったが、そこを落とし入れた栃木のプレスが上回ったシーンだった。

 山口はチームとして15分を過ぎたあたりから自陣からの繋ぎを織り交ぜるプランだったのだろう。保持の局面では相田と河野が流動的にピッチを動き、佐藤と前貴之がバランスを取る。失点後も飲水タイム以降もそうした形でボールを握る場面はよく見られた。

 

 

■際の部分で隙を見せる

 保持を工夫する山口に対して栃木の守備はまずまず機能していたと言えるだろう。やみくもにプレスをかけるのではなく全体が繋がってゾーンを組み、ボールホルダーに順々にプレスをかけていく。長いボールを蹴るなら蹴り出すタイミングに合わせて最終ラインを下げて前向きに弾き返す。山口にボールを握られる一方で、被シュートは少ない本数に抑えることができていた。

 しかし、失点シーンではそうした守備が機能しなかった。1失点目はプレス連動が遅れたことでボールを前に運ばれると、そこからクロスを許して失点。2失点目はボールサイドへのアプローチが弱いまま中盤を割られると、サイドからクロスを上げられて失点した。

 チームスタイルを考えれば特に1失点目は痛恨だった。ボールサイドへの寄せは強度も大事だが、強度を十分に発揮するためにスプリントを開始するタイミングを見極めることも同様に重要である。

 失点直前にフォーカスすると、ロングボールの出し手である板倉に対して奥田はサイドを限定するようにプレスをかけているが、板倉自体に強い圧力がかかっていない段階で大森がスタートを切っているため、後方は準備が整っていない。福島は一つ遅れてサイドの選手に寄せることになり、そこで先に触られると、次の局面でボールに対して優位なポジションを取っていた若月に対して平松が入れ替わられてしまった。

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 2失点目は相手に簡単にボランチ間を割って行かれ、押し込まれてからの守備対応も全体的に後ろに重かった。直前に勝ち越し点を挙げ、また前半終了間際でもあったことから受け身に回ってしまった印象だった。栃木が後ろに重いのを見るや、ニアで潰れ役を買って出た前貴之は地味ながら大きなプレーだった。

 栃木としては2点目を取るまでの試合運びは決して悪くなかった。山口の保持に対抗するように奥田やボランチ勢が時間を作り、宮崎のポストプレーを起点に左右に広げることができていた。得点に繋がるCKもこの形から。ゴール自体は相手のミスもあったが、そこまでの流れは自分たちで作り出したものだった。

 それだけに1失点目も2失点目も飲水タイム明けや得点直後という最も集中しなければいけないシチュエーションでプレスの精度を欠いたという点で残念だった。試合の際を突かれ、二度のリードを生かせずにハーフタイムを迎えることとなった。

 

 

■不十分な連動が失点の引き金に

 後半栃木はボールの前進方法を整理。宮崎に当てて展開するだけでなく、中盤でボールを落ち着かせながら全体を3-2-5に緩やかに変化させることで山口をサイドから押し込んでいく。坂の出し手としてのスキルや神戸の攻撃参加など、押し込んだことによる攻撃のパターンをいくつか作ることができた。

 前半との大きな違いで言えば、相手FWの背中で神戸がボールを引き出せるようになったことが挙げられるだろう。回数はそれほど多くなかったが、山口の2トップに中央を意識させることで左右CBが時間を作れるように。彼らへの圧力が強まれば連動するSBの背後を狙うなど、相手の出方を見たボール回しは前半よりも形になっていた。

 一方後半の山口は長いボールとそこからのワンサイドアタックをより徹底してきた印象だった。そこで得たロングスローやセットプレーなどリスタートからゴールに迫っていく。栃木としてはなかなか展開を切ることができずに波状攻撃を許したが、ゴール前で集中して弾き返し、ようやく途切れたタイミングで選手を交代。2枚替えを施し、前からのプレスを復活させると流れは再び一進一退の様相を呈していく。

 しかし、山口も3枚替えを敢行した直後、栃木はギアを上げたプレスが裏目に出てしまう。70分、左に下りたボランチ相田に対して小堀のプレスが気持ち早めになると、後方で新保がフリーに。坂の寄せが間に合わず、新保から背後にパスを透されると、最終ラインが整わないままクロスを許し、再びオウンゴールを献上した。前と後ろでプレスの呼吸が合わない現象は1失点目と完全に同じだった。

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 リードした山口が飲水タイム以降は多少引いたこともあり、栃木はこれ以降ボールを握る時間が増加。山口が佐藤に替えてキムボムヨンを投入し5バックに変化してからはよりこの傾向が強くなっていく。

 そうなると問われるのが栃木のブロック崩しの質になるが、山口の5-4-1で組むブロックは非常に堅かった。4-4-2の段階で相当な守備力を誇るチームが守備者を1枚増やせば堅くなるのは当然である。それだけに5バック化した直後にCKから失点を喫したのは痛恨だった。リードを2点に広げた山口はここから完全に籠城戦に移行していった。

 そのなかでも最終盤に爪痕を残した山本桜大と玄理吾の新加入組はお見事。玄理吾が相手の意表を突くパスを山本に送ると、山本自身も強引な突破からデビュー弾を決めることに成功。唯一山口の強固なブロックを切り裂いたシーンであり、最後の局面では即興性と質がものを言うことを改めて感じさせられたシーンだった。

 栃木がビハインドを1点に縮めたところで試合終了。最終スコアは3-4。互いに自分たちのスタイルとはかけ離れた撃ち合いになったが、ホームチームが上位の貫禄を見せつける結果となった。

 

 

選手寸評

GK 27 丹野 研太
4失点目ともGKには難しいシチュエーションだった。

DF 2 平松 航
背後へのボールに対して最終ラインを下げて前向きに弾く対応は決して悪くなかった。切り替えて前を向きたい。

DF 13 坂 圭祐
森と協力して長いボールに対応した。繋ぐべきか蹴り出すべきかの判断が的確で、坂から縦に入れて逆サイドへ脱出するシーンは多かった。

DF 23 福島 隼斗
左CBではクロスを上げるにもパスを差し込むにも福島の良さを生かしにくい。3失点目のオウンゴールはアンラッキーだった。

MF 6 大森 渚生
早いタイミングで縦を切られてしまうため後ろに下げる場面が多く、相手のプレスのスイッチになってしまった。

MF 10 森 俊貴
長いボールで押し下げられたため攻撃面で存在感を示せなかったが、森のサイドからやられることはなかった。

MF 22 青島 太一
セカンドボール回収と思い切りの良い攻撃参加はこの日も見られた。相手FWの背中に立って最終ラインから引き出すプレーを増やしたい。

MF 24 神戸 康輔
中盤からの攻撃参加で前線に厚みをもたらした。先制シーンでは自らボールを奪い、そのまま相手の懐に潜り込んでアシストを記録した。

FW 15 奥田 晃也
先制シーンは奥田らしい針の穴を通すパスだった。楔のパスを跨いでスルーしたり、裏に抜けて宮崎へのパスコースを作ったりとオフザボールの貢献も目立った。

FW 19 大島 康樹
神戸からの横パスを落ち着いてゴールに流し込んだ。これで今季4点目。少ないチャンスをものに出来ている。

FW 32 宮崎 鴻
空中戦は厳しいマークに遭ったが、足元でのポストプレーでサイドを変える起点になった。良いポジショニングで2試合連続となる今季5点目を記録した。

FW 38 小堀 空
慣れない右WBで途中出場。3失点目は相手の最終ラインのズレに対して立ち位置が中途半端になり、サイドを突破されてしまった。

FW 42 南野 遥海
途中出場でプレスを活性化させたが、その直後に背後を突かれて失点。左足を警戒され、振り抜く間を与えてもらえなかった。

MF 16 玄 理吾
終了間際に意表を突くパスで山本の得点をアシスト。もう少し長い時間プレーを見たい。

FW 45 山本 桜大
栃木デビュー戦で挨拶代わりの初ゴールを記録したあたりは当時の根本を彷彿とさせる。

MF 7 石田 凌太郎
7試合ぶりの出場。WBは特にメンバー争いが厳しいが、まずは与えられた時間のなかで数字を残したい。

 

 

最後に

 失点シーンの印象からどうしても弾き返せなかった最終ラインにフォーカスしてしまいがちだが、どれも不十分な連動のしわ寄せを後ろが受けたものである。ピッチ全体を見渡せる最終ラインが手綱を握ることが出来なかったという意味では避けられない結末だったとも言えなくないが、いずれにしても後ろ向きの対応を強いられた時点で組織としてのプレッシングは明らかに後手を踏んでいた。勝ち癖をつける上位チームはそこを見逃してくれなかった。

 次節戦う秋田は同系統であり、その徹底度合いではリーグでも群を抜く。同じように戦えば前回対戦のような惨敗も十分有り得るだろう。この日見つかった課題をしっかり見つめ直し、ホーム再開初戦で反撃の狼煙を上げたいところだ。

 

 

試合結果・ハイライト

2024.8.10 19:00K.O.
栃木SC 3-4 レノファ山口FC
得点 17分 大島 康樹(栃木)
   26分 オウンゴール(山口)
   44分 宮崎 鴻(栃木)
   45+1分 河野 孝汰(山口)
   70分 オウンゴール(山口)
   84分 小林 成豪(山口)
   90+5分 山本 桜大(栃木)
主審 松澤 慶和
観客 6337人
会場 維新みらいふスタジアム