栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【漂うもの足りなさ】J2 第2節 栃木SC vs ブラウブリッツ秋田

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スターティングメンバー

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栃木SC [4-2-3-1] 昨季10位

 岡山との開幕戦に敗れた栃木はスタメンを4人変更。面矢、佐藤、松岡、畑に変わって吉田、西谷、植田、矢野が入った。右SB吉田は今季初出場、右SH植田はプロデビュー戦。かつて秋田の下部組織に在籍していた山本と、2015年に在籍した佐藤にとっては古巣との対戦となる。

 

ブラウブリッツ秋田 [4-4-2] 昨季J3優勝

 抜群の安定感を武器に昨季J3優勝を果たした秋田。群馬との開幕戦は落としたものの、J2初得点を記録し、スタメンの変更もないことからある程度手応えは掴んでいるような印象がある。ベンチには昨季6ゴール10アシストの江口や新加入才藤が初のメンバー入り。雪国秋田とあって開幕からアウェイ4連戦はなかなかに厳しい日程である。

 

 

■改善の第一歩

 前半11分の秋田の決勝点はお見事だった。そもそもFKを献上した場面は菊池の対応が軽率だったと言わざるを得ないが、それを差し引いてもよくデザインされたFKだったと思う。秋田の高さを第一に警戒していた栃木にとって、フィールドプレーヤー全員の隙間を抜けてくる沖野のシュートは出し抜かれた上に手痛い失点となってしまった。

 

 またしても出鼻をくじかれた栃木だったが、試合運び自体は決して悪くなかったように思う。特に好印象だったのがロングボール一辺倒からの脱却を図ろうという姿勢を見せたこと。セカンドボール争いを制してからただ単に前へボールを送るのではなく、サイドから斜めに差し込む楔のパスや自分自身で持ち上がるなどのプレーはしっかり準備してきたことを伺えた。特にSBからの楔のパスは秋田のブロックを一度中央に収縮させるため、再びサイドに散らした時のSBのポジションを押し上げるという意味で効果的だった。

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 これには開幕戦を欠場した右SB吉田の登場によるところが大きい。縦を切られたとしても振り切って前進するダイナミックさは然ることながら、内側を向いて斜めにパスを刺す状況判断にも優れていた。右サイドを攻撃の始点にできれば自ずと左SBはボールを受ける位置が高くなる。菊池はSBとしてのダイナミックさというよりはSH的なテクニカルな部分を持ち味としているだけに、菊池をSB起用する限りはどう彼に届けるか、さらには届いたタイミングで周りがどれだけ良い距離感を取れているかは今後見ていくなかでポイントかもしれない。

 

 攻撃の好循環が吉田のボール保持から生まれるのだとすれば、できるだけ吉田にはオープンな状態でボールを預けたい。そのなかで理想的だったのが前半24分の組み立て。秋田のツートップのプレスに合わせてボランチ2人が最終ラインをサポートすると、上田から吉田へ。吉田に入った瞬間に秋田の全体のラインがふっと下がったことで、敵陣を横断する繋ぎから左サイドの細かいパスワークでCKを獲得することができた。

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 ロングボールに傾倒した開幕戦と比べて、ある程度状況に応じた攻撃を見せられたのは収穫である。西谷、上田の2ボランチにボールの収まるトップ下山本という組み合わせからも「足元の繋ぎにもトライしよう!」という意気込みが伝わってくる。堅守を誇る秋田を前に付け焼き刃感はどうしても拭えなかったのは事実だが、ボールを持たされた時の課題に対して糸口を探ろうという試みは今後も続けてほしいところである。

 

 

■悪い流れからの脱出方法

 栃木にとって最も流れが悪かったのが後半開始から飲水タイムを迎えるまでの時間帯。立ち上がりということもあって足元で繋ぐというよりはシンプルなロングボールが増えていた時間帯だが、これがことごとく前線で収まらない。クロスやシュートに至った場面も最後のもうひと寄せのある秋田の選手に遮られ、チャンスらしいチャンスはなかった。とりわけ栃木にとって嫌らしかったのがボランチの稲葉。富山からの新加入選手だが、長年秋田に所属していたかのようなフィット感だった。

 

 一方秋田にとっては攻守に最もリズムが良かった時間帯である。栃木のSB裏に徹底的にロングボールを送り込むことで栃木のDFラインを強制的に押し下げる。全速力でボールを拾いに行く齋藤の献身的なプレーがチームスタイルを体現している。確率は低くてもボールを回収してスローインやCKを獲得できれば十分お釣りのくるプレーである。文章を書いていて去年の明本のプレーだ、、って思っているところである。

 

 前半とはそう変わりない攻め筋とはいえ、栃木にとっては頻繁なラインの上げ下げによりコンパクトさが緩みつつあったと言えるかもしれない。時計の針を進め秋田がシャットアウトにシフトしたことで失点することはなかったが、難しい時間帯にロングボールを跳ね返すことしかできない現状は苦しい。それこそCBやボランチを中心に数的優位を作りながら落ち着かせることができれば良いのだが、そこはまだ本格的には持ち合わせていないところだろう。ストーミングに付き合わされる戦いが苦手な栃木にとっては、まさにやりたい展開で苦しめられる格好となってしまった。

 

 

■終盤の猛攻は今後の鍵となるか

 Jスタッツによれば、この試合での栃木のゴール期待値は1.11点。一点は入る確率の攻撃を作ることはできており、そのうちの約0.5点分を最後の20分間で記録していることが分かる。

 

 後半の飲水タイム明けの秋田は虎の子の一得点を守り切ろうというモードに完全にシフトしていたことは考慮する必要があるだろう。ただ、栃木はボールの出し手にプレッシャーが少ない状況であっても、セットされたブロックに対していくつか可能性のある攻撃を作れていたことは事実である。

 例えば75分、右からのスローインを矢野と山本が流れながら起点を作り、ボランチの松本も絡み最後はジュニーニョがシュートに至ったシーン。セットプレー崩れの85分には西谷のロングボールを矢野⇒畑と繋ぎ、柳のシュートがわずか右に外れたシーンもあった。選手どうしの距離感が良くなったことで、強引にでも固められたゴール前からシュートを打つ隙間を見出すことはできていた。

 

 わずかな時間ながら小野寺も空中戦の強さを見せたことで、スタートから柳をFW起用しようという呼び声は高いが、個人的には終盤に攻撃参加するからこその迫力だったり怖さを見せ付けられるのだと思っている。そういう意味ではFW柳待望論とチームの不調はリンクするのかなと。いずれにせよ柳の攻撃参加などによる枚数的な厚みと距離感の改善によってこれまでと同じ形からでもゴールへの可能性が高まっていくことは間違いない。終盤の猛攻を仕掛けた感触は大事にしていきたいところである。

 

 

終わりに

 試合後の吉田監督のガッツポーズやベンチの雰囲気、試合後のインタビューを見ると、チーム全体でこの一試合に懸けてきた想いの大きさが伝わってくる。栃木が気持ちで負けていたとは思わないが、秋田が強く高い志を持って闘っていることは確かだった。

 栃木としては岡山戦と比べて全体的に改善の色は伺えたが、昨季の躍動を考えればまだまだもの足りなさは否めない。単調さが薄れた攻撃面も借り物で戦っているような、まだ自分たちのものにしていない感があるし、あっさりしたサイドでの守備対応も気になる。総じて言えば田坂監督のいうパワー感不足というところか。今季のレギュレーションを考えればこのままズルズルいってしまうのはさすがに避けたい。早くも正念場にあると言える。

 

 

試合結果・ハイライト

栃木SC 0-1 ブラウブリッツ秋田

得点 11分 沖野将基(秋田)

主審 柿沼亨

観客 3706人

会場 カンセキスタジアムとちぎ