スターティングメンバー
栃木SC [3-4-2-1] 昨季14位
昨季までのアグレッシブなスタイルにクオリティを加えるべく新たに時崎悠監督を招聘した栃木。新加入6人が先発を飾り、システムは3バックを採用するなどさっそく時崎流が窺える先発となった。昨季の主力組の多くはベンチスタートとなった。
ブラウブリッツ秋田 [4-4-2] 昨季13位
吉田監督3年目となる今シーズンは10位以内を目標に掲げて始動。多くの主力が残留し、そこに青木や小柳などいかにも秋田のスタイルに合いそうな選手が新たに加わった。ベンチの池田、小暮は降格した愛媛からの新加入。J2初白星を上げたスタジアムでの開幕戦勝利を目指す。
それぞれの道を選んだ両者
昨季の栃木と秋田は似たもの同士と捉えられることが多かった。ともにロングボールを放り込みあえて落ち着かない展開に持ち込むことで、フィジカル自慢の選手たちを生かしていく。五分五分のボールを収めれば相手が守備を構える前に再び放り込む。そうやってカオスを作り出すことに注力し、相手の出方を見るというよりは自分たちの土俵に引きずり込むことで主導権を握りたいというのが両チームの特徴をであった。極端なスタイルゆえに「尖っている」と評されることもあった。
J2でもある意味存在感を放っていた両チームだが、似たもの同士である以上抱えていた課題も共通だった。五分五分を制することが前提となるため決まった攻撃パターンを構築することができず、その場その場の即興性に頼らざるを得なかったことである。思うように得点数を伸ばせなかった原因の一つといえるだろう。
そのような昨季を踏まえて迎える今季はそれぞれの角度から進化と改善に着手することとなった。これまで取り組んできたカオスにおける勝率をさらに引き上げ、スタイルに磨きをかけようというのが秋田で、即興性に頼り過ぎずに確実性を高めることでクオリティを上げていこうと舵を切ったのが栃木である。
そうなると栃木はこれまで取り組んでこなかったボール保持によるビルドアップを求められることとなる。総入れ替えとなったバックラインはそれぞれがボールを持つことを苦としていない印象を受けたが、それでも今の段階では相手を動かすほどの効果的な繋ぎが出来ていたかは微妙といえるだろう。秋田のプレスに対して十分な人数を確保しながらもビルドアップがままならず蹴り出してしまうことが多かった。パス精度やパススピード、選手の立ち位置などここのベースアップには時間がかかりそうな雰囲気である。
そのなかでもビルドアップ初心者の栃木において繋ぎのキーマンになりそうなのが左CBの大森。左利きで正確にボールを扱うことができ、サイドアタッカーらしく周囲との連携から上がっていくこともできる。ビルドアップの始めのところで佐藤や西谷がバックラインに下りることで大森をフリーにし、福森やトカチらと流動的なパス交換からサイドを進出していく形は今年の武器になりそうである。
時崎監督が左利きであることを必須とするのがこの左CBのポジションだろう。左足でボールを扱うことで前方の視野を取りやすくしタイミングよい攻撃参加を促す。2トップを相手にするのであればボランチのサポートなしで前進できるようにしたいが、ここはこれから着手していけばよいところ。
それよりも早く改善したいのが逆足配置となっている左WBのところ。右利きであることから福森はボールを貰うときに体が後ろ向きになりやすく、縦を切られて大森へ戻すシーンが何度もあった。バックパスは相手のプレスのスイッチにもなりやすいため、前半20分のような大森の抜け出しや、トカチが外に流れて瀬沼へのコースを作るなど流動的に行えるのが理想である。
一方右サイドは黒崎が一人で相手を抜いていったり、右CBの鈴木が内側や外側から駆け上がっていくなどバリエーションは豊富だった。チームとして左サイドに人数をかけて作ってから右サイドというパターンはあるのかもしれない。プロ初先発となった小堀もゴール前でのターゲット役やサイドに流れるスペースメイクの判断が良く状態の良さが窺えた。
秋田の攻撃はこれまで同様に前へ前へと推進力を押し出す重厚感ある攻撃だった。特に手を焼いたのが群馬から加わった青木。栃木の3CB脇に流れながらのボールキープは抜群で、内側を覗いてからのクロスに武が合わせた場面はポストを叩くなど2トップの関係性も良好に見えた。
栃木はグティエレスを中心にラインを調整しながら前向きに跳ね返していくが、正直ここは柳を擁した昨季ほどのパワー感はないだろう。ただ、クロス対応や早めのチェックなど予測と反応に関しては十分秋田の攻撃を抑えることができていた。堅実さと攻撃面での貢献を考えれば収支はプラスといえる。間髪入れないロングボールを受けてしまう時間帯があったものの、秋田のハイプレスをかいくぐって逆サイドからカウンターを発動するなど攻撃への移行もそれなりにできていた。
攻守に確かな手応え
ビルドアップに取り組んだ前半とは一転、後半はロングボールを多用。CB間のパス交換も減り、秋田のプレスを待たずに供給することもあったのでおそらくハーフタイムに指示があったのだと思う。自陣でのリスク管理を取ったのか、勝ち目の見えるポイントがあったのかは正直分からなかったが、少なくともセカンド争いではトカチやボランチ勢が球際の強さを発揮してボールを回収できていた。
その流れのなかから栃木は先手を取ることに成功。瀬沼と黒崎がサイドで粘ると中盤を経由してボールはトカチへ。鋭い切り返しから放ったシュートは西谷に当たったことでコースが変わりGKの逆をつく格好となった。
【2/19秋田戦】
— 栃木SC公式 / Tochigi SC (@tochigisc) 2022年2月19日
2月19日(土)にホームで行われましたブラウブリッツ秋田戦のハイライト動画を公式YouTubeチャンネルにアップしました🎥
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ビハインドとなった秋田は3枚替えを敢行。消耗の激しい2トップをフレッシュな選手に入れ替え、左サイドには高瀬を投入。交代でトップに入った齋藤にはスピード勝負で苦しめられた昨季の印象が強いが、この日目立たたなかったのは的確なラインコントロールと機動力あるDF対応が彼のプレースペースを奪い自由にやらせなかったからだと思う。
どちらかといえば左SHに入った高瀬の方が厄介だった。これまで左サイドには茂や飯尾など右利きの選手が入っていためそれほどクロスが上がることはなかったが、左利きの高瀬が入ってからはクロスを量産。ゴール前の混戦には入ることなく常に左サイドに張ることでタスクを明確にし、何度も良質のボールを供給した。栃木が両WBを入れ替えたのはこの時間帯であり、秋田にサイドから押し込まれ始めたことと無関係ではないだろう。クロス対応という昨季の課題に対して選手を入れ替えながら粘り強く対応した。
栃木はロングボールのポスト役として瀬沼が動きながらターゲットになれるのは大きかったし、人への意識が強い秋田の守備を逆手に取ることでCB間に入り込む小堀も素晴らしかった。組織的な攻撃の落とし込みがこれからという現状においては、少人数でのユニットによる崩しは大事にしたいところである。
終盤は秋田が押し込んで栃木は跳ね返す時間帯が続いたものの、決定的なチャンスは作らせず。矢野や谷内田など途中出場の選手も巧みなボールキープで効果的に時計の針を進められたことで危なげなく試合をクローズ。西谷の得点を守りきった栃木が8年振りとなる開幕戦勝利を飾った。
最後に
なによりもまずは試合ができたことへの安堵が正直な感想である。キャンプ中止という前代未聞のトラブルを乗り越え、短い準備期間のなかでもチームはやれることをやり切った。難しい状況下で掴んだ勝ち点3はチームに大きな自信と一体感をもたらすことに違いない。
攻撃面で大きな変化を求めるのは現段階では難しいだろう。この日前半見せたビルドアップはまだまだ繋いでいるだけという印象が拭えず、ビルドアップにほとんど取り組んでこなかったチームにとって戦術の落とし込みは相当時間を要しそうな印象である。ただ、チャレンジせずに得られるものはないことを考えれば、開幕戦でトライした姿勢は今後の所信表明として受け取るべきだろう。まだまだ始まったばかり。これまでの強みと弱みに正面から向き合った新生栃木がどのようにな軌跡を描いていくのか期待の高まる開幕戦となった。
試合結果・ハイライト
得点 58分 西谷優希(栃木)
主審 田中玲匡
観客 2956人
会場 カンセキスタジアムとちぎ