はじめに
福岡、長崎と上位チーム相手に連敗を喫した栃木。スコアはともに0-1と得点力不足は引き続き課題である。今節の対戦相手は大宮。前節こそ東京ヴェルディに敗れたものの、一時期の不調からは脱した感がある。勝ち点1差で迎えるシックスポインター。栃木としては勝利した前回対戦の再現を狙いたい一戦となる。
スターティングメンバー
栃木SC [4-4-2] 10位
アウェイの栃木は前節から3人変更。プレッシングを牽引してきた明本は警告の累積により出場停止。前節負傷交代の佐藤もメンバー外となった。ここまで全試合に出場してきた二人が不在となるが、その穴を埋めることができるか。GKオビにとっては育成年代を過ごした古巣との対戦となる。
大宮アルディージャ [3-4-2-1] 11位
ホームの大宮は前節から2人変更。前節先発した菊地とクリャイッチがメンバーから外れ、シャドーには黒川、GKには笠原が起用された。笠原は第3節以来の出場。ベンチスタートの酒井は第4節以来のメンバー入りとなった。
ハイプレスで消せないところ
試合開始からいつもどおりプレスをかけていく栃木。抜群の切れ味を見せる明本はいなくとも、前線から連動してサイドに追い込もうという気概は画面越しからよく伝わってきた。高い位置で奪えればそのままショートカウンターに移行し、最短距離でゴールに迫るいつものプランである。
対する大宮も栃木がプレッシングを仕掛けることは十分分かりきっていること。栃木のプレッシングに引っ掛かる前にボールをリリースしていき、栃木のボランチがSBのカバーリングに回ったタイミングでイバに斜めのパスを差し込むようにしていた。栃木にとってここでの勝敗は次の局面を左右する最重要ポイントであり、田代や柳は反応素早く、激しいコンタクトを何度も見せていた。
栃木にとって誤算だったのがCBが弾き返した後のセカンドボールをなかなか拾えなかったこと。こぼれる先には大宮の選手が複数スタンバイ。栃木はボランチの一枚がカバーリングでサイドに流れ、SHはハイプレスからのプレスバック中のため、一時的に数的不利な状況になってしまっていた。前半7分には小島に拾われ、最終的にイッペイシノヅカにシュートを打たれるシーンがあった。
中盤での数的不利はハイプレスの際にも徐々に顕在化していく。栃木はプレスをかけるときに2トップが縦関係になり、エスクデロがボールサイドのボランチを見る役割になっていたのだが、右サイドにボールがある際の三門の動きに連られて、小島をフリーにさせてしまうことがあった。フリーの小島は左サイドからボールを引き取ることで栃木のプレスを外し、右サイドに散らすことで大宮のビルドアップを安定させていた。
中盤の数的不利によりプレスをかけ切れない栃木。大宮は追い討ちをかけるように三門が左ハーフスペースを掌握することで、ボールの支配をさらに強めていく。立ち上がり早々に河面の負傷交代を余儀なくされた大宮だったが、概ね狙いどおりの内容だったといえるだろう。
トランジション勝負に持ち込みたいけど
ハイプレスを対策されたことで、ボールを奪う位置が自ずと自陣深くになってしまう栃木。なんとか攻めようとボールを持ち出しても、自陣から出るのに時間を要する分、大宮に[5-4-1]ブロックを構える時間を許してしまう。
加えて、大宮は前からプレスをかけずにボールを明け渡す撤退守備を選択していたため、不慣れな遅攻を強いられた栃木はアイデア不足を露呈。ボールを保持してもロングボールを選択してしまい、強固な大宮を相手にフィニッシュまで持ち込めたシーンはほとんどなかった。
それでも、回数こそ少なかったが、守備から攻撃に切り替わったタイミングで矢野が3バック脇に流れたり、ボール保持から同様の形を作ったりと、用意していた攻撃パターンの一端は垣間見えた。
ボランチへのケアを優先
はじめは小島にボールを散らされ、徐々に三門に右サイドを押し込まれていった栃木は、飲水タイムを経てプレスのかけ方を修正。2トップはそれまでの縦関係から大宮のボランチを意識した横並びになり、プレッシングで縦関係になったらSHが内側に絞ってボランチへのパスコースを消す守備に変更。前半32分には良い形でセカンドボールを回収し、カウンターを発動するシーンがあった。
互いに最終ラインがボールを持つことはできるが、堅く閉ざされている中央を打開するには至らず。アタッキングサードでのパスミスやノーチャンスのクロスが頻発してしまっていた。一方、クロス対応やシュートブロックなど守備に関しては相手に付け入る隙を与えず、危なげなくシャットアウトできていた。
両チームともチャンスなくスコアレスで折り返し。
引き続きの課題
後半も前半同様、拮抗した展開で試合は進んでいく。はじめにチャンスを作ったのは栃木。後半3分、自陣ゴール前でイバからボールを奪うとエスクデロが矢野に預けてロングカウンター開始。最終的にエスクデロがゴール右側からグラウンダーのシュートを放ちCKを獲得した。
今思えば、栃木の決定機といえる攻撃はこのシーンくらいだったように思う。もちろん、溝渕のバー直撃のミドルシュートなどゴールに転びそうなシーンはあったが、偶発的な要素はどうしても拭えなかった。セカンドボール争いでファールを受けたり、タッチライン際を素早く攻めることで、セットプレーを得る機会は多かったが、いずれもシュートに至る一つ前のプレー精度がネックに。矢野に向けて上げられた高めのクロスが矢野を越えてしまったり、GKに直接キャッチされてしまったりと、ゴールに迫るシーンはほとんどなかった。
対する大宮は、栃木の三門への警戒心の高さを逆手に取ったビルドアップを敢行。
後半6分には三門の立ち位置でエスクデロを引っ張ると、西村から黒川に縦パスを供給。三門はそのまま左サイドに絡んでいき、渡部のクロスをお膳立てした。
後半20分には、三門が左サイドでフリーでボールを引き取るとパス&ゴーで左サイドを突破。戻しのパスを受けた黒川のクロスは乱れてしまったが、三門の絡んだ左サイドの組み立てては非常に効果的であった。
パスの出し手は左CBの西村がメイン。シャドーへの縦パスや下りてくるイバへの斜めのパスは絶妙であった。ルーキーイヤーとは思えないほどプレーは堂々としており、長身を生かした競り合いでも矢野に引けを取らなかった。
運動量の落ちてくる終盤は、セカンドボールへの出足で栃木がやや優位に。FKやスローイン、サイド深い位置からのクロスなどゴール前にボールを多く供給していったが、大宮のタイトな守備を前に合わせられず。最終盤に攻撃陣を次々と投入するも、フレッシュなパワーで相手を飲み込むのには時間が足りなかった。
試合は0-0で終了。勝ち点1を分け合う結果となった。
最後に
序盤こそ中盤のミスマッチを利用されて劣勢を強いられたものの、重心を下げてボールの出処を規制してからは互角に持ち込むことができたと思う。巧みなボール回しに翻弄された前節長崎戦を踏まえれば、試合中の修正で流れを相手に渡さなかった点はポジティブである。左サイドを動き回る三門に対してもうまくマークを受け渡すことで決定機を作らせることはなかった。
引き続き課題となっているのが得点力不足な点。とりわけフィニッシュの一つ前のシーンでのプレー精度の粗さが目立つ。プレッシングの仕組みを相手に研究されることで、奪いどころが低くなってしまい、ロングカウンターに頼らざるを得ないのは苦しいところである。幸いセットプレーや深い位置でのクロスなど、ゴール前にボールを運ぶ手段はある。一本のパス、一本のクロスを大事にしながら、時には溝渕のミドルシュートのように思い切りの良さも前面に押し出していくことも重要なポイントとなるだろう。
試合結果
得点 なし
主審 鶴岡将樹
観客 1,389人
会場 NACK5スタジアム大宮