
スターティングメンバー
栃木SC 3-4-2-1 17位

前節相模原戦は不運なジャッジに泣かされた栃木SC。2試合連続での逆転負けとなり、順位は17位に後退。プレーオフ圏どころか降格圏がジワジワと近づいてきた。求められるのは勝利のみ。前節からのスタメンの変更は1人。ここまで全試合に先発してきた岩﨑博がメンバー外となり、左CBには木邨優人がリーグ戦初先発。最終ラインは内田航平と大森博のポジションが前節とは逆となった。
栃木シティ 4-1-2-3 1位

前節群馬戦は後半ATにCKからマテイヨニッチのゴールで追い付いた栃木シティ。ここ4試合は相手に先制されながらも勝ち点を獲得しており、先制されても追い付き追い越す力強さを見せている。前節からのスタメンの変更は3人。奥井諒は累積による出場停止明け。吉田篤志は5試合ぶり、土佐陸翼は3試合ぶりの先発となった。ここのところIHでポジションを掴んでいる森俊貴はこの日も先発。古巣との一戦に臨む。
▼2025シーズン直接対決のマッチレビュー
マッチレビュー
▼徹底した攻守で先制点を奪う
リーグ戦、天皇杯県予選に続く栃木ダービー第3ラウンド。ここまで直接対決では1勝1分の栃木SCが昨季から1年4ヶ月ホームで負けていないという栃木シティの本拠地、CITY FOOTBALL STATIONに乗り込んでの一戦となった。
試合は立ち上がりから激しい球際バトルの応酬で進んでいく。ファーストプレーで古巣対戦となる森俊貴がさっそく福森を削り、次のプレーでは土佐が遅れて青島をチャージすると、それに対抗するように栃木SCも初先発の木邨が最終ラインから飛び出して土佐を迎撃。この試合にかける熱量の高さがビシビシと伝わってくる、いかにもダービーらしい展開で幕を開けた。
最初にチャンスを作ったのはホームの栃木シティ。7分、右サイドで与えたFKを田中パウロが入れると、ゴール前で混戦となりボールは相手の足元へ。これにすかさず反応した木邨が身体を投げ出すと、至近距離で相手のシュートをブロック。直前のイエローカードの印象を拭い去るファイトで最初のピンチを免れた。
この日の栃木SCはシステムの異なる相手に対して明確に前から選手を当てていた。最前線はトップの太田と横並びで五十嵐がセット。中野が右サイド、川名が左サイドの前目を担当し、全体を4-4-2のバランスにして前からプレスをかけていく構えだった。

ただ、何がなんでもプレスをかけるというよりはまずは中を閉じて外に押し出していく優先順位ははっきりしていた。最も避けたいのは相手の3MFに前を向かれること、そして強力な個のクオリティを持つ両WGに自由に仕掛けられること。全体が繋がりをもって陣形をコンパクトに保つことで彼らを守備の網に引っかけるのが守備の狙いである。
よって、最終ラインには時間を与えることとなったが、GK相澤らによる陣形を引き伸ばすようなロングボールに対しては内田を中心に落ち着いて対応することができていた。15分には岡庭にセカンドボールを拾われ、田中パウロの仕掛けから木邨が剥がされたものの、折り返しを藤原がインターセプト。セカンド争いで上回られても次の局面で集中した守備を見せることができていた。
栃木SCの攻撃はロングボール中心。ピッチ状況を考慮してシンプルに前線へボールを送り、太田のポストプレーをサポートすることで前進していく。後ろの選手に時間があっても素早く蹴り出すあたりは相当な徹底ぶりが窺えた。相手の攻撃を凌いだ20分ごろからこれが軌道に乗り始める。
20分には、GK川田からのロングボールを太田が落とすと、セカンドボールを収めた藤原から福森へ。これに奥井が寄せていくと、ボールは背後を取った中野へ渡り、右サイドから上げたクロスに太田がニアで合わせたがミートできず。26分には、同じくGK川田からのロングボールを太田が落とし、中野を中心に細かいパス交換で相手のプレスを剥がして左サイドへボールを送るもやり切ることができなかった。
29分には、ロングボールのクリアが大森へ渡ると、大森は蹴り出すのではなく中野に預け、中野は逆サイドの川名へサイドチェンジ。川名のクロスからCKを獲得すると、立て続けに獲得した2本目のCKに内田がヘディングで合わせてみせた。相手選手2人に当たってネットに吸い込まれたため記録はオウンゴールとなった。
▼変化をつけたビルドアップに苦戦
自分たちの時間帯に先制することができた栃木SCだが、相手はビハインドからの追い上げに定評のある栃木シティ。全く油断することはできない。案の定、ここからは栃木シティの変化を加えたビルドアップに苦しめられることとなる。
栃木シティは35分ごろからアンカーの岡庭が最終ラインに下りる3枚回しに完全にシフトしていた。それまでは攻撃がサイドに偏っていたことで思うように攻め切れなかったが、ようやく中央から持ち出せるようになると、サイド攻撃もそれまでの窮屈感を脱出。栃木SCとしては後ろで耐える展開となり、攻撃に移行できない時間が続いた。

とりわけ栃木シティの右サイドからの攻撃には苦戦した。後ろが安定したことで右SB鈴木が内側から積極的に高い位置を取り始めると、右サイドのサポート役に回った土佐への守備が追い付かず、フリーでクロスを上げられるシーンが頻発。
43分には、土佐のクロスをフリーで受けた平岡が胸トラップを選択すると、コントロールが乱れたことでシュートには至らず。ダイレクトで飛び込まれていたら厳しいシーンだった。「前半と後半で1本ずつやられてもおかしくないところがあった」 と内田が試合後に話していた前半の1本はこれのことだろう。
前半終了間際には奥井のクロスを平岡にヘディングで合わせられてネットを揺らされるも、これはキャッチしたGK川田の腕を弾いたファールの判定でノーゴールに。辛うじて失点を免れ、栃木SCが1点リードでハーフタイムを迎えた。
▼泥臭く、守り勝つ
引き続き後半も開始からペースを握ったのはホームチーム。GK川田が足元のコントロールでもたついたところを狙われたり、セカンド争いで与えたFKから際どいヘディングを合わせられたりと、不安定な入りを見せてしまう。
ただ、50分にはそうした流れを変えようと、GKキックを内田が下りて引き取り、ショートパスでリスタート。長いボールを川名に送り、外側に持ち出した五十嵐がヨニッチを引き出すと、内側のスペースに顔を出したのは川名。左サイドの連携から相手を置き去りにしてシュートを放ったが、GK相澤のセーブに遭うと、こぼれ球に詰めた太田のシュートも奥井に阻まれた。流れの中で初めて訪れた決定機だった。

後半も初めのうちはどちらのペースとも言えない一進一退な展開だった。栃木シティは3枚によるビルドアップを軸に、セカンドボールを収めながらサイドから押し込んでいくのに対して、栃木SCは福森→五十嵐のアーリー気味のパスから左サイドの川名まで広げることで得意のドリブル突破からCKに繋げていく。どこかでボールが引っかかればそこを中心に激しい球際バトルが勃発。やはり落ち着かない展開で試合は進んでいった。
両チームとも60分ごろに選手交代を行うと、攻め手に変化を加えたのは栃木シティ。それまで右サイドでプレーしていた田中パウロが左サイドに移ることで、利き足サイドで対面の相手からボールを隠しやすくしつつ、クロスにウタカや齋藤を飛び込ませる形を増やしていく。
初めこそこれに苦戦した栃木SCだったが、同じく途中出場の高橋が少しずつ相手の間合いにアジャストしていくと、粘り強い守備で着実に田中パウロを抑え込むことに成功。クロスに対してはファーサイドの木邨も高い集中を見せていた。
しかし、71分には一瞬の隙を突かれて相手にビッグチャンスを与えてしまう。高橋が蹴り出したボールが中途半端に高く打ち上げるものになってしまうと、これをアバウトに弾き返され、タイミングよく背後に抜け出したのはウタカ。ゴール前でフリーでシュートを打たれたものの、わずか枠左へ外れていき、この日最大のピンチを何とか切り抜けることができた。
栃木SCは70分に菅原と森璃太、79分に矢野と吉野を投入。時間の経過とともに攻撃の圧力を増してくる相手に対して交代選手を中心に集中した守備でピンチを未然に防いでいく。菅原と矢野は前線で相手を猛烈に追い回し、それに呼応してスタメン組の木邨や内田が齋藤とウタカに対して迎撃守備を敢行。焦りの色が濃くなってくる栃木シティにチャンスを作らせない。
防戦一方の様相を呈した80分以降も集中した守備は途切れなかった。相手のクロス猛攻に対してサイドの選手はボールサイドへのアプローチを繰り返し、中の選手は身体を投げ出していく。ルーズボールに対して不利な状況であっても最後まで寄せることで相手の精度を削ぎ落とし、最後の際の部分で踏ん張ることができていた。まさに泥臭く、気持ちで守る姿は「堅守栃木」だった。
時計の針を進めながら6分間のアディショナルタイムをやり切ると、最後は大森のクリア2発で試合終了。1-0で栃木SCが勝利を収め、栃木ダービー2連勝を達成。栃木シティのホーム負けなしを23試合で止めることに成功した。
選手寸評
GK 1 川田 修平
相手のクロス攻勢に対して安定したキャッチングを見せた。8試合ぶりのクリーンシート。
DF 3 大森 博
気迫の守備で相手の鋭い攻撃を弾き返した。後半相手の圧力が強まるに連れて存在感を増していき、大きなクリア2発で試合を締め上げた。
DF 37 木邨 優人
空中戦では相手の頭の上から弾き返し、ゴール前では身体を張ったシュートブロックを披露。大一番で巡ってきたチャンスを見事掴んでみせた。
DF 88 内田 航平
勝利の立役者。強力なシティ攻撃陣に対してDFリーダーとして完封勝利に導いた。決勝点は惜しくもオウンゴールの記録になったが、サポーターの記憶には深く刻まれるだろう。
MF 8 福森 健太
対面の左SB奥井と激しいマッチアップを繰り広げ、深い位置に侵入させなかった。後半はマイボールを素早く五十嵐に預ける楔のパスを何度か通した。
MF 11 青島 太一
システム的に中盤では数的不利になりやすい状況だったが、それを感じさせないハードワークだった。黒子のような存在で攻守を機能させた。
MF 18 川名 連介
サイドを切り裂く場面はあまりなかったが、粘り強い対人守備で田中パウロらを抑えた。後半序盤に五十嵐との連携からゴール前に侵入したシーンは決めたかった。
MF 77 藤原 健介
多彩なキックでセットプレーの脅威を与え、値千金のオウンゴール弾を導いた。球際バトルに身を投げ出し、最後は足をつって前線でのプレーを余儀なくされるなど、最後の最後まで攻守にハードワークした。
FW 10 五十嵐 太陽
最前線で太田と並んで守備のスイッチを入れた。セカンドボールを収めた展開では狭いゾーンでボールを引き出し川名とのコンビネーションからチャンスを演出した。
FW 32 太田 龍之介
この日のプランを遂行する上で太田のポストプレーは不可欠だった。何度も身体を張ってボールを収め、味方の攻撃に繋げた。
FW 81 中野 克哉
前線の選手としては難しい試合だったが、プレスバックして挟み込む守備の貢献が目立った。加入後初のフル出場。中野も上がってきた。
DF 22 高橋 秀典
田中パウロとのマッチアップに専念し、粘り強い守備でサイド攻撃に対抗した。逆サイドからのクロスには持ち前の跳躍力で弾き返した。
FW 9 菅原 龍之助
トップ、シャドー、最後は中盤とそれぞれのポジションでハードワークした。プレスの鋭さは前線の選手でも随一であり、セットプレー時にはゴール裏を煽る熱さを見せた。
DF 5 森 璃太
終盤押し込まれた時間帯もボールサイドに寄せることで再三のクロス攻撃を牽制した。最終盤は矢野とともに左サイドで時計の針を進めた。
FW 29 矢野 貴章
最前線で相手ボールホルダーを追い回し、ボールを収めれば時計の針を進めるプレーに徹した。
MF 47 吉野 陽翔
押し込まれる展開の中で最終ラインとの距離感をコンパクトに保ち、中央からはやらせなかった。
最後に
両チームの勢いや置かれた立場を見れば、とにかく勝てて良かったというのが正直な感想である。ここで敗れてしまえば、浮上のきっかけを見い出せないまま中断期間を迎えるところだったが、反転攻勢に向けてこれ以上ないきっかけを掴むことができた。リーグの順位では大きく遅れを取る栃木SCだが、ことダービーにおいては栃木で最も強いことを結果で証明することができたといえるだろう。勝負に徹したゲームプランと際の攻防に手を抜かない選手たちの意地を見た試合だった。
この試合をもってJ3は3週間の中断期間に入る。現状のチームは最終ラインに離脱者が相次いでおり、今出ているメンバーの中にも満身創痍で戦っている選手は少なくないだろう。ここで心身ともにしっかりとリカバリーしてもらい、残り16試合の巻き返しへと繋げたいところだ。この一勝が栃木の未来を切り拓く一勝になることを願いたい。
大熱戦の栃木ダービーを制したのは栃木SC🔥
— Jリーグ(日本プロサッカーリーグ) (@J_League) 2025年7月26日
最後のピンチを防ぎ、1-0で試合終了!#Jリーグ pic.twitter.com/NcMdcXiDSF
試合結果・ハイライト
2025.7.26 18:00K.O.
J3リーグ 第22節
栃木SC 1-0 栃木シティ
主審 堀 善仁
観客 4155人
会場 CITY FOOTBALL STATION