栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【新生栃木SCの船出】J2 第1節 栃木SC vs ツエーゲン金沢(△0-0)

はじめに

待ちに待ったJ2リーグの開幕戦!

この試合を皮切りに長く険しい42試合がついに始まります。新たな監督、選手を迎えた新生栃木SCが一体どんなプレーを見せてくれるのか。高まる期待を胸に、今シーズンもマイペースにレビューを書いていきたいと思います。

 

開幕戦の対戦相手はツエーゲン金沢。過去6試合を戦い一度も勝てていない苦手な相手です。J2J3入れ替え戦の苦い記憶のある人もいるでしょう。就任3年目と組織を成熟させている柳下監督のチームに栃木はどのように戦ったのか。ホーム、グリーンスタジアムは開幕を待ち侘びていたサポーターの応援に包まれ、最高の雰囲気でキックオフを迎えました。

 

 

スタメン

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栃木は3-4-2-1のフォーメーションを採用。守備時は5-4-1を作り、強固なブロックにより相手の攻撃をシャットアウトします。新加入選手が6人先発に名を連ねましたが、特に注目されるのは新キャプテン藤原を中心としたDFライン。昨季の主力3CBが全員退団した不安を一蹴するような活躍に期待したいと思います。

 

対する金沢は4-4-2のフォーメーションを採用。栃木と対照的なのは新加入選手がいないということ。クルーニーがどんな選手か割と気になってはいたけど。注目は垣田とベンチ入りした小松。近年若手の登竜門と化している金沢で飛躍することができるか。長い目で見ていきたい選手たちです。

 

前半

リスクを避けた前半

開幕戦で、多くの選手が初めて使うスタジアムだったので、安全に、あまりリスクを負わないようにしようと。空中戦が多くなっていたので、慣れてきたらできるだけ下で頑張って繋いでいこうという話をしていました。(枝村選手の試合後コメント)

栃木はもう少しつないでくるのかなと思ったが、思ったより長いボールを使ってきた。(金沢 柳下監督の試合後コメント)

このコメントのとおり、栃木は立ち上がりから自陣で繋がずロングボールを多用。良いとは言えないピッチ状態や開幕戦という独特な雰囲気により起こりうるアクシデントを最大限に避けるというプランのもと試合に入りました。

ただ、ロングボールを入れても前線で収まらず。大黒や岩間がターゲットになっていましたが、金沢のCB山本を中心にほとんど跳ね返されてしまいました。

一方、金沢も栃木同様ロングボールを多用しましたが、ターゲットはフィジカル的に優位な垣田であり、効果的な前進の手段となっていた点に栃木との違いがありました。

 

ビルドアップvsプレッシングを巡る戦術的攻防

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金沢の立ち上がりのポスト直撃のヘディングや垣田の使い方を見れば、栃木がフィジカル的に不利なのは一目瞭然でした。なので栃木としてはなるべく垣田に余裕をもってボールを渡らせたくない。そのためにはロングボールの供給源を断ちたいということで、機を見て金沢のDFラインにプレッシャーをかけます。

前プレのスイッチはシャドーの両選手。金沢のDFが横や後ろを向いたタイミングで一気にスタートし、CB間のコースを切る大黒とともに一方のサイドに追い込みます。

図は前半9分のシーンですが、追い込まれた左SBの沼田は縦に入れても寄せられていることから、CBへパスを戻しています。結果的にはプレスを掻い潜られロングボールを入れられてはいますが、プレッシャーを受けたCB廣井のキックは精度の高いものではありませんでした。

 

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前進方法に陰りの見えてきた金沢は前半15分過ぎから微修正を施します。

図は前半17分に見られた形。CB廣井と右SB毛利の間、「ハーフスペースの入口」とも言えるエリアにCHの梅鉢が顔を出しボールをさばくシーンが見られるようになりました。

これにより栃木は誰が梅鉢にマークするかという問題が発生します。ボールサイドに近い西谷和希がプレスに行くと右SBの毛利が浮いてしまいます。CH枝村は下りる動きを繰り返す杉浦が気になりポジションを離れられず、また大黒もプレスをかけるには遠く、攻撃時のタスクを考えれば現実的ではありません。

この形は逆サイドでも同様に行われ、栃木のプレッシングに対する打開策として再現性をもって準備されたプレーでした。

これを受けて栃木も「金沢の下りるCHには対面CHでプレス」を軸に基準をはっきりさせます。これにより再びプレスが噛み合うと、栃木が少しずつ試合のペースを盛り返していきました。

 

遅攻に見られた栃木の新機軸

今季の栃木SCは、昨季までの良さを残しつつ全体的なバージョンアップをすることをメインテーマに掲げています。そのシンボルとなるのが「遅攻時の繋ぎ」です。

もちろん、昨季までの縦に早い攻めを捨てたわけではありません。田坂監督自身も相手からボールを奪った直後やトランジションの場面が最もチャンスになると明言しています。また状況によってはロングボールを主体的に用いることで、リスクを避けながら中盤の密集を越え、最短距離でゴールに迫ることもプランに入れています。むしろ速攻が第一目標です。

しかし実際には、相手が積極的にプレッシングをかけてきたり、完全に引き切ってブロックを形成するなど、シンプルに速攻を仕掛けることができない場面の方が多いと思います。そこで重要になるのが、相手のプレスを掻い潜りながらパスを繋いで前進していく「遅攻」になります。

 

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この試合ではリスクを回避するため序盤は空中戦がメインとなっていましたが、前半40分過ぎから、パスで繋いで前進していこうとする場面が数回見られました。

図の左サイドは前半40分、右サイドは後半28分に見られたシーンです。

前半40分の場面では、CB藤原から左WBの福田にボールが渡ると、間にいたCBの温井が外側を周りオーバーラップしました。そのタイミングで西谷和希と岩間はボールサイドに寄り菱形を形成。その後ボールが下がると、4人が右方向に旋回し岩間が左CB、西谷和希がCHの位置に入ることで菱形を維持し、攻撃を続けました。

菱形形成のメリットは、ユニットを意識したポジショニングによる数的優位の確保にあると思います。これは攻守両面でプラスに作用します。攻撃時はユニットの距離間が一定になることで、ボールホルダーには等しく3つのパスコースが与えられます。さらに、そのうち2つがダイアゴナルなパスコースとなり、相手にとっては捕まえにくい状況を作ることができます。また守備時は程よい距離感のユニットが間で受けた相手のボールホルダーに対して素早く囲い込むことを可能にします。

このように菱形の形成は攻守両面において非常に大きなメリットがあります。そのため状況に応じてポジショニングを整理し、ピッチの多くのポイントで菱形を作ることができれば、常に相手に対して優位性を得ることができます。この試合ではそれほど見られませんでしたが、今後どれだけ再現できるか、非常に楽しみです。

 

後半

徐々に流れは栃木に

プレスを噛み合わせたことにより前半を無失点に凌いだ栃木は、後半に入ると攻勢をかけます。

流れが栃木に傾いたポイントは大きく2つ。1つは風上に立ったことです。

風上でプレーすることにより前半に比べロングボールの飛距離が伸び、金沢のDFとGKの間にボールを落とせるようになりました。積極的に攻撃に参加する金沢のSBの背後を中心に、大黒や西谷和希、途中出場の平岡のいる左サイドから起点を作ることができていました。

もう一つのポイントはセカンドボールの回収数が増加したこと。

垣田の負傷により投入された小松はロングボールのターゲットになっていましたが、出し手にプレッシャーがかかっている分それほどボールを収められず。栃木はCHのプレスバックと3CBの対応によりセカンドボールを回収しマイボールの時間を増やすことができていました。運動量の落ちた後半30分過ぎになると、このシチュエーションがより顕著になりました。

 

「栃木のイニエスタ」こと寺田紳一

見出しは書きながらパッと思いついただけです。シャビよりはイニエスタ寄りかなぁと。異論は認めます。

ただ、およそ10分間の少ない出場時間で見せたプレーはスペインのスターを彷彿とさせる極上のプレーの連続でした。

ボールサイドに顔を出し相手を引き付けながら背後を回る平岡へのバックヒールパス、DFラインの裏へ抜けようとする西谷和希へのループパスなど、会場も思わず唸るプレーからチームの攻撃を牽引しました。

しかし、金沢の壁の前に一点が奪えず。試合はこのまま0-0のスコアレスドローに終わりました。

 

最後に

CBを中心に守備陣がガラリと変わったなかで手に入れたクリーンシート。昨季開幕3試合で12失点を喫し出鼻をくじかれた栃木にとっては非常に自信となるスタートを飾れたのではないかと思います。次は得点と勝ち点3。まだ結成して間もないチームなので少しずつ成長していければ良いと思います。

一つ今後に向けて懸念なのが、荒れたピッチと戦術の折り合いをどうつけていくか。開幕戦ではリスクを避けるためロングボールを多用し、多少余裕がある時のみ試すように地上戦を行いましたが、田坂監督の志向するサッカーとはかけ離れていたと思います。次のホームゲームでも同じようなプランで戦うのかどうか。今季最も使用する会場はグリーンスタジアムなのは言うまでもないわけで、どのようにアジャストしていくか、田坂監督の手腕が問われる大きなポイントとなりそうです。

 

試合結果

J2 第1節 栃木SC 0-0 ツエーゲン金沢

主審 清水 勇人

会場 栃木グリーンスタジアム

観客 5863人