はじめに
前節福岡戦はシュートを4本に抑え込まれ、0-1で敗戦した栃木。なかなかプレスがハマらず終盤に与えたFK一発が決勝点となった。今節の対戦相手は長崎。調子を落としている上位を相手にホームで勝ち切りたい一戦だ。
スターティングメンバー
栃木SC [4-4-2] 8位
ホームの栃木は前節から3人変更。MF岩間は古巣との対戦。同じく古巣対戦の高杉は前回対戦と同様にメンバー外となった。ベンチスタートとなった韓勇太は第14節福岡戦(●0-1)以来のメンバー入り。
V・ファーレン長崎 [4-4-2] 4位
9月に行われた8試合は勝ちなし(5分3敗)だった長崎。順位を首位から4位まで下げ、正念場を迎えている。FWイバルボは6試合ぶり、負傷の角田に代わりCBには前回対戦で得点しているフレイレが先発となった。
カバーリングに重きの置かれた守備
ここ2試合はボール保持に拘らないチームとの対戦が続いたことで、思うようにプレスが刺さらなかった栃木。今節の対戦相手はリーグ上位のパス数とポゼッション率を記録する長崎とあって、栃木にとっては比較的与しやすいタイプのチームだったと思う。そんな試合前の予想どおり、溌剌としたプレッシングと縦に早い攻撃で敵陣に押し込んでいく立ち上がりとなった。
プレスをかけるときの2トップは縦関係。エスクデロはカイオセザールをケアし、明本が目の前の相手を追いかけるいつもの形。
個人的に「おや?」と思ったのが、SHのプレッシングのタイミングが早めだったこと。長崎が最終ラインを通常の4人でビルドアップしようとする際に、CB(二見)に対してSH(山本)がプレスをかける場面があった。おそらくこれは、ボランチの秋野が下りて3バック化したとき用のものだったと思う。SB裏をカバーするボランチ(佐藤)は移動距離が長く大変そうだったが、全体としての迫力はあった。
栃木が敵陣でのプレータイムを増やすなか、先制に成功したのはここまで劣勢だった長崎。栃木の縦パスを亀川がカットすると、中央のカイオセザールから名倉へ。ブロックの隙間を縫う仕掛けから左足を振り抜きゴールネットを揺らした。
縦パスを入れたい出し手とロングボールに備えたい受け手の判断のズレもそうだが、栃木にとって最も痛恨だったのが、カイオセザールに規制がかからなかったこと。守備時の担当のエスクデロは前に行っていたし、佐藤はカバーリングで持ち場を離れていた。これだけ中央に時間とスペースを与えてしまえば、失点の可能性も高まってしまう。
助っ人の働き
リードを得たことでメンタル面で余裕の生まれた長崎。栃木のプレスにも徐々に慣れてきたことで、主体的にボールを回す時間が増えていく。
長崎のボール回しに安定感をもたらしていたのがカイオセザールとイバルボの二人。カイオセザールは体の大きさを生かしたセカンドボール争いやボールキープで存在感を発揮し、簡単にボールを渡さない。イバルボは中盤に下りて曖昧な立ち位置を取ることで、栃木のプレッシングの的を絞らせなかった。
前半25分にはイバルボの下りる動きを起点に、最終的にはカイオセザールのシュートがポストを直撃。前半30分にも手数をかけずにカイオセザールが抜け出す場面があった。
対照的にマイボールになった展開に困っていた印象の栃木。最終ラインを助ける岩間を活用できた場面はなく、中盤に残る佐藤のプレーも不安定だった。そもそも捌くタイプではないので仕方ない側面もあるが、それを見越して長崎がボールを持たせたのであれば、見事な采配であった。
ロングボールで敵陣に起点をつくることもあったが、ゴールに迫ることはできず。長崎のリードで前半終了。
決まりごとがピンチに
後半最初のプレーで左サイドでの細かいパスワークからゴールに迫る長崎。前半同様、栃木のボランチが中央を空けたときのスペースに進出したものであり、栃木にとって、カバーリングを徹底すればするほどピンチを招く構図になっているのは何とも皮肉だった。
それでも栃木は、後半から投入した瀬川を中心に左サイドから攻撃を活性化させることはできていた。瀬川がサイドで深みを取れるようになると、他のアタッカーへのマークが分散し、森や山本がカットインからミドルシュートを打つ場面を演出。交代を機に攻撃全体がパワーアップした印象だっただけに、ペナルティエリア外からでも枠に入れたかったところである。
GKオビのロングキックを競った後のセカンドボール回収や、途中出場の西谷優希の対角フィードでSBを高い位置に押し上げる栃木。左の瀬川や右に移った溝渕がクロスを入れる場面を数多く作ったが、ニアを狙うクロスに中が合わせられず、かえってカウンターを招くシーンの方が目立ってしまった。
それ以外にも前傾姿勢を強めたことで背後を突かれる回数が増加。超人的な反応速度のGKオビのビッグセーブとゴールポストには何回助けられたことか。
終盤にかけて栃木は矢野、大島、韓勇太と攻撃的な交代カードを次々に切っていく。対する長崎も加藤、鹿山、玉田を投入し、フォーメーションを変更して重心を後ろに下げていく。
最後は柳もパワープレー要員として攻撃参加したものの、ゴールネットを揺らせず試合終了。栃木は無得点での2連敗。長崎は9試合ぶりの勝利となった。
最後に
点差以上にやられた感の強い試合だったように思う。もちろん被決定機を多く作られたために感じている部分でもあるが、それ以上に守備の骨組みを破壊されてしまったインパクトの方が大きかった。長崎の思うようにスライドを強要され、セオリー通りのカバーリングを行っているにも関わらず、中央のエリアを尽く使われてしまった点は痛恨だった。これまでも研究されている感覚はあったが、ここまで徹底的に繰り返された試合は初めてだったと思う。
プレッシングを武器とする栃木にとって、背後のカバーリングは切っても切れないものだが、ボランチが大きく動いてしまえば中央を閉めるという守備の大原則から離れてしまうのも事実。いかにリスクを抑えながらプレッシングを磨いていくか。連戦が終わった今、改めてスタイルの有効性を見つめ直す局面にあるのかもしれない。
試合結果
得点 14分 名倉巧
主審 大坪博和
観客 2,701人
会場 栃木県グリーンスタジアム