栃木SCのことをより考えるブログ

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【中盤の過負荷が響く】J3 第15節 栃木SC vs ザスパ群馬

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スターティングメンバー

栃木SC 3-4-2-1 8位

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 前節はホームで讃岐と対戦し1-0で勝利。スコアレスで迎えた後半アディショナルタイムに藤原健介が見事なコントロールショットを決め、劇的勝利を飾った。守っては5月の公式戦全てでクリーンシートを達成。この勢いで初の連勝を狙う。前節からのスタメンの変更は3人。出場停止の大森に変わって高嶋、前節負傷した棚橋に変わって小堀、トップは星野に変わって前節アシストの太田が入った。

 

 

ザスパ群馬 4-1-2-3 14位

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 同じ降格組である群馬はここまで3勝6分5敗とやや苦戦気味。今季から就任した沖田優監督のもと新スタイルを落とし込んでいる最中であり、高い攻撃力を誇る一方で、失点も多いここまでとなっている。得点失点でともにリーグ最少の栃木とは真逆と言っていいだろう。前節沼津戦からは4人変更。全試合に先発していた山内、大卒ルーキーでインパクトを残している小西はともにメンバー外となった。

 

 

 

マッチレビュー

▼ボールを落ち着かせた先が課題

 Jリーグでの対戦成績は8勝9分8敗と全くの互角。長らくJ2で鎬を削ってきた両チームが初めてJ3の舞台で顔を合わせる北関東ダービーとなった。

 試合は立ち上がりから群馬がボールを握り、栃木がプレスをかける構図で進んでいく。群馬のビルドアップはGKとCBによる3枚の最終ラインが出発点。両SBは内側に絞り、前線には5人が並ぶ2-3-5を基本としつつ、右SB玉城はよりボランチ的なタスクを、左SB高橋は一つ前の藤村と臨機応変にポジションを入れ替えながらプレーする分担となっていた。

 GKキックは決まって後ろからのショートパスでリスタート。栃木の前からのプレスを十分に引き付けて中盤にスペースを作り、縦パスを引き取ることで一気に前進を図っていく。栃木のボランチがアンカーを消そうと前に出てくれば、IHにはよりスペースが与えられるといった仕組みになっていた。

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 この日の栃木が準備してきた前線守備は左サイドを押し出す形だった。五十嵐は右CB小柳を睨みつつ、背中の玉城をケア。一方太田は背中のアンカー米原のケアを優先しつつ、パスに合わせて左CB大畑に寄せていくという整理となっており、横並びながら異なる役割が与えられているように見えた。さながら4-4-2といったイメージだった。

 このとき、右SHにあたる小堀は状況を見ながら近くの相手に寄せていくのだが、立ち上がりは3列目から飛び出す藤原のプレスの方がよく効いていたと言えるだろう。システムの噛み合わせ的には割と勢い任せではあったが、追い込んでファールを誘ったり蹴らせることに成功。8分に思いっ切り剥がされてからはさすがに見られなくなったが、試合の入りという点では栃木の方が準備してきたものを表現できていたと言えるだろう。

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 立ち上がりの攻防を終えると、徐々に群馬が盛り返していく展開に。GKキムまたは左CB大畑を起点に栃木のブロックの隙を探っていく。ボールを運べればアタッキングサードでは大外からの仕掛けがメイン。右ワイドの田頭は前傾姿勢の福森の背後を取りやすく、栃木は岩﨑がサイド対応に回ることが多かった。

 

 栃木の攻撃に目を向ければ、前でボールを奪えた立ち上がり以降はなかなか形を作ることができず。守備時は5-4-1でセットする群馬にシステムを噛み合わされてしまい、出し手も受け手も相手からのプレッシャーを受ける状況に。ボールに触ってリズムを作りたい藤原も相手の厳しいマークに遭い、後ろからの繋ぎがなかなか安定しなかった。

 栃木が落ち着いてボールを持てるようになったのは25分を過ぎたあたりから。青島が最終ラインに下りて4枚回しにすることでズレを作ると、ようやく後ろからの繋ぎ出しが安定するようになった。

 25分には、最終ラインに下りた青島を起点にボールを動かして藤原が前を向くと、右ワイドの森へロングパスを供給。右奥でサイドを崩すと、この日初めて森が深い位置からクロスを上げることができた。34分には、4枚回しによってフリーになった岩﨑がボールを運ぶと、ライン間の五十嵐に楔のパスを差し込み、流れを落とさずゴール前の小堀へ。小堀はトラップを内側に持ち出してしまい相手の戻りに対応されたが、この2つのシーンは4枚回しを上手く活用できたことで生まれたチャンスだったと言えるだろう。

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 ただ、上記の2つのシーン以外では、栃木の4枚回しは後ろでボールを落ち着かせる以上の効果をもたらすことはできなかった。相手を引き付けてからリリースすることで受け手に時間とスペースを与えるのが4枚回しの最大の目的だが、それが不足したままパスを差し込むため、受け手が厳しい状況を強いられる場面が多かった。

 そのため前線では太田・小堀のポストプレーと五十嵐のテクニックによる即興に頼らざるを得ない場面が頻発。狭いエリアでは足を振ることもできず、前半のシュートはわずか1本に留まることに。ポゼッションで流れを引き戻した一方で、攻撃では迫力不足を露呈することとなり、スコアレスでハーフタイムを迎えた。

 

 

 

▼組織と個による崩しから失点を許す

 後半開始と同時に栃木は小堀に代えて屋宜を投入。高さや強さを武器とする小堀からテクニカルなタイプの屋宜を投入することで、アタッキングサードでの精度向上を図っていく。

 この交代策の効果は序盤からよく表れていたと言えるだろう。49分には、ロングボールのセカンドを屋宜が上手くキープすると、サイドチェンジした先の左サイドでCKを獲得。このCKを藤原が入れると、ニアで合わせた平松のヘディングがポストを直撃した。

 左利きの屋宜は相手から遠い位置にボールを置くことができるため簡単にボールを失うことはなく、右サイドでの収まりが良くなったことで、入れ替わるように森が高い位置を取ることができていた。森のクロスに逆サイドから福森が合わせたり、ニアで太田が飛び込むなど、屋宜の投入を皮切りに右サイドが一気に活性化した印象だった。

  極めつけは63分のシーン。屋宜が前からの守備でボールを奪い取ると、重心の低いドリブルで相手の内側に回り込み、ラストパスを供給。これを受けた五十嵐はゴール前至近距離でシュートを放ったが相手DFのブロックに遭い、こぼれ球に反応した福森のシュートもGKに阻まれた。まさにこれ以上ない絶好の機会だったが、これをものにすることができず。先制点がより大きな意味を持つ栃木にとっては、これを逃した代償は非常に大きかった。

 後半の群馬は前半以上に中央からこじ開けることに重きを置いていたイメージだった。60分にアンカーを米原から瀬畠に変えてからはそれがより顕著に。瀬畠がCB間に下りることが増え、外側に広がったCBが栃木の2トップ脇からボールを差し込むようになっていった。アンカーが最終ラインをサポートしても中盤の受け手を確保できるという算段だったのだろう。

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 瀬畠と同時に投入された下川はアタッキングサードに入ってからの大外からの仕掛けでキレを見せていく。後半開始から屋宜の投入によってペースを握った栃木だったが、得点を決められずに時間が進む中で、徐々に下川の仕掛けからペースを明け渡していった印象だった。

 左サイドを押し出して4-4-2気味で構える栃木にとっては下川とマッチアップするのが岩﨑だったのも難しいところだった。岩﨑はCBの中では比較的機動力に優れていると思うが、相手のワイドの選手と対峙した時に鋭い仕掛けに対応できるほど敏捷性には優れていない。あくまでCBの選手であり、下川とのマッチアップには敏捷性でミスマッチがあった。

 これが失点に繋がってしまったのが、83分のオウンゴールである。岩﨑が下川とマッチアップすると、タイミングをズラされたところでライナー性のクロスを入れられ、咄嗟に反応した平松のクリアが自陣ゴールマウスに飛んでしまった。クロスに至るまでの過程で前に出た青島の背後を藤原が抑え切れなかったことも含めて、組織による崩しと個による崩しの両面で相手に上回られてしまったと言えるだろう。

 失点前に矢野と菅原、失点後に庄司をするなど大型FWを次々と投入していく栃木だが、パワープレーをなかなかチャンスに結び付けることはできず。試合はこのまま0-1で終了。ホームで群馬に敗れた栃木は初の連勝を飾ることができず、順位は9位に後退することとなった。

 

 

 

選手寸評

GK 1 川田 修平
失点シーンはクロスを捕球するポジショニングだったか。被シュートが少なく、全体的に出番はあまりなかった。

DF 2 平松 航
あのオウンゴールは仕方ない。CBならヘディングでクリアを狙うのは当然だろう。藤原のCKにニアで合わせたヘディングが惜しくもポストを嫌われた。

DF 25 岩﨑 博
左WBの背後のスペースを広くカバーしていたが、失点シーンでは相手のワイドの選手に振り切られてしまった。

DF 40 高嶋 修也
今季二度目の先発チャンスを卒なくプレーした。ロングスローの精度は少し気になるところ。

MF 5 森 璃太
後半立ち上がりに右足左足それぞれから良いクロスを上げた。プレータイムの増加とともにパフォーマンスが上がってきた。

MF 8 福森 健太
4-4-2の左SHのような立ち位置で攻守において上下動を繰り返した。後半右からクロスを量産するなかで逆サイドからゴール前に飛び込んでいった。

MF 11 青島 太一
積極的に縦パスを差し込もうとトライしたが受け手との呼吸が合わなかった。プレスvsビルドアップの構図の中で、中盤の舵取りに苦戦した。

MF 77 藤原 健介
相手から徹底的にマークされ、いつものように後ろからリズムを作ることができなかった。失点シーンでは青島が前に出た背後をカバーし切れず、球際でも負けた。

FW 10 五十嵐 太陽
ライン間でボールを受けても相手のマークが厳しく、苦しい体勢でプレーすることが多かった。屋宜の折り返しにゴール前至近距離で合わせたシーンは決め切りたかった。

FW 32 太田 龍之介
移籍後2試合にして初先発。前線でポストプレーに奮闘したが、後半右サイドから攻勢をかけた際のクロスに一つでも合わせたかった。

FW 38 小堀 空
プレー精度や判断の部分で試合勘のなさを露呈した。久々の先発チャンスを生かせず、ハーフタイムで交代を余儀なくされた。

MF 39 屋宜 和真
63分には自らボールを奪い取り、相手との1vs1を制して決定的なラストパスを供給。ドリブル突破で右サイドのアクセントとなった。

DF 22 高橋 秀典
守備強度の高さとボールを持った際の推進力で右サイドに勢いをもたらした。

FW 9 菅原 龍之助
投入直後に失点し、パワープレーにシフトした展開の中ではなかなか目立てなかった。

FW 29 矢野 貴章
数的不利の競り合いで巧みにファールを誘い、陣地回復を助けた。

FW 19 庄司 朗
パワープレーにシフトした中で投入されたため、なかなかボールに触れなかった。

 

 

 

最後に

 個人的に気になったのは、中盤への負荷が非常に大きい試合の中でアタッカータイプのボランチ2枚による中盤構成を最後まで変えなかったこと。中盤の枚数と交代カードの切り方という二つの側面でやれることはあったように思う。

 前者に関して、背中をケアする前線の選手のタスクや4-4-2の左SHの立ち位置を取る福森が内側をカバーすることで何とかなるというプランだっただろう。CBの迎撃も交えれば数的不利を覆い隠せるという計算だったかもしれない。ただ、実際のところは中盤を突かれると一気に前進を許してしまい、中盤の枚数が足りていないというウィークばかりを狙われてしまった。

 それを埋めるのが残されたボランチによるハードワークだけというのはなかなか厳しい。間延びしたスペースで縦パスを待ち受ける4~5人を同時に相手しなければならず、疲労はいつも以上のものがあったはずだ。失点シーンでは中盤にステイしていた藤原が振り切られてしまい、前進を許してしまった。ベンチの吉野の眼にはどう映っただろうか。

 ホームでのダービーマッチの敗戦はメンタル的にも受けるダメージは大きいだろう。内容でも結果でも群馬に上回られてしまい、ここ数試合で積み上げていた手応えもあまり感じられなかった。怪我人も出てきている状況であり、ここは踏ん張りどころ。ベンチメンバーの台頭も含めてチーム全体で乗り越えていきたい。

 

 

 

試合結果・ハイライト

2025.6.7 19:00K.O.

栃木SC 0-1 ザスパ群馬

得点 83分 オウンゴール(群馬)

主審 瀬田 貴仁

観客 6457人

会場 カンセキスタジアムとちぎ