スターティングメンバー
栃木SC 3-4-2-1 10位
前節はアウェイで福島と対戦し2-2のドロー。隣県対決とあって大挙して駆け付けたサポーターの後押しを受け、終了間際に今季初の複数得点で勝ち点1をもぎ取った。新戦力の活躍とともにさらに調子を上げていきたいところ。前節からのスタメンの変更は1人。森璃太に代わって公式戦2試合連続ゴール中の高橋が5試合ぶりに先発となった。ベンチは矢野が外れて星野が入った。
ガイナーレ鳥取 3-4-2-1 16位
ここまで下位に沈んでいるものの、ホームでは4勝3分と無類の強さを誇る鳥取。当時最下位だった第14節には首位の栃木シティをホームに迎えて1-0で勝利するなど、まさに難攻不落の要塞と化している。現在ホームではリーグ戦3連勝中。前節からスタメンの変更はなく、これで5試合連続で同じ11人となった。キャプテンマークを巻く温井とベンチの土肥にとっては古巣対戦となる。
マッチレビュー
▼「上手くいかない」文脈の中での失点
ここまで16試合で10得点の栃木と11得点の鳥取。ともに守備は安定しており、混戦を抜け出して上位に食い込んでいくには得点力の向上がマストである。前節初めて複数得点を挙げ、攻撃に改善の兆しが見え始めた栃木がホームに強い鳥取に乗り込んでの一戦となった。
立ち上がりのペースを握ったのは栃木。積極的に前からプレスをかけていき、三木を目掛けた長いボールに対しては岩﨑が高さで対抗していく。奪ったボールはシンプルに背後へ。試合の入りで失点が続いている現状を踏まえて、まずはセーフティーに敵陣でプレーしようという立ち上がりとなった。
ボールを素早く前線へ送り、相手ボールになればプレスの矢を浴びせていく前へ前への姿勢は非常に効いていたといえるだろう。セカンド争いではボランチ勢が前向きに飛び込めており、藤原のプレーがイエローカードとなる場面はあったものの、前への意識の高さを強く感じ取ることができた。
ミラーゲームとあって対する鳥取も積極的にプレスをかけてきたが、ロングボールと地上戦を織り交ぜることで上手く回避することができていた。ロングボールのターゲットとしてこの日は右ワイドの高橋が存在感を発揮。大外での走り合いでもアスリート能力の高さを示しており、強度の高さでチームを牽引していたといえるだろう。
そうした前への姿勢からチャンスを迎えたのが飲水タイム直前の25分のシーン。川名のプレスで相手のバックパスのミスを誘うと、これを回収した五十嵐がカウンターを開始。自らゴール前に持ち運んでいくも、最後の局面で横パスを選択してしまいシュートに繋げることができなかった。
地上戦に目を向ければ、時間の経過とともに両シャドーのタスクの違いが徐々に表れるようになっていった印象だった。中野は最終ラインに下りる藤原の動きに連動するように3人目の中盤としてポゼッションをサポート。五十嵐はライン間になるべく留まることで得意のターンからの突破を図る狙いだった。21分には迎撃してくる右CBと挟み込もうとするボランチを五十嵐が上手く剥がし、ライン間を一気に持ち運ぶ攻撃を演出することができた。
飲水タイムが明けてからは鳥取がボールを握る展開に。何か新しい策を施したというよりは、どちらかといえば栃木のプレスに慣れたようなイメージだった。
鳥取のポゼッションはボランチの曽我が中心となっていた。最終ラインと近い距離感でボールに関わりつつ、栃木の対面のボランチを引き付けながら薄くなった中盤にパスを入れることで中央からの前進を狙っていく。31分には、後ろでの出し入れを起点に青島→藤原と引き出してライン間の三木へ。栃木としては前へ前への姿勢を逆手に取られたシーンだった。
このシーンに限らずだが、鳥取のポゼッションに対して栃木はミラーゲームを強く意識するあまり、前線の選手の背中を消す守備がやや緩かったように感じた。もう少しシャドーが中間ポジションを取りながらサイドに誘導できればボランチ勢もジャストのタイミングで寄せられただろうし、プレスバックするシャドーと挟み込むこともできたように思う。
この時間、栃木の右サイドからの前進が滞っていたことも徐々に鳥取にペースを明け渡す要因となっていただろう。序盤に比べて長いボールが減ったことで右ワイドの高橋が引いて受けるようになるのだが、高橋から斜めに差し込むパスが中野や太田となかなか合わず、また、そもそも右足からのパスのため相手に引っ掛かってしまう場面が多かった。
37分の失点はそうした「上手くいかない」流れの延長戦上にあったものといえるだろう。右サイドから前進できず高橋のバックパスを受けた平松が相手に狙われると、不用意なボールコントロールからボールを奪われて失点。改めて見ればオフサイドだったように思うが、そもそもワンタッチで逃げることもできた状況でのボールロストは判断ミスと言わざるを得ない。まさに痛恨の失点だった。
前半終了間際には、川名のインナーラップを囮にした五十嵐が逆サイドの中野へ絶妙なフィードを送り、これを中野が右足で豪快にネットに突き刺すも惜しくもハンドの判定。栃木が1点を追いかける展開でハーフタイムを迎えた。
▼前がかりになった隙を突かれる
後半も立ち上がりは栃木のペースでスタート。太田のポストプレーや背後への動き出しからシンプルに前線で起点を作っていく。49分には、右からのCKに合わせた太田のヘディングがクロスバーを直撃。その後の大森のヘディングはGKにキャッチされた。
後半の栃木は太田への長いボールに加えて、逆サイドへのサイドチェンジを多用するなど大きな展開から前進していこうという傾向があった。これを受けた鳥取が次第に5-4-1で撤退するようになると、栃木がボールを支配する展開に。鳥取の1トップの脇からボールを配球し、クリアされても孤立する相手FWからボールを取り上げることで敵陣でのプレータイムを伸ばすことができていた。
押し込む展開の中、57分には連続して決定機を演出。岩﨑の持ち運びを起点に太田のポストプレーを経由して川名が左サイドを突破すると、川名のクロスに逆サイドから飛び込んできたのは高橋。得意な形からのヘディングだったが、シュートはすんでのところで相手DFに阻まれた。
これで得たCKの二次攻撃から今度は五十嵐がペナルティエリア内でフリーになるも、GKとの1vs1を決めることができず。相手DFをフェイントで滑らせるまでは冷静だったが、フィニッシュの精度だけを欠いた。これ以上ない千載一遇のビッグチャンスだった。
対する鳥取に目を向ければ、5-4-1で撤退するため自陣での守備の時間は長かったものの、時折繰り出す攻撃は切れ味鋭い印象であった。 53分、59分にはスローインの流れから前が開けたと見るや三木が思い切りよくシュートを選択。63分にはGK高麗のロングキックを平松がGK川田に戻そうと頭で処理したところに富樫が反応。川田の飛び出しでゴールにはならなかったものの、栃木としては思わぬところで冷や汗をかかされたシーンだった。
ボールを握って押し込む栃木と切れ味鋭い攻撃をチラつかせる鳥取の構図で試合が進む中、栃木は76分に3枚替えを敢行。試合が動いたのはその直後の77分だった。大森のクイックリスタートによるロングボールに菅原が競り勝ち、右奥を取った高橋がクロスを上げると、これに合わせたのは入ったばかりの星野。ストライカーの嗅覚を感じさせるワンタッチゴールで試合をイーブンに戻すことに成功した。
このゴールで勢いは俄然栃木のもとへ。しかし、この前がかりの姿勢が失点を招いてしまった。83分、相手のGKキックを最終ラインの手前でフリックされると、ボールを受けた半田が巧みな切り返しから右足フィニッシュ。コースをついたシュートにGK川田は反応できず、これが決勝点となった。
このシーン、チーム全体が明らかにアラートさを欠いていたと言わざるを得ない。フリックを許した最初の競り合いに間に合わない時点で大森は前に出ない方がベターだったし、流れたボールに対して平松は最初のコントロールを許すべきではなかった。逆サイドの岩﨑も平松をカバーできるポジションを取る必要があったし、GK川田はロングボールが飛んでくる前に声で後ろを束ねておかなければならなかった。終わってからならいくらでも言えるが、言えるポイントがいくつも挙げられる時点で失点の可能性が非常に高い状況だったということだろう。ディテールを欠いた代償は大きかった。
試合はこのまま1-2で終了。栃木は前節福島戦に続いて2失点と頼りの守備に黄色信号が灯ることとなった。
選手寸評
GK 1 川田 修平
2失点目はロングボールに対しての準備が不足していた。後ろからのコーチング次第で防げた失点だったように思う。
DF 2 平松 航
最終ラインを引っ張るDFリーダーとして1失点目のようなミスは御法度。失点以外にもヒヤリとする場面が少なくなかった。
DF 3 大森 博
全体的に守備は安定していたが、2失点目は前がかりに出ていった判断が仇となった。
DF 25 岩﨑 博
強度の高い守備で対面の相手と激しいマッチアップを繰り返した。2失点目は平松をカバーするポジションをあらかじめ取れればよかった。
MF 11 青島 太一
ルーズボールに素早く反応してマイボールにすることで押し込む時間を長くした。前に寄せていく判断を藤原とより擦り合わせたい。
MF 18 川名 連介
5バックのチームが相手となると仕掛けで窮する場面も少なくないが、終盤に進むに連れて川名の突破からのクロスに頼る展開となっていった。
MF 22 高橋 秀典
攻守において高い強度を発揮し、ロングボールのターゲットとしても貴重な存在となった。絶妙なクロスで星野の同点弾をアシストした。
MF 77 藤原 健介
早々にイエローカードを貰ったが、相手のトラップ際やルーズボールへの出足は早く、要所要所でカウンターの起点となった。ゴール前でのFKはさすがに近すぎたか。
FW 10 五十嵐 太陽
ライン間で何度も前を向けただけにまずはシュートを最初の選択肢として持ちたい。プレスに行ったあとのポジションの取り直しが甘く、相手のボランチを自由にさせた点は少々気になった。
FW 32 太田 龍之介
ロングレンジのパスを受けた時に味方が周りにおらず、孤立するシーンが何度か。後半立ち上がりにCKに合わせたシーンは惜しくもクロスバーに阻まれた。
FW 81 中野 克哉
前半終了間際に巧みなトラップからのボレーでネットを揺らしたが、ハンドの判定に泣いた。ボールの受け方、関わり方は監督好みのスタイルのように思う。
MF 39 屋宜 和真
低い位置でボールを引き取って前進していこうとしたが、周りの選手との呼吸が合わなかった。
FW 23 星野 創輝
投入からわずか1分でゴール。ストライカーの嗅覚を感じさせるファインゴールだった。
FW 9 菅原 龍之助
同点弾の起点は菅原がロングボールに競り勝ったところから。クロスに合わせるポジショニングは悪くなかった。
MF 47 吉野 陽翔
自身はセカンドボール回収に専念し、藤原に攻撃を任せるという分担は割と上手くいっていた。スタートからプレーする姿を見たい。
MF 5 森 璃太
ボールを受けたら必ずクロスを上げるという気概が伝わってきた。
最後に
サッカーでは「良い守備から良い攻撃へ」という定番のフレーズがあるが、今の栃木はこれを体現しながらもゴールを仕留め切れないことで、巡り巡って守備にガタがきている状況の中にある。決定力不足が生む焦りや歪みがそれまで堅調だった守備にミスや隙をもたらしている。
スタッツを見ればゴール期待値は決して低くなく、チームとしてフィニッシュにたどり着けているだけに、結局のところ個の精度を上げていかなければならないのは明らかだろう。その意味で前節得点を挙げた太田に対抗するように、この日星野がワンチャンスをものにしたことは良い競争を生み出すという点でポジティブな要素である。
前半戦も残すはあと2試合。ここまで5勝5分7敗とすでに勝ち越しできないことは確定した。ここからは力のある相手との試合が続くことになるが、少なくともプレーオフ圏を再び射程圏内に入れるためにも何とか星を五分に戻したいところ。調子を上げて後半戦に臨めるよう、まず目の前の一戦で結果を出すことを第一にこだわっていきたい。
試合結果・ハイライト
2025.6.21 19:00K.O.
J3リーグ 第17節
得点 37分 富樫 佑太(鳥取)
77分 星野 創輝(栃木)
83分 半田 航也(鳥取)
主審 清水 修平
観客 2039人
会場 Axisバードスタジアム