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【理想的な試合運び】J2 第30節 栃木SCvsロアッソ熊本

 今回は第30節ロアッソ熊本戦を取り上げます。

 

 両チームのスタメンと配置は次のとおり。

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 残留争いに巻き込まれているホームの熊本は、前節岐阜に勝利(〇2-0)し、リーグ戦14試合ぶりの勝利。今節は5/20に行われた第15節水戸戦以来のホーム戦勝利を狙う。スタメンは上村に代わって今夏加入の横山がアンカーに入った。

 

 アウェイの栃木は3連勝中で8試合負けなし、その間失点は2と好調を維持している。今節は快進撃を支えてきたへニキが出場停止となり、ボランチには西澤が入った。また、アレックスが今夏加入後初のベンチ入りとなった。

 

 両チームの前回対戦は第6節。CKから福岡が決めた得点を守り切り栃木が1-0で勝利している。スコアも内容もある意味"らしい"勝ち方であり、栃木としてはこの試合の再現を狙う。

 

 

前半

◎フォーメーションのデメリットが目立った序盤

 今季は主に3-3-2-2のフォーメーションを採用している熊本。3バックなのは栃木と同じだが、中盤から前にかけては少し構成が異なっている。2トップを採用している点では、ネイツがトップに入った時の前半戦の形に似ていると言える。

 3-3-2-2のメリットは攻撃時にある。両WBの立ち位置次第でライン間や最終ライン付近などに選手を多く置くことができる。また、栃木との噛み合わせ的にもアンカーの横山を誰が見る問題が発生し、ある程度余裕を持って配球できるため、攻撃に厚みを持たせられるのがこのフォーメーションの特徴である。

 

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 ただ、守備の形には少々問題があるのも特徴。両WBが下がり3枚のMFでその前を固めるため、どうしても3MFの脇、WBの前に広大なスペースが空いてしまう。

 この点スカウティング済みの栃木は、序盤から両WBやCB福岡が迷いなくこのスペースを利用することで簡単に敵陣に侵入。失ってもスローインやCKを取り切るなど、サイドの高い位置から試合を組み立てることに成功した。

 熊本としては、苦し紛れのクリアをしてもことごとく栃木CBに跳ね返されてしまい、徐々に最終ラインを上げられなくなる。最終ラインが低いと全体が間延びするためセカンドボールを回収することができない。よって攻撃に切り替えることができない、という負の連鎖に陥ってしまっていた。

 

◎ボール保持で打開を図る熊本

 前半18分頃から、熊本は苦しい状況を脱するために、最終ラインでボールを奪った後は数的優位な中盤を経由してプレスを回避しながら、フォーメーションを4-1-3-2に変えてボールの保持を試みた。

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 横山がアンカーからCBに落ち、左右のCBがSB化。アンカーには上里が入り、その前に中山、両SHには列を一つ上げて田中と黒木が入った。

 この時、右SHの黒木はハーフスペース(ピッチを縦に5分割した時の2番目と4番目)に入り、上里と中山と共に逆三角形を作り、左右非対称な形を形成していた。保持時の狙いは分からなかったが、ネガティブトランジション(攻→守に変わる瞬間)時の岡﨑に対するマーカーとして配置した可能性はあるだろう。また、田中を十分に生かすために左サイド偏重になったことも考えられる。

 また最終ラインでのボール回しについてはGK畑が参加することもあり、栃木のシャドーのプレッシングにも数的優位を確保するような形を作っていた。

 

◎4-1-3-2に対する栃木のプレッシング

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 この試合も栃木の前からのプレッシングは大黒を起点としていた。DF村上がボールを持つと大黒が少しずつ寄せて行き、最終的にCB間のパスコースを切る位置に。それに合わせて西谷和も村上へ寄せることで、熊本がボールを動かせるエリアを栃木の左サイド側に限定した。サイドを限定化すると、後は残りの選手に栃木が枚数を合わせてプレッシング。最終的に熊本はタッチラインに逃げるしかなかった。

 この時MF黒木やFW安は、引いて動き直すことでプレス回避のためのパスコースを作ることが求められるが、栃木の強度の高いプレスに対して選手間の距離が遠くなり、リカバリーがほとんど効かなかった。

 栃木としては、熊本の要注意の田中から最も遠い位置でのプレーに限定し攻撃を無力化したうえで、武器であるロングスローを得るという完全に狙い通りの形を体現した。この場面は前半24分を皮切りに何度か見ることができた。

 

 前半は終始栃木がセットプレーから主導権を握ったがスコアレスで終了。ミドルゾーンでは圧倒するが、最後のアタッキングゾーンでDFに跳ね返されてしまうなど、効果的にフィニッシュに持ち込めるシーンはそう多くはなかった。

 

 

後半

◎両サイドを起点にペースを掴む熊本

 「背後へのボール、クロス、ボールを運ぶことに狙いを持ってプレーすること。」をハーフタイムに指示した渋谷監督。栃木のプレッシングに合わせて4バックと3バックを柔軟に使いながら、両サイドの田中、黒木へ栃木WB背後にボールを送り、サイドからのクロスに糸口を見出そうとした。

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 栃木はプレスをかけてもWB裏へボールを入れられることが多くなり、徐々に5バックの時間が長くなる。田中、黒木のポジションにより最終ラインの位置取りを固定され、ライン間に下がって受けに来る皆川や安へのプレスがかかりにくくなり、栃木にとっては耐える時間となった。

 

流れを引き寄せた西谷優希の投入

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 後半14分、西谷優希が入ると試合は一気に栃木ペースに。横山監督も「練習でも非常に良いコンビネーションを見せている」と太鼓判を押す右サイドの3人(西谷優、川田、浜下)がトライアングルを形成し、細かいパスワークでペナルティエリア横からどんどん熊本ゴールに向かっていく。そこに左シャドーが定位置の西谷和希もレーンを大きく越えてパスワークに参加。用意していたというよりも、ある程度プレービジョンの合う選手間の即興によるパスワークは、脚の止まりかけていた熊本DF陣を圧倒していった。

 オウンゴールに繋がったシーンも、トライアングルによる細かいパスと動きで、3vs4の数的不利にも関わらず熊本の4選手を置き去りにすることに成功。西谷優希のグラウンダーの速いクロスはDF村上に当たりゴールイン。このゴールが決勝点となった。

 

 栃木は終盤の後半44分に岡﨑に代えて菅、アディショナルタイムに西谷和に代えて上形を投入。菅は最終ラインの前でライン間を締め、上形は少ない時間ながらもスローインのターゲットやボールキープなどを愚直に行い試合をクローズ。栃木が1-0で勝利した。

 

 

最後に

 栃木が攻守において熊本の綻びを突いた試合だった。追加点こそ上げられなかったものの、試合の運び方、交代の采配などは今シーズンで最も理想的だったと言ってもいいだろう。

 この勝利で、栃木は4連勝9試合負けなし。試合を重ねる毎に内容も向上し、いまやJ2後半戦の台風の目にもなっている。今シーズンの目標の11位以上もあと少しになっている。

 次節はホームで岡山と対戦。因縁のJ参入同期対決として、前半戦の借りを返したい!

 

↓試合結果(Jリーグ公式サイト)↓

熊本vs栃木の試合結果・データ(明治安田生命J2リーグ:2018年8月26日):Jリーグ.jp

 

↓ハイライト(YouTube)↓