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【不安の声を一蹴した会心の勝利】J2 第18節 栃木SC vs ファジアーノ岡山

スターティングメンバー

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栃木SC [3-5-2] 19位

 前節は千葉に0-1で敗れ、ここ4試合勝ちのない栃木。金沢に大勝して以降不甲斐ない試合が続いており、特に前節は攻守において戦う姿勢の欠けた試合をしてしまった。今一度全員がやるべきことを徹底し、強い気持ちで戦うことが求められる試合となる。

 連戦を考慮し前節はベンチスタートだった森、西谷、山田が2試合ぶりにスタメン復帰。小堀は今季初先発となった。大森は第3節大分戦以来のベンチスタートとなった。

 

ファジアーノ岡山 [4-4-2] 8位

 今季ここまで5勝11分1敗と、負けは少ないものの勝ち切れない試合が続いている岡山。ブレイクスルーには連勝が必要で、前節群馬に競り勝った勢いのまま今季2度目の連勝を狙う。

 前節からスタメンの変更はなし。前線と最終ラインに屈強な選手を多く揃え、ベンチにはルカオやムークら外国籍選手が控える。U-20W杯に参加している佐野と坂本は引き続きメンバー外となった。

 

 

いつもと少し違ったバランス

 今週のトレーニングでは矢野貴章を中心に危機感を共有し、球際の強度やハードワークなどサッカーの本質を再確認した栃木。対戦相手の岡山は個の強さを前面に押し出したスタイルを志向しており、少しの緩みも許されないシチュエーションは立て直しを図るうえで打ってつけといえるだろう。局面のバトルが頻発する激しい展開で試合は進んでいった。

 この日栃木が採用したのは[3-5-2]システム。矢野が[3-4-2-1]の右シャドーに入ったときは時折2トップ気味に守備を行うこともあったが、この日ははっきりと横並びにした配置であった。その分山田はいつもより下がり目のIHでスタート。佐藤祥をアンカーにし、全体的にセンターラインに人数をかけた布陣となった。

 岡山の左SB鈴木の持ち運びに対して中盤から西谷が早めに牽制しに行っていたのがこの日の守備のポイントだっただろう。西谷が持ち前の守備力を生かして広範囲に睨みをきかせることで、小堀には対面のCB柳を監視させる。小堀が柳を見ることができれば「栃木の2トップvs岡山の2CB」の構図が完成するため、数的同数の状態から素早く寄せることができる。

 前線から守備の対応関係を明確にしたことでプレスはしっかりと機能していたように思う。少なくとも前節ほど最終ラインに余裕を持って蹴らせることはなかった。

 ただ、それでも岡山のロングボールには手を焼いた。受け手となる櫻川は競り合いに非常に強く、栃木の最終ラインは大きく弾き返すことができない。クリアに飛距離が出ないため、前向きに迫る岡山の中盤にセカンドボールを拾われることが多かった。

 中盤を3枚で構成したのはセカンドボール争いで優位に立つためだったと思うが、前述のとおり西谷や山田は相手SBに牽制をかけるため、常に3人で構えていられるわけではない。特に右サイドは岡山の左SH高橋に森がピン留めされるため、西谷にかかる負担は大きかった。それでも豊富な運動量で何とかしてしまうのは流石だったが、それだけに早い時間にイエローを貰ってしまったのは痛かった。

 

 栃木はセカンドボール回収からのサイド突破が主な攻撃パターン。岡山がSHを早めに左右CBに当ててきていたため、最終ラインから繋ぐシーンはあまりなかった。ボランチがあまりサポートに下りてこなかったことから、繋ぎでどうこうというよりは、素早く縦を意識したプランだっただろう。

 その意味で小堀は前線のターゲットとしてまずまずの働きをしてくれたように思う。柳に抑え込まれる場面も少なくなかったが、積極的にボールを引き出す動きを繰り返していた。根本のポスト受けから左サイドを突破した際はペナルティエリア内に早めに入り込むことでゴール前の厚みを確保。チームとしても2トップにした強みを生かすことができていた。

 

 

解決策を見い出せないなかでの先制点

 一進一退の展開で進むなか、20分過ぎに岡山は最終ラインを微調整。左SB鈴木を左CB化することでバイス、柳と3バックを形成。鈴木はそれまでもあまり上がることはなかったが、一つ内側に入ったことで最終ラインが全体的に右側にスライドすると、徐々にミスマッチを生かす場面が増えていった。

 これによって顕在化したのが過負荷だった西谷の更なる負担増である。小堀が柳に寄せたときに鈴木を見るのは西谷の役割だったが、鈴木の左CB化によりプレスに行きにくい構図に。寄せれば今度は背後の仙波をフリーにしてしまう。徐々に出し手に制限がかからなくなると、この辺りから岡山にペースを握られるようになっていった。

 すかさず栃木も普段の[3-4-2-1]にシフトし、岡山の3バックに対して1トップ2シャドーを当てていくが、今度は最終ラインをサポートする仙波への寄せが曖昧に。少しずつ苦しくなる栃木だが、先制点は思いもよらない形から生まれた。小堀の寄せに対して下げた鈴木のバックパスがGK不在のゴールマウスに吸い込まれ、そのままゴールイン。劣勢になり始めた時間帯だっただけに貴重な先制点となった。

 ここからハーフタイムを迎えるまでは完全に岡山ペース。ミラーゲームをズラしにかかる仙波や河井を捕まえられず、最終ラインにも制限をかけられない。何とか凌いでクリアしたボールを根本が孤軍奮闘するというシーンが目立った。ゴールによって勢いを増幅できない試合運びは依然課題だが、何とか前半を無失点で耐え切り、1点リードでハーフタイムを迎えた。

 

 

最後までやり切る

 尻すぼみに勢いを落としていった前半の栃木。後半はプレスのギアを入れ直して、ショートカウンターから素早く岡山ゴールに迫っていく。

 47分、福森が河野→バイス→仙波と三度追いして引っかけると、ボールを回収した山田が前を向いてドリブル開始。パスを受けた根本は柳の厳しいマークに遭うも、最後はこぼれ球を拾った森がミドルシュート放った。

 50分にも相手の連携ミスからボールを奪取すると、左サイドに流れた小堀が柳との1vs1からシュートを選択。惜しくもGKのセービングに阻まれたが、縦に早い攻撃からフィニッシュに繋げた良いシーンだった。積極的なシュートの姿勢は前半の反省を踏まえたものだろう。

 

 しかし、次の得点はアウェイチームに生まれる。岡山は前半同様3バックと2ボランチで攻撃を組み立てるのだが、栃木のここへのプレッシャーが不十分で、簡単にサイドの深い位置まで侵入されると、高橋のクロスがそのままゴールに吸い込まれていった。

 この得点の背景として、岡山がミラーゲームを敷いていた影響が大きかったように思う。栃木のプレスがハマるときはWBがどんどん前に出て行けるのだが、ここでは岡山のワイドの選手(河野、高橋)の立ち位置に抑え込まれてしまい、プレスを後方支援することができなかった。高く張り過ぎず、それでいて低くならないポジショニングにより、栃木のWBはもう一つ前に寄せる選択肢を持つことができなかった。

 

 岡山の組み立てをなかなか制限できない栃木だが、その一方で、中央の守備は前半以上に強固になったように見えた。櫻川に対するチャレンジ&カバーを機能させ、ここからチャンスを作らせなかったことで、防戦一方にならずに済んだ。

 サイドからのクロス対応も同様。ペナルティエリアに人数をかける岡山の攻撃に対して集中して対応すると、迎えた67分、GK藤田のキャッチングからの展開で勝ち越すことに成功する。GK藤田からのライナー性のボールに唯一最後まで目を切らさなかったのは最前線の根本。待望の今季3点目で栃木が再び一歩前に出た。

 

 ビハインドを背負った岡山はルカオ、ムークを投入。ファールを貰えばハーフライン付近からセットプレーを敢行するなど、直線的な攻撃からゴールに迫る機会を増やしていく。

 ボルテージの高まるセットプレーの連続に何とか粘り強く対応すると、フラストレーションを溜めたバイスが不要なファール2発で退場。その後の展開を見れば、ここで決した感はあった。

 それ以降は、中心選手を追いやられた岡山が前線のパワーを生かすよりも、オープンになった展開をプレッシングとカウンターでやり切る栃木の方が、どちらかといえばペースは握れていただろう。85分以降の福森をはじめとするプレッシングしかり、88分の神戸で始まり神戸で終わったロングカウンターしかり、攻守においてやり切ることで攻め込まれる時間を減らすことができていた。

 試合はこのまま2-1で終了。1点差を逃げ切った栃木が5試合ぶりの勝利。難敵岡山に今季2度目の黒星をつけることに成功した。

 

 

最後に

 試合前のスタジアムの雰囲気も含めてこの試合に懸ける思いを強く感じさせた試合だった。直接的には相手の大きなエラーが勝利の要因になったとはいえ、一つ一つの球際勝負や最後までボールに食らいつく姿勢は簡単には流れを渡すまいという強い気持ちを感じた。矢野貴章の不在による周囲の不安の声を一蹴することができたといえるだろう。

 この日採用した[3-5-2]は今後も一つのオプションとして期待したいシステムである。対岡山を意識した可能性もあるが、攻守において2トップにしたメリットを生かすことができた。ただ、これには制約も多く、西谷や矢野、小堀のパフォーマンスがこれまで以上に求められるシステムでもある。その意味でこの日の小堀はトップチーム昇格後で最良のパフォーマンスを見せることができた。

 次節の対戦相手は昇格組ながら中位につけている藤枝とのアウェイゲーム。未だ勝利のないアウェイゲームだが、今季初の連勝を懸けて5度目の正直といきたい。

 

 

試合結果・ハイライト

栃木SC 2-1 ファジアーノ岡山

得点 34分 オウンゴール(栃木)

   54分 高橋諒(岡山)

   67分 根本凌(栃木)

主審 大坪博和

観客 8719人

会場 カンセキスタジアムとちぎ