スターティングメンバー
栃木SC 3-4-2-1 15位
前節はホームでテゲバジャーロ宮崎と対戦し1-2で敗戦。開始早々に棚橋尭士のゴールで先制したものの、その後は迫力を欠いたプレーに終始し、痛恨の逆転負けを喫した。前節からのスタメンの変更は1人。平松航が今季初出場となり、大森博は右CBへスライド。ベンチには木邨優人が初のメンバー入りを果たした。
アスルクラロ沼津 4-3-3 4位
前節栃木シティ戦は粘り強い守備で相手の猛攻を凌ぎスコアレスドロー。ここまで1勝2分と無敗をキープし、まずまずのスタートを切ることができた。前節からのスタメンの変更は2人。開幕から先発を続けていたアンカーの沼田航征はメンバー外となり、菅井拓也が今季初先発。ベンチには実績十分の齋藤学、川又堅碁が控える。
マッチレビュー
▼沼津の可変ビルドアップを完全封鎖
2017年最終節以来の対戦となったこのカード。栃木にとってはJ2復帰を決めた思い出の地で連敗を止め、仕切り直しを図りたい一戦となった。
この日の栃木における開幕3試合との大きな違いは最終ラインに平松が入ったこと。声とジェスチャーで味方を動かしリーダーシップを発揮できる選手が入ったことによって、特にボランチから前の守備は劇的に改善したといえるだろう。相手の消し方とそこからのアプローチが整理され、それにより十分な強度を示すことができていた。
沼津のポゼッションは右SB三原が内側に入る可変型。最終ラインは左から宮脇-井上-篠崎となり、アンカーの菅井が宮脇と井上の間に顔を出してバランスを取る。三原は栃木のボランチ脇で出口となるように立ち位置を取りつつ、トップの鈴木も下りて組み立てに関わることで中盤に厚みをもたらしていく。
栃木の5-2-3ブロックは後ろに枚数をかけられる一方で中盤はボランチ脇にスペースが生まれやすい。ここを埋めようとシャドーが下がれば、沼津としては相手に5-4-1のベタ引きを強いることができる。まずは中盤にジャブを打ちつつ、栃木の前からの守備を牽制していくのが沼津の狙いだっただろう。
しかし、この日の栃木は中央へのパスを通させない守備が徹底されていた。前線3枚と中盤2枚でつくる五角形は非常にコンパクト。FWの背中で相手の中盤がボールを引き出しても吉野や堀内が前に出ていくことで実際に引っ掛ける場面は多かった。ボランチの判断を後方支援する形で平松の声掛けがあったことは間違いないだろう。
中を閉じてサイドに誘導してからはこれをスイッチにシャドー、WBと連動していく。どちらかといえば栃木から見て左サイドはハメやすい構図だっただろう。右サイドはサポートに入る菅井に基準をボカされるのに対して、左サイドは井上からのパスを受けた右CB篠崎に五十嵐がアプローチ。ファーストDFが決まりやすいため、そこからボールサイドに連動することで無理なく圧力をかけることができていた。
迎撃意識高めの中閉じ→サイド誘導→狭いサイドでプレス連動→引っ掛けてショートカウンター。前半の栃木はこれをことごとく表現することができていた。奪ったボールの預けどころとして目立ったのは棚橋。相手に捕まりにくいゾーンでボールを引き取り、前向きのアクションを見せていく。14分には棚橋の仕掛けからCKを獲得、31分にはエリア内での仕掛けから相手に倒されたがノーファールというジャッジだった。
沼津目線でいえば、本来使いたいはずの中盤にパスを通すことができず、サイドに広げればスライドされて囲まれる。前に出てきた栃木のボランチの背後(=アンカー脇)へのミドルパスは受け手の処理ミスが続き、頼みの綱であるトップの鈴木も栃木のCB勢につぶされるという状況だった。落ち着ける場所のない苦しいポゼッションだった。
20分過ぎには最終ラインからピックアップする役割を徳永も担うべく2ボランチ気味にするも状況変わらず。かえって中にパスを通したことで引っ掛けられるシーンの方が目立った。30分過ぎには右SH森の立ち位置を大外からインサイドに変え、右SB三原を大外に張らせてみたが、それも流れを変えるには至らなかった。
よって、沼津の攻撃を早い段階で機能不全に陥らせる栃木は自ずとボール支配率が増加。堀内がボールサイドに顔を出すことでポゼッションにリズムを生み出し、五十嵐と棚橋がギャップで起点を作りつつ、吉野や大森からの展開でサイド攻撃を促していく。福森や岩﨑のところでノッキングしていたのは気になったが、前半を通して良いボールの握り方ができていたといえるだろう。
▼好機を仕留められずフェードアウト
後半も栃木ペースは継続。菅原のポストプレーを起点に後ろから上がってきた森璃太のクロスや大外でのキープに合わせてポケットに侵入する棚橋など、右サイドから次々とゴールに迫っていく。
この日最大のチャンスは、森のマイナスの折り返しに反応した菅原の右足シュートが空を切った59分のシーンといえるだろう。最後の精度は個人に依存せざるを得ないが、そこまでの作りはパーフェクトだった。マイナスの折り返しを選択できているのは森がクロスを蹴り分ける余裕を後ろで作れている証拠である。右サイドの停滞感はひとまず解消されたと言っていいだろう。
マイナスの折り返しに関して、後半立ち上がりにも森がバイタルエリアの味方に折り返していたように、沼津の守備の癖としてあらかじめ準備してきたプレーのようにも見えた。ポケットに侵入する選手に対してボランチの菅井や徳永がカバーの意識を高く持っていたのに対して、バイタルエリアを埋め切れないシーンは少なくなく、そこを狙った選択だったのかもしれない。
後半の沼津は基本的には前半と同じ仕組みのビルドアップを継続。しかし、栃木の猛攻を受けたことで徐々に自陣からの繋ぎを省略してダイレクトに前進する割合を増やしていく。その表れが鈴木拳士郎を残して鈴木ワディと齋藤学を投入した交代カード。前線に特徴的なタレントを並べ、手っ取り早く強みを押し出す方向に舵を切った印象だった。
70分前後には栃木のビルドアップを引っ掛けたところから波状攻撃を展開。鈴木ワディはボールが足元につかず、あまり試合に入れていない印象だったが、これだけ長身のターゲットが加わると守備の意識を傾けざるを得ない。存在感で栃木に圧力をもたらしていたといえるだろう。
栃木も75分に矢野、オタボー、揚石を投入。直後には矢野がポストプレーからファールを受けてゴール前でFKを獲得すると、揚石のFKはクロスバーの上側を直撃。鋭い軌道のボールはわずかに落ち切らずネットを揺らすには至らなかった。81分には森のCKに矢野が合わせたがこれも枠を捉えることはできなかった。
これ以降栃木の攻撃はフェードアウト。矢野やオタボーの身体能力を生かした攻撃を増やしていったが、オープンな展開になった分、それまでの前線の繋がりが希薄になってしまい、徐々に迫力は目減りしていった印象だった。
後半は沼津のシュートを0本に抑え、主導権を握って攻め続けたがゴールを割ることができず。スコアレスドローで試合終了し、ともに開幕戦以来の白星をあげることはできなかった。
選手寸評
GK 1 川田 修平
今季2度目のクリーンシート。32分には至近距離からヘディングシュートを打たれたが難なく対応した。
DF 2 平松 航
守備再建の立役者。声とジェスチャーで味方を鼓舞し、リーダーシップを発揮した。個人としても相手のシュートに対して身体を投げ出してブロックしたほか、長いボールにも競り勝てていた。
DF 3 大森 博
スペースに届けるロングパスが安定していた。機動力を生かして攻撃参加するシーンもあり、右CBでも十分計算できるパフォーマンスだった。
DF 25 岩﨑 博
守備はまずまずのプレーを見せているが、攻撃の起点としての判断と精度が現状不足している。開幕戦のような溌剌さがほしい。
MF 5 森 璃太
アシストがついてもいいような高精度のクロスを次々と入れている。右サイドの手詰まり感は完全に解消された。
MF 8 福森 健太
ボールを受けても相手に囲まれて前を向けず、後ろに下げる場面が多かった。個で剥がしたり突破できないとサイド攻撃が活性化しない。
MF 47 吉野 陽翔
前への出足の速さと球際の強さでボールをよく狩り取ることができていた。徐々にプロのリズムに流れてきたことでプレーに落ち着きと自信が表れてきた。
MF 78 堀内 陽太
守備では球際へのタイトさを示し、攻撃ではボールサイドに頻繁に顔を出すことで相手に的を絞らせなかった。攻守において精度と強度が高く、吉野との関係性も良好だった。
FW 7 棚橋 尭士
味方が引っ掛けたボールを自らゴール前に持ち込み、積極的にシュートを狙っていった。決定機にはほぼ全てに絡み、ゴールまであと一歩というところまで迫った。
FW 9 菅原 龍之助
ロングボールに対してよく競り勝てていた。前後半に決定機が1本ずつ。ストライカーとしてそろそろ一発が欲しい。
FW 10 五十嵐 太陽
守備のコースの切り方、寄せ方が秀逸だった。35分には福森からパスを引き出し、相手のプレスを剥がしてスルーパスを供給。このシーンのようにもう少し福森と繋がりたかった。
FW 80 オタボー ケネス
スピードと身体のしなやかさがあるのでスペースに走らせて勝負させるのが適役か。まずは少ない出場時間でインパクトを残したい。
FW 29 矢野 貴章
右からのCKにドンピシャで合わせたが枠に収め切れなかった。最前線でハードワークしたが、味方と守備の呼吸があまり合わなかった印象。
MF 44 揚石 琉生
バー直撃のFKはわずかに落ち切らなかった。ミスが少ない正確なプレーで試合に上手く入れていた。
DF 22 高橋 秀典
福森をベンチに下げて、それまで効いていた森を左サイドに回すほどのメリットは見えなかった。
FW 38 小堀 空
後半ATからの出場となったが、一つルーズボールに身体を投げ出すプレーを見せた。
最後に
限りなく勝ち点3に近い試合内容だったといえるだろう。開幕3試合からの違いとしてやはり前からの守備を整理できたことが大きい。平松が最終ラインに入ったことでチーム全体の手綱を握れるようになり、組織として狙いをもった守備を行えるようになった。判断のスピードが上がれば自ずと守備強度も上がる。そのなかで吉野や堀内が十分な強度を示すことができていた点はボランチの人材難に苦しむ現状において非常に頼もしいところである。
ポゼッションに強みのある沼津をここまで抑え込めたことは自信に繋がるに違いないが、肝心なのはこれを継続すること。これまでも良い試合をした次の試合で「あれ?」という内容だったこともあっただけに、この試合で得た手応えを確実に自分たちのものにしなければならない。この試合が今後の躍進を裏付けることにはならないが、後になってこの試合に意味を持たせることはできる。大きなターニングポイントになったと振り返ることができるよう次に繋げていきたい。
試合結果・ハイライト
J3 第4節
得点 なし
主審 岡 宏道
観客 2404人
会場 愛鷹広域公園多目的競技場