はじめに
前節岡山戦は激しい撃ち合いの末、3-2で逆転勝利を収めた栃木。連敗を3で止め、勝敗を五分に戻した。今節ホームに迎えるのはレノファ山口FC。山口は現在5連敗、9試合勝ちなしで最下位に沈んでいるが油断は禁物である。再浮上の足がかりにすべく、ぜひとも連勝を飾りたい一戦だ。
スターティングメンバー
栃木SC [4-4-2] 12位
ホームの栃木は前節から2人変更。ボランチには岩間に変わって佐藤、右SHには5試合ぶりに大島が入った。前節得点の矢野、有馬はベンチスタートとなった。
レノファ山口FC [4-3-3] 22位
アウェイの山口は前節から5人変更。 前節豪快なボレーを決めたイウリが7試合ぶり、サンドロは5試合ぶり、清永は今季初先発となった。吉満とベンチスタートのへニキは古巣対戦となる。
前半
中盤のミスマッチから
スタメン表を見て、まず気になったのが山口の選手配置。本職CBのヘナンは一列前で起用されたこともあるのでアンカーかなと思いつつ、そうすると下がり目の位置から司令塔として好パフォーマンスを見せていた高をどこで起用するのかという話になる。山口の攻撃の鍵を大外の選手が担っていることを考えれば、高い位置にWGを保ちにくい3バックの可能性は低そう。と試合前に色々考えを巡らせていたが、蓋を開けてみれば前者のヘナンのアンカー起用であった。
普段の高ではなくヘナンをアンカー起用したということは、ある程度フィジカルであったり球際勝負に重きを置いていたことは考えつく。栃木のロングボールに対して、時には最終ラインと同じ高さまで下りてから前方向のベクトルで弾き返すなど、まずは栃木に最初の攻撃で自由を与えたくないという徹底さが伺えた。
ただ、そこからのセカンドボール回収が設計されていたかは微妙なところ。弾き返しが前提としてあるならばWGはもう少し絞ってコンパクトに保ちたい。ヘナンが下りるならなおさらである。栃木は2列目に加えてエスクデロもセカンドボールへの意識が非常に高く、パワフルな山口の中央にも互角に渡り合えていた。競れずとも十分に弾かせない明本のプレーも際立っていた。
思うようにクリアさせないという意味では田代、柳のロングボールもかなり良質だったと思う。基本的にはとにかく相手を押し下げる飛距離のあるロングボールを入れていく。間延びした中盤に多くの人を割く栃木はそのまま中央突破もできるし、サイドに散らしてからのクロスの形もスムーズに作れていた。
一方山口も中盤のミスマッチからビルドアップアップすることはできていた。とりわけ効果的だったのが左IHに入った高の立ち位置。マンツーマン要素の強い栃木のハイプレスに対して捕まらないところでボールを引き出す。栃木の守備のセオリーからすればエスクデロが見た方が良いのだが、そのエスクデロはアンカー番が主な仕事。ボールを受けた高はシンプルにイウリを生かすロングパスや大外への展開など、いつもより前のポジションからいつものようにプレーできていた。栃木のプレスの仕組みに対しての高のIH起用はそういう狙いがあったのかもしれない。
エスクデロが高を見切れないという問題は前半15分の場面でも。右サイドでのハイプレスを少ない手数で剥がされると、駆け上がってきた左SB清永がクロス。ボールは流れて佐藤が回収したものの、もしフリーの高に渡っていれば割と危ないシーンではあった。おそらくエスクデロとしては西谷にマークを渡し切り、自分の持ち場(ヘナンのケア)に緩やかに戻っていったところだろう。守備が緩慢だったわけではなく、中盤のミスマッチからギャップを突かれたという場面だった。
飲水タイム以降も同じような展開で進んでいくなか、右WG森が左サイドに出張するようになってからはある程度押し込む時間を取れていた山口。ただ、帰陣の早い栃木のブロックを崩すに至らず前半終了。0-0でハーフタイムを迎える。
後半
焦れずにそっと好機を突く
ボールとは逆サイドの選手がピッチ中央まで絞ることで狭くコンパクトに守る栃木に対して、より幅を取ることを意識した後半の山口。WGはタッチラインを踏むほど横幅を目いっぱいに取り、そこへGKやIH高が低い位置からロングパスを展開する。吉満のキック精度が格段と向上していたのは見ていて嬉しかった。
WGに渡ってからはIH、SBを交えた3人でのローテーション攻撃がメイン。大外、内側、後方支援を3人で入れ替わり立ち替わり動いて守備の穴を探っていく。
対する栃木も人数を合わせて対応していくが、このときアンカーのヘナンを消すのには苦労していた。思っていた以上にヘナンのサポートのタイミングが良く、栃木がヘナンへの対応を強めたとしても、山口としては空いてくるCBを経由すればやり直しは可能であった。栃木はある程度後ろでのボール回しは許容していたのかもしれないが、エスクデロ→矢野の早めの交代はヘナンへの規制を高める意味合いがあったように思う。
中央を閉じながら根気強くスライドを繰り返すことで決定機を作らせない栃木。山口の選手が無理に中央にパスを入れてくれば途中出場の岩間が読みを効かせてインターセプトし、もう一つ押し込まれても矢野のプレスバックでボールを奪い取る。
マイボールにしてからはまず初めに前線の明本を見る。後半の明本はかなり意識的に相手CBから離れたポジションを取っており、アンカー脇やSB裏で一度ボールを引き取ることで味方の上がりを促し、攻撃に厚みをもたらすきっかけとなっていた。後半22分のロングカウンターから明本のラストパスがわずかに黒崎に合わずというシーンはまさにこれが顕著に表れたものだった。
栃木としてはやはり先制点を取れたことが大きかった。前に出ざるを得なくなった山口は積極的にラインを上げてSBもほとんどの時間で前線に。矢野のあげた2点目はカウンターに備えて上がっていたCBサンドロを出し抜いた明本のプレーから始まったものであり、それ以外の場面でもあまりの前傾姿勢に手薄な中盤から何度もカウンターを繰り返すことができた。
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— 矢野貴章 (Kisho Yano) (@Kisho_Yano_) 2020年11月30日
終盤には次々と前線の選手を投入し、攻撃姿勢を強めていく山口。SB田中パウロ、へニキのFW起用などなかなか強烈な布陣だったが、ペナルティエリア内での脅威はそれほど感じなかった。栃木としては課題のクロス対応も難なくこなせていた。
試合は2-0で終了。栃木は2連勝を達成。山口は6連敗となった。
最後に
五分五分な展開から一瞬の隙を突いて先制。前がかりになった相手の背後を取って追加点。そして90分体を張り続けてシャットアウト。後半は特に長い時間ボールを支配されたことで相当な運動量を強いられたと思うが、綻びが現れることはなかった。最後は時計の針を進める巧みさも見せるなど、充実した試合運びで納得の勝ち点3となった。
やはりこの試合において決定的な仕事を成し遂げた明本に触れないわけにはいかない。1ゴール1アシストと目に見える結果を残しただけではなく、2点とも意図的に相手の股下を抜いて仕上げてみせた強心臓には目を見張るものがある。連戦の渦中にも関わらずプレッシングの足は止まらず、強気の栃木スタイルを最も体現している一人である。ピークは一体どこにあるのだろうか。ポテンシャルは計り知れない。
試合結果
得点 52分 明本考浩(栃木)
80分 矢野貴章(栃木)
主審 窪田陽輔
観客 2,296人
会場 栃木県グリーンスタジアム
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