栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【良くも悪くも継続路線】J2 第1節 栃木SC vs ファジアーノ岡山

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はじめに

 2020シーズンは過去最高の順位にあとわずかに迫ろうという10位でフィニッシュした栃木SC。一昨年からの躍進を印象づけたことで多くの主力が旅立っていったが、強気の姿勢は今年も変わらずだ。目標は「一桁順位と勝ち点60」。トレーニングマッチも含めてここまで完全非公開で調整を進めてきただけに、ファン・サポーターにとっては待望の開幕戦となった。

 

スターティングメンバー

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栃木SC [4-4-2] 昨季10位

 メンバー発表時は3バックなのか4バックなのか、4バックなら右SBに入るのは誰か、と様々に予想された開幕ラインナップだったが、蓋を開けてみれば4バックで菊池が右SB起用。森、山本、佐藤辺りはあくまで昨季と同じ役割なのかな。新戦力5人が先発となり、上田にとってはさっそくの古巣対戦となった。

 

ファジアーノ岡山 [4-2-3-1] 昨季17位

 有馬監督体制3年目の岡山。赤嶺や上田など長らくチームを支えたベテラン選手たちがこぞって退団し、宮崎や木村、ベンチ入りした梅田や川本など若手が多く加わったことで全体的に若返った印象がある。有馬サッカーの勝手知ったる既存戦力と新戦力それぞれの顔ぶれを見るとバランスの良いメンバーのような気もする。

 

 

■同じ土俵だとかえって戦いにくい

 ハイプレスハイラインによるストーミング戦術は今季も継続路線の栃木。ボールを失うことを厭わず前へ前へボールを運び、たとえ失っても襲いかかるようなプレッシングで即時奪回を狙っていく。完全非公開でのチームづくりのため地元紙や番記者から漏れ聞こえてくる情報からでしか判断できないが、大枠はこれまでとそう変わりないだろう。そこに合う選手たちも新たに加わった。

 こと開幕戦においては、対戦相手を分析して対策を練るというよりは、プレシーズンに取り組んできたことを表現するという意味合いの方が相対的に強いと思う。それを踏まえれば、岡山の対栃木を意識した割り切った戦い方は開幕戦ながら勝負にこだわった采配だったと言えるだろう。

 立ち上がりからロングボールが飛び交う展開のなか、栃木としてはどこかで岡山がボールを保持して試合を落ち着かせるタイミングを見計らっていたはずである。そこにつけ込んでプレス強襲し、ショートカウンターから一気に畳み掛けるのが大きな狙いだからである。ただ、岡山はその隙を作らず、栃木のリズムに合わせるように素早くボールを手放すことでプレスの的を絞らせなかった。セカンドボール勝負を重視した有馬監督が序盤から仕切りに声とジェスチャーでコンパクトさを保つように指示していたのが印象的だった。

 プレッシングを牽制されてしまうと、現時点の栃木には堅いブロックを突破できるほどの崩しのアイデアはまだない。自分たちの攻撃ターンではとにかくロングボールを供給するほかなく、単調な攻撃は岡山に難なく対応されてしまった。

 

 

■どうゴールに迫っていくか

 栃木としては自分たちで意図して入れたロングボールの回収率自体は決して悪くなかったと思う。既存戦力の森、山本、佐藤の頑強さは相変わらずだし、新戦力の松岡や上田も果敢に球際バトルに参加していた。スタイルへの適応が心配された上田も特段問題はなさそうだ。

 前半の飲水タイムを迎えるまではセカンドボールを回収してからサイドに運び、セットプレーを獲得。上田のCKもしくは面矢のロングスローという流れで何度かゴールに迫ることができていた。CBの高杉と柳はともにシュートを打つに至っており、セットプレーを含めた攻撃の構築はまずまずだったのではないかと思う。相手GKが触れそうで触れない上田のアウトスイングのCKはさすがの一言。これだけ高精度のキックの持ち主は菊岡以来のような気がする。

 一方で、オープンプレーではチャンスらしいチャンスを作ることができず、岡山の集中した守備に何度も阻まれてしまった。強いて惜しいシーンといえば、56分の上田が敵陣でボールを奪ってから松岡→畑と縦に早く繋いだ攻撃。中央突破でゴールに最短距離で向かったが、松岡のラストパスが少し伸び畑はシュートに至らなかった。狭い距離感での縦に早い攻撃はどうしても即興性が問われるため、チームとして攻撃のイメージを共有し、個人としてはいかに一つのパスやトラップの精度を高めていけるかが重要である。(言うは易しなのだが、これが一番難しい。。)

 

 アタッキングサードでの崩しに悩む栃木に対して、岡山はサイドでうまく栃木を困らせるシチュエーションを作り2得点を上げることができたと言える。

 1得点目は右サイドに流れた齊藤がボールを収めたところから。河野、木村、白井が細かくボールに絡み、外側を回っていく木村がフリーに。人もボールも効果的に動けたことで数的優位を作り、クロスからエリア内での面矢のハンドを誘った。栃木側とすればマークの受渡しが曖昧になってしまったと言える。

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 2得点目はシステムを[5-4-1]に変更し、守備の安定感を取り戻してから生まれたものだが、ボールを収められる山本が1トップに入ったことが大きい。左サイドに流れながらボールを引き出し味方の上がりを促すと、最終的には右SHにポジションを移した齊藤がフィニッシャーに。この瞬間、栃木は山本に釣り出されたことでCB柳と右SB菊池の位置が入れ替わっており、クロスに対して十分な準備ができていなかった。

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 どこで起点を作り、どうゴールに迫っていくかという点で岡山が優れていたのは間違いない。チーム全体が崩されたというよりは局面で後手を踏んだような印象だが、クロス対応に難があるというのが現状だろう。中の対応もそうだが、クロスを十分に上げさせない予防的な側面でも改善の余地がありそうだ。

 

 

■新戦力の印象は?

 開幕戦なので最後は新戦力に焦点を当てて感じたことをいくつか。

 この日メンバー入りした新戦力は9人。うち5人がスタメン入りを果たすなど、継続路線とはいえチームの半数が入れ替わったと言える。純粋に昨季まで所属していた選手の代わりになってほしいというわけではないが、そのレベルを一つの水準として越えていってほしいという思いは強い。

 無得点での敗戦となると一概にインパクトを残したと言える選手はいないかもしれないが、そのなかでも印象的だったのが上田康太。前評判どおりの高いキック精度でセットプレーの脅威になったし、強度の高い試合においても心配はないことを証明した。この試合で披露することはなかったが、プレッシングゲームになった場合にどれだけ栃木式のスライドをこなせるかには注目したい。

 次点では菊池大介と面矢行斗。吉田将也にトラブルがあったのか右SBで起用された菊池だが、選手層を考えればやはりSBがメインになるのだろうか。対面の上門には絶対やらせないという激しいボディコンタクトには強い意志が現れていた。東海大から加入の面矢はPK献上のほろ苦いデビューとなってしまったが、体の強さや大きさは黒崎を思い出させる期待感がある。

 落ち着かない展開となったことでツートップの畑潤基と松岡瑠夢にとっては難しい試合になってしまった。畑は179センチと決して大柄ではないため相手に抑え込まれてしまった。松岡は足元にボールを収められれば一瞬の切れ味を見せるクイックネスがありそうだ。ともに今季のFWの主軸となる選手のため早めの一発目が欲しいところである。

 

 

終わりに

 栃木としてはしてやられた感の強いスタートとなってしまった。ボールを手放すことを厭わないチームは昨季も苦手としていた相手だが、それは今季も継続だと言える。昨季はロングボール戦術のなかに変化が生まれたのが、西谷がボランチ起用されるようになった第8節群馬戦からだが今季は果たして。西谷自身もそうだし、実戦にフィットしてくれば上田も司令塔として指揮できる実力は十分にある。この試合についてはそういう日もあると思って、これからのチームの伸び代を気長に見守っていきたい。

 

 

試合結果・ハイライト

栃木SC 0-2 ファジアーノ岡山

得点 23分 宮崎幾笑(岡山)

   75分 喜山康平(岡山)

主審 井上知大

観客 4616人

会場 カンセキスタジアムとちぎ