スターティングメンバー
栃木SC [3-4-2-1] 昨季17位
昨季所属した選手の多くが残留し、継続路線による積み上げを図る栃木。昨季はトラブルにより中断したプレシーズンのキャンプも無事消化し、万全の体制で開幕を迎える。最終ラインには新加入の福島と岡崎が入り、佐藤と西谷の新旧キャプテンがボランチのコンビを組んだ。
ロアッソ熊本 [3-3-1-3] 昨季4位
J2復帰1年目はあと少しでJ1昇格に届くという大躍進を遂げた熊本。センセーショナルな活躍の宿命というべきか、このオフには主力選手が大量に退団。大木監督のもとチームはリスタートを図る。最前線には昨季J3鳥取で15ゴールをあげた石川が起用され、左WGの松岡はいきなりの古巣対決となった。
準備してきた攻撃の一端
昨季はリーグ3位の堅守を誇った一方で、得点数はリーグワーストを記録した栃木。目標とするJ1昇格に向けて得点力向上が必要なのは明らかであり、昨季のメンバーが多く残るなかでいかに精度を高められるかが、順位の浮沈を握る大きなテーマとなる。
プレシーズンは攻撃のトレーニングに時間を割いたということだったが、試合は立ち上がりからロングボールを基調とするシンプルな攻撃が多かった。熊本のハイプレスをどれだけ嫌ってのものかは分からないが、開幕戦の独特な雰囲気も考慮し、やや慎重な姿勢を見せたと言えるだろう。全体的な人選もそうした戦いを念頭に置いてのものだった。
自陣から一つずつ繋いで前進する形は少なかったが、それでもセカンドボールを制してからの展開ではプレスをスムーズにかわして前を向く場面が何度かあった。
ポイントとなったのはボールサイドとは逆のハーフスペース。セカンドボール回収後のように、攻守が切り替わる局面では特に中盤にはスペースが生じやすい。良い状態でシャドーがボールを受けられれば素早く逆のWBに届けることができるし、23分のように意表を突くスルーパスも高萩なら繰り出すことができる。左右CBの福島や大谷がパスの出し手になり、根本や攻撃参加した佐藤が落としたボールをシャドーが逆サイドへ捌くパターンも見せるなど、ピッチを横切る前進手段を周到に準備してきたことが窺えた。
プレッシングを整理
栃木とは対照的にメンバーがガラリと変わった熊本だが、そこは大木監督の手腕が大きく、独特な[3-3-1-3]のシステムから展開されるサッカーは昨季のスタイルのままハイレベルなものだった。
熊本のシステムで面白いのはSH三島と竹本のポジショニング。守備では3CBとともに最終ラインを構成するWBとしてプレーするが、攻撃時は中に絞ることでセンターラインの藤田や平川と近い距離感でプレーする。大外をWGとスイッチしてプレーすることも少なくなく、さらには平川も神出鬼没にボールに関わることから、プレスが定まらない栃木は徐々に序盤の主導権を譲ることとなった。
松岡のシュートがクロスバーを叩くなどいきなり劣勢を強いられた栃木だったが、流れを変えるきっかけとなったのは右CB福島が竹本に寄せていきボールを奪い取った15分のプレーだろう。この辺りの時間から栃木はプレッシングが整理された印象であった。WGに対してはWBが、竹本・三島の両SHには平川のポジションを気にしながら左右CBとボランチが受け渡しながら寄せていく。それに合わせて中盤もボールサイドにスライドし、サイドに閉じ込めることで熊本からボールを絡めとるシーンが増えていった。熊本がサイドの狭いエリアを好んで繋いでいたため、上手く回収して逆サイドにボールを持ち出せれば一気にチャンスに。23分の高萩から根本へのスルーパスもそうした展開から生まれたシーンだった。
ペースを取り戻し自分たちがボールを持つ時間を取れるようになると、栃木は高萩を中心とした遅攻も展開していく。高萩が右サイドの低い位置でボールに関与することで黒﨑や福島を前へ押し出したり、左サイドに流れて密集を作ることで黒﨑のアイソレーションの効果を高めたりと、高萩の立ち位置をトリガーにボールを動かしていく。
サイドに蓋をされ前進できなかった熊本も前半半ば以降はSHをより内側に留まらせることで栃木のボランチと左右CBの動きを牽制しつつ、平川のハーフスペース突撃を敢行。平川の抜群のキープ力や竹本の強引な突破から流れを引き戻しにかかる。
守備からペースを取り戻した栃木だったが、前半のシュートはわすが1本のみ。ポストを2回叩くなど運も味方につけ、スコアレスでハーフタイムを迎えた。
左右CBの押し上げでペースを握ったが
後半の立ち上がりは栃木ペース。前線から連動してプレスをかけていくことで熊本のミスを誘い、セットプレーやクロスからゴールに迫っていく。
序盤の押し込む展開を維持できたポイントとして左右のCBによる積極的な攻撃参加の影響が大きい。とりわけ左CBの大谷はボールを持ち運ぶだけではなく、味方に預けてから前線へのランニングを繰り返し実行。森へのサポートを手厚くすることで、森がサイドに追いやられて孤立する前半のようなシーンは明らかに減っていった。大谷の押し上げを促すボランチ勢のカバーも効果的だった。
右CBの福島も内外を使い分けながらの攻撃参加で前線に関与。前任の鈴木海音と比較すると、福島の方がどちらかといえばよりSBタイプなのだろうという印象を受けた。黒﨑と連携するシーンこそ少なかったが、積極的に駆け上がることでサイド攻撃に厚みを増していった。
その影響もあってか、後半熊本はマイボール時に最終ラインに藤田を落とす4枚回しを多用。時には竹本も後方支援に回るなど、保持の局面で落ち着けるよう栃木のプレスを凌ぐための打開策を探っていく。
それでも優勢に試合を進めるのは依然ホームチーム。65分、素早い切り替えからカウンターを発動すると、DFの寄せを振り切った大森が中央を突破し、右の黒﨑へラストパス。黒﨑はGKと1対1の局面を作ったが、惜しくも好セーブによって阻まれた。
攻守に良い循環ができていた栃木に見えたが、先に試合を動かしたのは熊本の方だった。右WGの粟飯原がプレッシングの流れで左サイドに流れると、次の展開でボールを回収し粟飯原のもとへ。利き足サイドでのプレーとなったことから縦への突破でクロスを供給すると、ニアサイドで石川が見事に合わせた。一瞬の精度の高さを見せつけた熊本にとっては、まさにピンチの後に迎えたチャンスだった。
昨季とは対照的な結末
途中出場した選手に注目すれば、終了間際の同点弾をアシストした安田は殊色の出来だったといえるだろう。相手のタイミングを外す間合いから鋭いクロスを供給し、短い時間で大きな仕事をした。
そのほかの選手はなかなか試合に入ることができなかった印象である。およそ30分間のプレータイムを与えられた宮崎も、ボールの落下点に相手に先に入られてしまう場面が少なくなかった。81分に松岡に2枚目のイエローカードが提示され数的優位に立ってからは、CB岡崎のパワープレーも加わり一方的に押し込む展開になったが、流れのなかでのチャンスはほとんど作れなかった。
一方で、退場を招いた場面にも見られたように、体力的に厳しくなる終盤まで攻守の切り替わる局面での出足で上回れたのはポジティブなところ。得点という側面で見ても、終盤の失点で多くの勝ち点を落とした昨季とは対照的でプレシーズンの走り込みの効果がさっそく表れたといえるだろう。
試合は栃木が終了間際の劇的ゴールで追い付きドロー決着。互いに勝ち点1ずつを分け合う結果となった。
最後に
良くも悪くも継続路線が色濃く見えたパフォーマンスだった。得点力向上についてはこれまでどおり取り組まなくてはならない課題だが、昨季ノーゴールに終わった森に開幕戦で待望の得点が生まれ、それをもたらしたのがチーム最年少の安田というのはいかにも期待感が高まる組み合わせである。ブレイクの予感が漂う選手は他にも多く在籍しており、彼らの爆発をとにかく待つばかりである。
まずは勝ち点を獲得するスタートを切れたことに安堵しつつ、引き続き課題に向き合いながら次の試合に向かっていきたい。
試合結果・ハイライト
得点者 68分 石川大地(熊本)
90+1分 森俊貴(栃木)
主審 先立圭吾
観客 6882人
会場 カンセキスタジアムとちぎ