栃木SCのことをより考えるブログ

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【5バックについて】J2 第29節 栃木SC vs ファジアーノ岡山

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 難敵岡山に勝利して3連勝!粘り強い守備で岡山の攻撃を跳ね返し、なんとか虎の子の一点を守り切りました。前節は不安定さの見えたディフェンス面でしたが、2試合ぶりにクリーンシートも達成。特にキャプテン柳は攻守にわたって大車輪の活躍でしたね。

 本来ならばいつもどおり試合全体の振り返りをしたいところですが、書いているタイミングではDAZNに不具合が生じているようなので見逃し配信のチェックは断念(ハイライトを10回以上は見ました)。そこで趣向を変えて、今回はこの試合の最終盤に用いた5バックについて個人的な感想を記したいと思います。少しだけお付き合いください。

 

 

■5バックへの考え方

 栃木SCはここ2試合、山口戦は後半42分、岡山戦は後半38分にFW豊田陽平を変えてDF三國ケネディエブスを投入しています。これによってフォーメーションを[4-4-2]から[5-4-1]にチェンジ。FWを一人削ってDFを一人増やすことで最終盤の逃げ切り体制として5バックを採用しています。

 

 この采配に対して私の周りの人やTwitterのタイムラインを見ていて多かったのが「5バックは見ていて危なっかしい」「受け身、サンドバッグ」といったニュアンスの意見でした。少なくとも好意的な意見は少なかったです。わずか一点のリードを守り切れるかどうかというヒリヒリとしたシチュエーションもこれをより際立たせたといえるでしょう。

 

 結果的にここ2試合は守り切れているので田坂監督の采配は功を奏しています。特に残留争いを戦うリーグ終盤戦においては、結果に勝る戦術はありません。それでも、危ない場面を土壇場でやり過ごし、多少の運にも助けられているという決して主体的ではない試合運びが、5バックの評価を難しくしているとも考えられます。

 

 意見の分かれる采配ですが、私個人としては最終盤での5バックの採用はアリです。もちろん相手にも依りますが、リードした状況であれば、たいてい相手のパワープレーを跳ね返す展開は訪れます。山口戦、岡山戦で見せた栃木の守り方は非常に整理されていたので、フォーカスしたいというのが今回の内容です。

 

 

■5バック採用の狙い

 栃木が[5-4-1]のフォーメーションで決まりごとにしていたのは、相手のサイドの選手にはクロスを上げさせないことでした。当たり前だといえばそうなのですが、そのなかでも興味深かったのが、相手のサイドの選手がフリーでボールを持ちそうならば、5バックを崩してでもSBがアプローチすることを徹底していた点です。

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 上の図では、栃木から見て右サイドから左サイドにボールを動かされた際に岡山の右SB河野に対して溝渕が素早く寄せています。一般的にクロスはサイド深い位置から入れられるほどDFにとっては相手FWとボールを同一視野に入れることが難しくなり、ゴールの可能性が高まります。栃木は5バックでローラインに固めることよりも、まずはサイド深くに進入されるのを防ぐことにプライオリティを置いていました。

 その分枚数の減った最前線では相手のCB二人に対して栃木は一人だけのため、どれだけプレスを頑張っても一方をフリーにしてしまう構造になります。ただ、そこからペナルティエリア内にロングボールを放り込まれるのであれば栃木のDFは正面に跳ね返すことができるので、サイドからの対応に比べて難易度は格段に下がります。

 

 [4-4-2]を継続して相手CBに圧力をかける選択肢もありましたが、相手ボランチが立ち位置を変えてサポートされてしまえば最終ラインにはフリーの選手を作られてしまいます。もともとSBを高く上げる岡山の戦い方において、ボランチの白井や喜山はその辺りをクレバーに行えるため、栃木としては2トップのままでも1トップでも最終ラインにフリーの選手を作られたように思います。

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 であれば、あらかじめ最前線は1トップにして、どのみち放り込まれるペナルティエリア内に3枚のCBを用意することは理にかなっているといえます。そのうえで、サイドの選手は横の揺さぶりに対して上下動を繰り返し、1トップはできるだけ圧力をかける。有馬や谷内田に比べて矢野と森は守備面で計算できますし、怪我明け復帰戦の松岡もハードワークが求められますが、できる範囲という条件付きでボールの出どころを邪魔してくれればいい。サイド深い位置に進入されたらDF5枚とMF4枚のラインをコンパクトにしてボールを弾き返す。サイド深い位置での守備ではもう少し落ち着いて対応できれば良かったですが、サイドを抑えるというコンセプトのもと、ボールの位置によって主体的に守ることができていたため、この2試合は攻められながらも何とか持ち堪えることができたと思います。

 

 

■クローザーの問題

 勝利したここ3試合でCBのコンビを組んだのは柳と乾。乾はそれまで先発1試合のみにも関わらず、出番が回ってきたらそれを掴んで離さない活躍は素晴らしいと思います。岡山戦のハイライトにもありますが、シュートに対してしっかり正面から反応できているためシュートブロックが多い。とりわけ前々節愛媛戦の顔面ブロックは印象深いものでした。ここまでフルタイム出場の柳に対して、なかなか定まらなかった相方問題がようやく解決しつつあるように見えます。

 

 個人的には歯車が合わなくなるまではしばらくこの二人の起用がベターだと思います。乾が入ったことで最終ラインには落ち着きがもたらされ、何より目に見える結果が残せています。偶然だと思いますが、副産物として相方柳にはゴールも生まれています。

 ただ、乾起用で一つ心配なのが、相手のアジリティのある選手に対して後手を踏むことが多いこと。ハイライトにもある上門の切り返しからクロスを上げられたシーンや山口戦の2失点目など、一度置いていかれると体がついていけない場面がありました。

 ハイプレスハイラインをベースにする栃木の戦術において、最終ライン、特にCBのスピードは対人の強さと同じくらい重要な要素になります。そのスピードで栃木のCB陣で最も秀でているように見えるのが三國です。身体能力の高さは抜群で、乾を起用するまでは先発を続けていたように戦術的に栃木にマッチする素養は十分備えています。田坂監督が獲得を熱望していたことからも本来ならば三國をスタートで起用しつつ、リードした展開で構えるときにクローザーとして乾を起用したいはずです。

 現状立場が逆転しているのは、乾の経験からくる予測とベテランとしての落ち着きがチームに秩序をもたらしており、三國起用時のそれよりも上回っているからだと思います。柳の相方としてポールポジションに立つ乾に対して、三國はもう一皮剥ける必要があります。残留争いのベースになる堅守の構築には守備陣のレギュラー争いは必須なので、三國には一度失ったポジションを奪い返す奮起に期待したいと思います。

 

 

最後に

 試合を見返せていないのでライブ視聴の印象になりますが、試合全体で守備面ではプレッシングとブロック守備、攻撃面では速攻とポゼッションをバランスよく両立できていたと思います。やはり2列目の選手が攻撃時間を確保してくれるのは大きい。その分攻撃の確実性が高まりますし、守備の時間を減らすこともできる。勝ち点を手中に収める逃げ切り体制もピンチの頻発した愛媛戦から確実に進歩しています。ここまで紆余曲折ありましたが今シーズン目指してきたサッカーに近づいてきている好試合だったのではないでしょうか。

 

 

試合結果・ハイライト

栃木SC 1-0 ファジアーノ岡山

得点 73分 柳育崇(栃木)

主審 御厨貴文

観客 3777人

会場 シティライトスタジアム