
スターティングメンバー
栃木SC 3-4-2-1 11位

前節はアウェイで鳥取と対戦し1-2で敗戦。前半にミスから失点すると、後半星野創輝のJリーグ初ゴールで同点に追い付いたが、その直後に隙を突かれて勝ち越しを許した。3試合ぶりのホームゲームで仕切り直しを図りたいところだ。前節からのスタメンの変更はなし。3/26のルヴァン杯仙台戦で負傷してからメンバー外が続いていたオタボーケネスが3ヶ月ぶりにベンチ入りを果たした。
松本山雅FC 3-4-2-1 8位

八戸、福島と上位勢に連敗したものの、アウェイ琉球戦に3発快勝し、前節はホームに鹿児島を迎えて1-1でドロー。栃木同様に勝ち負けを繰り返しており、ここまで6勝5分6敗となかなか波に乗れていない印象である。こちらも前節からのスタメンの変更はなし。8ゴールで得点ランク2位の田中想来、2年連続で10アシストを記録している菊井悠介は特に注意したい選手となる。
マッチレビュー
▼劣勢の中で生まれた一発
勝ち点20、得失点差-2の栃木と勝ち点23、得失点差-1の松本。栃木にとっては勝てば順位が入れ替わる重要なシックスポインターである。後半戦に繋げるためにも勝ち点3に拘りたい一戦となった。
ただ、その狙いとは裏腹に早々に先制点を許してしまう。13分、長いボールのセカンドボールを回収されると、ゴール右隅にコントロールショットを沈めたのは警戒していた菊井。細かいステップと膝下のコンパクトな振りに守備側はシュートの間合いを読むことができず、GK川田も反応が一歩遅れた。栃木にとっては4試合連続で先制される苦しい立ち上がりとなった。
この日の松本は決まってボランチ(主に安永)が下りて最終ラインを4枚にしてからビルドアップを行うようにしていた。栃木の前線3枚に対して右CB宮部を浮かせることで、ここで作ったズレから前進を図る狙いだっただろう。運び出すコースを作るため宮部は外側に立ち位置を取ることが多かった。

これに対して栃木はズレを踏まえつつ、まずは積極的に前から選手を当てていくことでボールホルダーを捕まえていく。ここ最近は前がかりになったボランチの背後にボールを差し込まれて前を向かれることが多かったが、この日はそこを埋めるべく左右CBがいつもより積極的に迎撃に出ていた印象だった。
ただ、序盤からこうした前からの守備はなかなかハマらなかった。栃木にとって悩ましかったのが、松本の作ったズレに対してプレスが後追いになってしまったこと。主体的にボールを誘導することができず、自分たちから陣形を崩してしまっている感が否めなかった。
顕著だったのが9分のシーン。栃木から見て左サイドから右サイドにボールを動かされると、ボランチ脇を埋めるべく大森は早めに杉田を牽制。このとき右ワイドの高橋は早めに対面の山本へ寄せたいのだが、4枚になった最終ラインからは前に出づらく、また菊井の存在が気になってスタートが一歩遅れることに。結局はパスが出てから寄せることとなり、サイドに流れた菊井にボールが渡ると今度は平松がサイド対応を強いられ、最後はインナーラップした山本により危険な内側を使われた。

明らかに陣形を動かされたのはこのシーンくらいだったが、最終ラインが4枚になったことで高橋が寄せ切れなかったように、中盤で時間を与えてしまう場面が多々あった。後ろで引き付けてからのロングボール→セカンド回収も似た仕組みだったといえるだろう。栃木の前がかりになったボランチ周辺で主導権を握ることが大枠としての松本の狙いだった。
それだけに、明確な対処法を打ち出す前に追い付けたことは非常に大きかった。22分、相手のスローインからの流れで五十嵐が球際の強さを見せると、そのまま強引に突破し右足一閃。相手がファールできないドリブルのコース取りも巧みで、寄せる相手の隙間を射抜くようにニアに打った判断も見事だった。
▼守備を微調整して逆転に繋げる
同点に追い付いてからの栃木は松本の作るズレに対して左サイドの守備を微調整。五十嵐は初めからガツンと寄せるのではなく、中央を切りながらサイドへ誘導していく守備へ重きを置くように。トップの太田もアンカーを消すことでサイドを限定すると、宮部に対して川名が一つ前にジャストのタイミングで寄せられるようになった。

これ以降、栃木は序盤のように崩される場面は減少。依然ボールは松本に支配されたものの、同点に追い付いたことも相まって落ち着いて対応できていたといえるだろう。サイドに追い込んで自陣で回収し、カウンターを軸に速い攻撃を繰り出すことができていた。
カウンターからそのままやり切ってしまう場面こそ少なかったが、押し込んだ状態からのサイド攻撃は一定の効果を見せていた。とりわけ右サイドからは中野・高橋・大森の3人によるパス交換を軸に藤原が後方支援する形を繰り返し見られるように。流れのなかで高橋が内側に潜ったり、その外側を大森が駆け上がったりと人数をかけて押し込むことができていた。
2点目に繋がるCKも大森の攻撃参加から獲得したもの。39分、このCKを藤原が入れると、アウトスイングのキックに平松がニアでコースを変え、ゴール前で反応した五十嵐がゴールに押し込んだ。栃木シティとのNEZAS杯決勝での1点目と全く同じ形からネットを揺らし、前半のうちに栃木が試合をひっくり返すことに成功した。
前半アディショナルタイムには再び栃木に決定機。横パスをインターセプトした川名がカウンターを発動すると、吉野→高橋とサイドを変えて高橋がクロスを供給。ファーで五十嵐がヘディングで合わせ、こぼれ球には太田が詰めたが、相手DFの身体を張ったブロックに阻まれた。逆転の勢いそのままに前半のうちに3点目かといった迫力ある攻撃だった。
一方松本は序盤のように思うようにアタッキングサードを割っていけず、時間の経過とともにボールを持たされる展開に終始。後ろでズレを作って前に運んでも、運んだ先で待ち構える栃木の守備を出し抜くことができなかった。
それでも後ろから運んで逆サイドのシャドーの足元につけられた際は打開策になりそうな雰囲気があった。36分には左サイドから前進し、右シャドーの村越へ。42分には右サイドから前進して左シャドーの菊井へ。栃木目線でいえば、前述したように最終ラインのうち1枚が前に出て4バック化したことで寄せ切れないシーンではあったが、集中した守備でセーフティーに対処。2-1で栃木がリードしてハーフタイムを迎えた。

▼良い守備から厚みのある攻撃を繰り出す
後半良い入りを見せたのはホームの栃木。前半同様にボールを握って左右CBを押し上げてくる松本に対し、前線守備でボールをサイドに誘導し、誘導した先でコンパクトな守備から相手を囲い込んでいく。これを嫌って長いボールを入れてくれば平松が相手FW田中の頭一つ上から抑え込み、セカンドボールにはボランチ勢が素早く反応。松本の攻撃の芽を摘み取っていく。
相手を押し込んだ局面では、地味ながら吉野の存在は大きかったといえるだろう。チーム全体がどんどんと攻撃の圧を強めていくなかで、黒子のように中盤でバランスを取りながらセカンドボールをことごとく回収。予測と強度の高さで広く中盤をカバーし、自分たちのターンを継続させる支えとなっていた。
自陣での組織的な守備と押し込んだ展開でのセカンドボール回収から攻撃の回数を着実に増やしていく栃木。ボールを思うように前に運べない松本がクロスをシンプルにCKに切っていくなど混乱している様は明らかだった。上手く掻い潜られたシーンでも全体の守備意識は高く、とりわけ中野の猛プレスバックからノーファールで奪い取った守備は圧巻だった。
主導権を握る栃木は、61分には、相手の最終ラインでの横パスを五十嵐がインターセプトし、カウンターを開始。自らゴール前に持ち込んでのシュートは相手DFに阻まれたが、虎視眈々とハットトリックを狙っている様子が窺えた。これで得たCKに合わせた平松のヘディングはわずかに枠の左へ外れた。
65分には、直前に投入されたばかりのオタボーが巧みなキープで味方に預けると、ボールは左サイドへ。川名のカットインからの右足クロスに太田が合わせるも、ヘディングはクロスバーのわずか上に外れた。これも決定機だった。
後半に入ってから劣勢が続く松本は57分に滝を投入して背後への動き出しを強化しつつ、72分には宮部に代えて浅川を投入することでシステムを4-4-2に変更。交代カードによって停滞する攻撃に変化を加えていくが、オタボーを投入してさらに勢いを増す栃木の攻撃を止めることはできなかった。
73分、田中への縦パスを平松が迎撃し、右サイドで繋いでオタボーが右奥を取ると、深い切り返しから左足でクロスを供給。これに太田が反応すると、ヘディングを決め切った。65分の決定機逸を自ら取り返してみせ、今季初となる3点目をチームにもたらすことに成功した。
決定的な3点目だった。その後は4-4-2に変えて前への圧力を強めてくる松本に対して栃木は守りに入ることなく、冷静に空いている選手を見つけてはボールを的確に繋ぎ、カウンターを繰り出していく。82分には3枚替えで前線に高さと機動力に優れた選手を並べることでさらに前への勢いをプラスすることができていた。
その中でもここ2試合と同様に途中からトップに入った菅原のパフォーマンスは良かった。重心を落としたポストプレーでボールを収め、味方に預けてからは足を止めずにスペースに走り出し、ボールを引き出していく。これに負けじと星野もポストプレーと球際の強さを発揮し、庄司が放ったミドルシュートをお膳立てしたのも星野のポストプレーだった。
試合はこのまま3-1で終了。栃木が今季初の3得点かつ逆転勝利で4試合ぶりの勝利を達成。順位を9位まで上げ、再びトップハーフに名乗りを上げた。
選手寸評
GK 1 川田 修平
失点シーンはGKノーチャンス。90分を通して安定したパフォーマンスだった。
DF 2 平松 航
最終ラインでリーダーシップを取り、目の前の相手をことごとく抑え込んだ。攻撃面ではCKから五十嵐の2点目をアシスト。前節の悔しさを払拭した。
DF 3 大森 博
ボールを受けに下りる菊井に積極的に寄せていった。相手を押し込んだ際はサイド攻撃に加わり、逆転となるCK獲得も大森のサイド突破からだった。
DF 25 岩﨑 博
自身のサイドでズレを作られるためカバーや受け渡しなど難しい対応が求められたが、周りとコミュニケーションを取りながら上手く対応した。
MF 11 青島 太一
左腕を負傷し、32分に途中交代。本人はまだまだやれそうな雰囲気だっただけに大事を取ってということだろう。
MF 18 川名 連介
守備を調整してからは前に出ていけるようになり、樋口とのマッチアップでも優位に立てるようになった。五十嵐との連携からサイド攻撃を繰り返し、78分にはオタボーのポスト直撃を演出した。
MF 22 高橋 秀典
右サイドの職人としてこの日も高さと強さを発揮した。前半終了間際にはあわや3点目という絶妙なクロスを供給した。
MF 77 藤原 健介
ルーズボールへの反応が冴えており、相手からアフターでファールを受ける場面も少なくなかった。個人チャントに応えるように攻守に充実したパフォーマンスだった。
FW 10 五十嵐 太陽
結果で自身の価値を示した。シュートの意識が非常に高く、特に1点目は前節の残像を振り払うかのような会心の一振りだった。文句なしのMOM。
FW 32 太田 龍之介
前後半と決定機に顔を出しながら決めきれずにいたが、73分に右からのオタボーのクロスに巧みに合わせた。ここまで4試合で2ゴール1アシストは素晴らしい数字。
FW 81 中野 克哉
狭いエリアでボールを受けて前を向いたり、スペースへの動き出しでチャンスメイクした。50分の被カウンターの場面では見事なプレスバックでピンチを凌いだ。
MF 47 吉野 陽翔
急遽投入されたため入りは少し苦しんだが、徐々にルーズボール争いで存在感を発揮していった。押し込む展開を作り出す助けとなった。
FW 80 オタボー ケネス
深い切り返しからの逆足クロスで太田のヘディング弾をアシスト。自身のシュートはポストを叩いたが、この調子なら初ゴールも遠くないだろう。
FW 9 菅原 龍之助
前からのプレッシングとポストプレーで前線にエネルギーをもたらした。献身的な姿勢はいずれ自分に返ってくるはず。
FW 19 庄司 朗
カウンター気味の突破から一つ惜しいミドルシュートを放った。
FW 23 星野 創輝
菅原とともに前線で身体を張り、終盤に盛り返す原動力となった。
最後に
チームの置かれた状況を考えれば、なかなか勝ち切れない現状を打破するためにも前からのプレスを緩める選択肢は取りにくく、そのなかで1失点目を喫した時にはチームの出方にどう影響するか心配していたが、結果的にそれは杞憂だった。守備を修正し着実に点を取っていく試合運びはまるで勝ち慣れているチームのようであり、非常に安定感があったといえるだろう。自分たちが積み上げてきたスタイルを信じて全員が繋がってハードワークした結果、今できる最高のパフォーマンスを結果と内容で示すことができた試合だった。
こうした会心の勝利を挙げたからには大事なのは「次」である。これまで連勝を懸けた試合では何度も苦杯を舐めさせられた。この試合を意味のあるものにするには次の試合も求められるのは結果の一択である。後半戦の巻き返しに向けて、まずは難敵鹿児島を撃破したいところだ。
試合結果・ハイライト
2025.6.28 19:00K.O.
J3リーグ 第18節
得点 13分 菊井 悠介(松本)
22分 五十嵐 太陽(栃木)
39分 五十嵐 太陽(栃木)
73分 太田 龍之介(栃木)
主審 鶴岡 将樹
観客 8972人
会場 カンセキスタジアムとちぎ