栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【求めるは大胆さ】J2 第13節 栃木SC vs レノファ山口FC

スターティングメンバー

栃木SC [3-4-2-1] 18位

 前節大分戦から大幅9人を入れ替えた栃木。大谷と松岡は今季初出場。三國、磯村、宮崎は今季初先発を飾るなど普段とは異なる新鮮な顔触れとなった。谷内田や大森など全試合に出場してきた選手はメンバーを外れ、ここまでフルタイム出場のグティエレスもベンチスタートとなった。

 

レノファ山口FC [4-3-3] 15位

 水戸、千葉と続いた関東アウェイをともに落とし、今季初の連敗を喫した山口。3試合ぶりに戻ってきた得意のホームゲームで仕切り直しを図る。スタメンの変更は6人。前節メンバーを外れた佐藤謙介やヘナンが先発に復帰し、ベテラン40歳の山瀬がベンチに入った。

 

 

焦点となったサイドの攻防

 まず注目すべきは栃木のスタメンである。前節から継続してスタメンなのは藤田と黒﨑のみで、彼らと福森を除いた残りの選手はここまで定期的な出場機会を得られていない選手たち。普段から練習試合や紅白戦で顔を合わせているメンバーなのだとは思うが、公式戦となれば試合勘や強度は全く別物と考えた方が良いだろう。いわばぶっつけ本番のメンバーでどれだけ主力組が見せるプレー水準に近付けるかが勝負のポイントとなる。

 その意味で立ち上がりからしばらくの間はレギュラーメンバー顔負けのハイプレスを体現できていたように思う。誰が出ても遜色なくとはこういうことを指すのだろう。

 この日の栃木のプレッシングは特徴的な右肩上がりの仕組みになっていた。最前線の宮崎は佐藤謙介を背中で隠しながら渡部を睨み、松岡はヘナンを監視。山本はセットした状態では彼らの後ろに立って佐藤謙介に貼り付き、流れのなかではベースポジションどおり眞鍋を見るという役割分担になっていた。

 そうなると構造上は山口の左SB橋本がフリーになりやすくなるが、そこは黒﨑が縦を切ることで前進はさせまいという寄せを見せていた。直接橋本から奪えなかったとしてもプレーを遅らせている間に近場の佐藤謙介や田中らを捕まえられれば、橋本から次の選択肢を取り上げることができる。そうして閉じ込めたサイドでボールを回収するのが栃木の狙いだった。10分には、磯村と黒﨑でボールを回収し、左サイドに預けた流れからCKを獲得するカウンターに繋がった。

 

 栃木のプレッシング構造と山口の左CBヘナンが積極的に縦パスを差し込んでいたことから、この試合の攻防は栃木から見た右サイド、山口から見た左サイドで行われることが多かった。

 よって、栃木がボールを奪った瞬間は左サイドに大きなスペースが広がっている状態。ボランチを経由して左サイドに送った際はほとんどの場面でサイドの深い位置まで侵入することができていた。

 ただ、この試合における問題点はサイド奥に侵入してからのプレー選択があまりに消極的だったことである。その大きな要因が左サイドに左利きの選手がいなかったこと。普段であればCBの位置から大森が駆け上がることでスムーズにクロスを上げることができるが、この日の左サイドはともに右利きの福森と三國。クロスを上げるには右足に持ち変える必要があり、その少しの間にブロックを整えられてしまうためクロスを上げられずやり直しというシーンが頻発した。

 なお、三國のクロスに宮崎が合わせたヘディングはその例外で、下げてしまった機会損失を補って余りある高精度でピンポイントに合わせた非常に惜しいシーンだった。

 

 時間が進むにつれて、山口が栃木のプレスに慣れてくると攻守の焦点となっていたサイドの形勢がホームチームに傾いてくる。

 栃木にとって状況を難しくさせたのが山口がかなり頻繁に左サイドを活用してきたことである。橋本にボールが渡るたびに黒﨑は縦スライド、松岡はプレスバックを余儀なくされるため、特に30分以降は少しずつ寄せが遅れる場面が目立つように。さらには右サイドから神出鬼没に絡んでくる池上の存在も厄介で、対応すべき相手が増えることでマークがズレて黒﨑の背後を使われたり、ライン間で前を向かれたりと対応で後手を踏む場面が増えていった。

 なんとか自陣から掻き出しても、苦し紛れのクリアを受けるのは前線で孤立している宮崎。個人ではヘナンに当たり負けしない強さを発揮しても一人で収めきるのは至難の技。徐々にカウンターもままならなくなり、前半は尻すぼみに防戦一方になっていった。

 

 

悔やまれる失点の重ね方

 後半栃木は黒﨑に変えて鈴木海音を投入するも流れは変わらず。橋本、田中、兒玉に加えて不規則に絡んでくる池上で構成する左サイドの攻撃を止め切れない。

 52分、大外の兒玉とハーフスペースに抜けた田中がワンツーでパスを繋ぐと、ゴール前を横切る兒玉のクロスはわずかに岸田には合わず。

 53分、ヘナンの縦パスを兒玉が落として田中から右サイドの高木へ。高木のクロスに池上は合わせられなかったものの、田中、高木、池上の3選手は一連の流れでいずれも最後までフリーだった。

 そして56分、佐藤謙介の縦パスを池上が落とすと田中からパスを受けた橋本が強引にドリブル突破。そのまま振り抜いた左足はGK藤田の手をかすめてゴールに吸い込まれていった。

 これらの被決定機に共通するのは縦パスの落としを受けた選手や、そこからフリーランしていく選手に対してプレッシャーが十分にかかっていないことである。失点シーンはプレスバックが淡白で、植田や小野寺もシュートを打たれる瞬間まで着いていくことができなかった。ゴールを決めた橋本は素晴らしいがもう少し抵抗できたはずである。

 

 失点以降、栃木は佐藤祥、矢野、ジュニーニョを立て続けに投入。狙いは単純明快、前へのベクトルを強化することである。それまでは足元で受けようとして中盤でボールを失いカウンターを招くシーンが頻発していたが、最前線に矢野に入ったことでシンプルな攻撃が増加。相手のバックラインの背後にボールを送り込んだり、クリアボールをバックラインから大きく跳ね返すことで敵陣でプレーする機会を増やしていく。セカンドボール争いに参戦する佐藤祥はさすがの回収率だった。

 対する山口もホームの後押しを受けて2点目を奪いにいく姿勢を見せる。後ろにはCBとアンカーの3人を残すのみで、両SBを高く押し上げて攻撃姿勢を強める。左サイドから橋本、右サイドから吉岡が上げるクロスは精度が高くGK藤田はかなり際どいパンチングを強いられた。

 

 試合終盤には五十嵐を投入し、三國を前線に上げて最後の攻勢を仕掛ける。すると、アディショナルタイムに入ってすぐの時間帯に交代選手たちが結果を残す。自陣からのクリアボールを三國が倒れながら右サイドへ流すと、五十嵐が自慢の快足でサイドを突破。深い位置から折り返したクロスにゴール前で巧みに駆け引きした矢野が合わせ、土壇場で栃木が試合を振り出しに戻した。

 しかし、試合はこれでは終わらなかった。改めて見返すと前傾姿勢を強める前線とバックラインの間には2ボランチでは埋めきれないほどのスペースが広がっており、そこには勝ち越しを狙う山口の選手が相当な人数ポジションを取っていた。喜びもつかの間、山口が決勝点をあげた直後、試合終了のホイッスルがなった。

 

 

最後に

 とにかく悔しい結末となってしまった。難しい試合展開を最小失点で凌ぎ、交代選手でペースを上げて同点に追い付くまではストーリーとして素晴らしいものだったが、最後の最後に高すぎる授業料を払うことになった。

 試合の進め方、終え方に課題が残ったと同時に、チャンスシーンになりそうな一つ手前の局面での消極的な選択もどうにか改善したい部分である。怯まずにプレッシングの勢いを押し出したことで相手を圧倒する感覚を見つけたように、攻撃にも大胆さが欲しい。点取り屋が不在のチームにおいてはゴール前にボールを入れる回数をとにかく増やすことで可能性を高めるしかない。かえって少しくらいアバウトな方が相手にとっても対応しにくいのではないだろうか。

 GWの5連戦を折り返し残り2試合はようやくホームゲームを戦える。ホームの後押しを受けた選手たちの積極的なプレーに期待したい。

 

 

試合結果・ハイライト

栃木SC 1-2 レノファ山口FC

得点 57分 橋本健人(山口)

   90+2分 矢野貴章(栃木)

   90+6分 高木大輔(山口)

主審 榎本一慶

観客 2981人

会場 維新みらいふスタジアム