
スターティングメンバー
栃木SC 3-4-2-1 11位

前節はホームで長野と対戦し1-0で勝利。続く天皇杯県予選では栃木シティに2-0で勝利し、今季初の公式戦連勝を飾った。いずれのゴールも藤原健介のリスタートから挙げたものであり、新たな武器とともに今季初となるリーグ戦連勝を目指す。この日のスタメンは栃木シティ戦と同じ11人を起用。ベンチには前節決勝点の矢野貴章が控える。
奈良クラブ 4-4-2 7位

ここまで5勝4分3敗とプレーオフ圏目前の7位につける奈良クラブ。かつて京都を率いた中田一三監督が昨季途中から指揮しており、3バックと4バックを併用しながら堅実なスタイルを構築している。前線には実績十分な選手が並んでおり、ここまで5ゴールの田村翔太は先日の天皇杯県予選でも2ゴールを記録。栃木にとっては注意したい選手の1人となる。
マッチレビュー
▼守備のエネルギーを攻撃に転化し切れず
この試合が終わるとリーグ戦はちょうど3分の1が終了。中位に留まる現状を打破するためにも、まずは勝ち点4差で上位につける奈良を撃破したい一戦となった。
試合は栃木が前からプレスをかける展開でスタート。ボールを握る奈良に対してチーム全体で重心を上げてボールホルダーに襲いかかっていく。奈良が保持型のチームであることを踏まえてか、WBは普段よりも気持ち早めにSBに寄せることが多く、左右CBがサイドを広くカバーする立ち上がりとなった。
前から選手を当てていく積極的な守備プランはおおむね上手くいったと言えるだろう。奈良の狙いは栃木の陣形を縦に引き伸ばすことでスペースとともに前線4枚にボールを届けようというもの。SBの低めの立ち位置もそのための布石だったと思うが、前線が良い状態でコントロールする前に栃木の守備が間に合うことの方が多かった。
特に左右CBの大森と岩﨑の頑張りは目立った。チームによっては意図的にサイドで1vs1を作ることでスピードやアジリティのミスマッチに持ち込むこともあるが、機動力に優れる彼らにとってはあまり問題にならず。平松も安心して中央で構えることができ、田村翔太とのマッチアップに専念することができていた。

危なげなく後ろで抑え込めていた一方で、敵陣で奪い切るシーンはほとんど見られず。後ろで繋ぐ相手に対して強めにプレスをかけるメリットは大きいが、奪ってショートカウンターに繋ぐことまではできなかった。前からの守備のエネルギーを攻撃に転化できればベストだったが、思っていたよりも奈良が長めのパスを入れてきたことは誤算だったかもしれない。
よって、栃木も攻撃は後ろからのビルドアップが基本線に。4-4-2で構える相手に対してシステムのズレを生かしながら前進の糸口を探っていく。
最終ラインで数的優位を作れていたため、後ろでは比較的落ち着いてボールを握ることはできていた。しかし、シャドーやWBが中間ポジションで受けてからの次の局面で全体としてなかなかスピードアップできなかった。栃木がゴール前に迫れたシーンの多くは時折見せる奈良のプレスを剥がすことができた場合か、星野のポストプレーが決まった場合くらいだった。
前者は17分が代表的なシーン。岩﨑→青島→棚橋→福森と逆サイドへボールを開放していくと、足を止めずに内側から背後を取りに行った棚橋へスルーパス。広いスペースを一気に攻め上がり、クロスからCKを獲得したシーンだった。

中間ポジションから一気にスピードアップするには最初の受け手が相当なクオリティを見せるか、複数人での高いコンビネーションを発揮しなければならない。奈良はライン間をしっかりとコンパクトに保っていたため、ボールを差し込んだ先でなかなか時間を与えてもらえなかった。
唯一上手くいったのは川名が抜け出してGKと1vs1を迎えた34分のシーン。クオリティを発揮していたのは五十嵐だった。岩﨑からの縦パスに合わせて寄せてくる相手に対してファーストタッチで矢印を外すと、そのままターンして左奥へスルーパスを供給。間髪入れずに縦パスを差し込めたことで相手のDFラインを出し抜くことができたシーンだった。

それ以外のシーンではスピードアップできずに相手のブロックの外側を回すことが多く、最終的に苦しくなり長いボールが増えることに。背後へのボールはライン間を引き伸ばす意味では重要だが、大森や藤原のロブパスはあまり前線とタイミングが合わなかった。
奈良も受け手に時間を与えてもらえない中で田村亮介が中盤に下りてきて、スイッチするようにボランチの神垣や右SHの川谷が前に出ていくなど工夫していくが、それほど打開策にはならず。両チームとも手探りでジャブを打ち合う膠着した展開でハーフタイムを迎えた。
▼経由地か、ゴール前か
後半、良い入りを見せたのは栃木。前半よりもシャドーに入ってからの次の展開が繋がるようになったことで主にサイドからチャンスを演出できるように。内外を使い分けながら敵陣でのプレータイムを増やしていく。
アタッキングサードでは左右両サイドとも満遍なく攻撃を繰り出すことができていた。中央からサイドに広げていく流れでチャンスを作れていたのは右サイド。岩﨑の縦パスを起点にサイドで待つ福森へ展開し、福森のクロスや大外を駆け上がってきた大森の攻撃参加からエリア内にボールを送り込んでいく。
左サイドは川名のドリブル突破で勝負。55分にはGK川田からの絶妙なロングフィードに抜け出し、カットインから右足フィニッシュ。63分には仕掛けからサイドを抉ってCKを獲得した。この日はあまり五十嵐とのコンビネーションは見られなかったが、1vs1の状況を作れれば高確率で相手の懐に潜り込むことはできていた。
五十嵐に関して言えば、この試合では特にボールサイドに下りないことを意識していたように思う。主戦場はライン間というイメージ。相手に囲まれてもターンして前を向ける技術の高さを生かすため、あえて狭いエリアに留まる狙いだっただろう。五十嵐自身も右足でコントロールしやすいよう内側へ向かってターンすることが多く、結果的に川名との関わりはやや薄い印象だった。
シャドーを経由してサイドに広げていく流れはそれなりにスムーズだったが、クロスを入れる段階ですでに奈良の守備ブロックが揃っていた点は気になった。シャドーが組み立てに関わるため、彼らが再び攻撃のポジションを取り直す頃には奈良の帰陣は完了している。仮に急いでクロスを入れたとしても中で人が足りないというシーンも少なくなかった。
それを踏まえれば、五十嵐に代えて矢野貴章を投入した交代カードは理にかなっていたといえる。よりゴールにダイレクトに迫るため、先に投入した菅原とともに前線にターゲットタイプを2枚並べる。しかし、これによってボールを運ぶ経由地となる選手が減ったことで、それ以降は上手く前進できなくなってしまった。
3バックにチェンジした奈良の采配に後手を踏んだこともペースを失った要因の一つだった。守備では5バックを敷くことで栃木とのマッチアップを明確にし、攻撃では右肩上がりにすることでズレを作っていく。広がった右CB-右WB間にボランチがサポートに入るタイミングも良く、栃木としては奈良の前進をなかなか抑えることができなかった。

岩﨑と青島に代えて高嶋と吉野を入れた采配はこのためだろう。劣勢になった左サイドにフレッシュな選手を入れることで何とか歯止めを効かせたいという狙いが窺えた。どちらかといえば藤原も終盤には運動量が落ちていたが、ここはセットプレーの一発に懸けたいというところだろう。奈良の圧力を受け止めるにはギリギリのバランスといった印象を受けた。
試合はこの構図のまま進んでいき、奈良の猛攻を栃木がゼロでやり過ごしてタイムアップ。スコアレスドローで勝ち点1を分け合う結果となった。
選手寸評
GK 1 川田 修平
安定したセービングと飛び出しでこの日も無失点に貢献。後半序盤には川名へ絶妙なロングパスを通した。
DF 2 平松 航
田村翔太とマッチアップを繰り広げ、無失点に抑え込んだ。最終ラインを高くキープし、背後への対応も堅調だった。
DF 3 大森 博
前からの守備に連動し、サイドで幅を取るSHの突破を防いだ。時折最終ラインの背後に長いボールを入れ、星野のランニングを促した。
DF 25 岩﨑 博
大森同様に前からの守備に連動しサイドを広くカバーした。左サイドを押し込んだ際は何度か攻撃参加からクロスを入れた。
MF 8 福森 健太
上下動を繰り返し、交代直前の被セットプレーでは出足の良い守備でシュートを未然に防いだ。クロス精度をもう一つ上げたい。
MF 11 青島 太一
プレスの状況を見ながら適格なポジショニングで前線へのパスコースを遮断した。セカンドボールへの反応や後ろから引き出すパスコースの確保など身体がよく動いていた。
MF 18 川名 連介
GKと1vs1になったシーンは決め切りたかった。五十嵐からのパスを受けた最初のタッチが短くなり、2つ目が外側に流れたことで角度がついてしまった。
MF 77 藤原 健介
相手を欺く背後へのパスがあまり味方とも合っておらず、セットプレーもチャンス化できなかった。後半は運動量の低下とともにボールに関われなくなっていった。
FW 7 棚橋 尭士
ライン間での要求や背後へのランニングだけでなく、守備時の切り替えやプレッシングなど攻守両面でハードワークした。
FW 10 五十嵐 太陽
川名が抜け出したシーンでは寄せてくる相手をファーストタッチで巧みに剥がし、正確なスルーパスを通した。
FW 23 星野 創輝
ポストプレーと背後への動き出しで相手の最終ラインと駆け引きを繰り返した。
FW 9 菅原 龍之助
守備に追われて前で起点を作ることができなかった。1トップとしてもシャドーとしてももの足りない。
DF 22 高橋 秀典
空中戦や球際バトルで当たり負けしなかった。終盤相手がPKを主張したシーンは先に高橋がボールに対して身体を入れていた。
FW 29 矢野 貴章
前で起点を作れず相手の勢いを抑え切れなかった。
DF 40 高嶋 修也
左サイドの守備を補強する役割で投入され、最後はスクランブルもありながら試合を無失点で終えた。
MF 47 吉野 陽翔
左サイドから押し込まれる中で球際の強さを発揮した。
DF 37 木邨 優人
スクランブル投入でリーグ戦デビュー。右からのクロスを何度か跳ね返した。
最後に
なかなか点が取れそうな試合ではなかったなぁというのが正直な感想である。チームが今季志向するボールを敵陣へ正確に運んでいくサッカーはどこかでスピードアップする部分や緩急を付けることができないと相手の守備を歪ませることはできない。テクニックや精度をはじめとする個のクオリティを上げていかなければゴールに近付くことはできないし、組織として完成度をさらに高めていかなければ個のクオリティへの期待値も広がっていかない。そのことを改めて突きつけられた試合になったように思う。
ただ、少なくともこういう膠着した試合で最後は劣勢に陥りながらも我慢し切れたのは大きい。守備で崩れないのはこのチームの礎である。得点力の向上がなかなか見込めない現状を踏まえれば、失点しなければ負けないという安心感は今後も心の拠り所として最低限持ち合わせておきたいものである。
アウェイで難敵相手に勝ち点1は悪くない。これをブレずにやっていくしかない。
試合結果・ハイライト
2025.5.17 14:00K.O.
J3リーグ 第13節
得点 なし
主審 佐々木 慎哉
観客 1201人
会場 ロードフィールド奈良