
スターティングメンバー
栃木SC 3-4-2-1 9位

前節はアウェイで八戸に0-2で敗戦。PKとCKから前半のうちに2失点を喫すると、相手の退場によって長い時間を数的優位で戦ったが、最後まで堅守を打ち破ることはできなかった。前節からのスタメンの変更は2人。最終ラインには木邨に代わって岩﨑が4試合ぶり、ボランチには吉野に代わって青島が5試合ぶりに入った。
FC大阪 4-1-2-3 4位

ここまで17勝7分8敗の勝ち点58で4位につけるFC大阪。前半戦は首位で折り返したが、夏場の失速で指揮官交代に踏み切ると、直近3試合は3連勝と自動昇格圏に向けて復調してきた。2-1で勝利した前節沼津戦からはスタメン1人を変更。野瀬に代わって久保が右WGに入った。古巣対戦となる黒﨑、ウサンホはメンバーを外れた。
▼前回対戦のマッチレビュー
マッチレビュー
▼右肩上がりに良くなった攻守
プレーオフ圏を5ポイント差で追いかける栃木と自動昇格圏を6ポイント差で追いかけるFC大阪。互いに目標に向けてこれ以上落とせない状況だ。金曜開催でひと足先に勝利を挙げ、ライバルにプレッシャーを与えたい一戦となった。
立ち上がりのペースを握ったのはホームのFC大阪。前線に長いボールを入れ、セカンド争いから再びアバウトに入れていくことで手っ取り早く敵陣を取っていく。フィジカルを押し出したスタイルは前節対戦した八戸と同系統であった。
FC大阪の狙いは大枠として左サイドにボールを入れて右サイドに広げていくというもの。トップの西村や左IH増田が空中戦を競り、広げた右サイドで久保や美馬がシャープな仕掛けからクロスを上げていく。よって、栃木としてはまずは大森・高橋のサイドで空中戦に負けないことがポイントだった。
対する栃木もまずはロングボールが中心。ラグビー場かつ試合前に水を撒かないというピッチコンディションを踏まえ、そこまで後ろで無理に繋ぐといった雰囲気ではなかった。
前で上手くボールが収まれば、ピッチ幅を広く使った攻撃を展開。4-3-3の相手に対してアンカー脇からWBに届けるという形は相当意識されていた。序盤に中野が二度サイドチェンジしたシーンからも窺えただろう。

同サイドからの攻撃となった場面では特に右サイドから押し込むことができていた。相手を引き付けてから大森が縦にボールを入れることで高橋の空中戦やランニングを促し、そこでのセカンドボールの攻防から敵陣でのプレータイムを増やしていく。時間の経過とともに右サイドからのクロスやCK獲得など攻撃をやり切る場面が増えていった。
そうして迎えた26分に栃木が先制に成功する。太田がロングボールの競り合いでファールを受けると、FKのキッカーは藤原。ハーフライン手前から入れたボールをファーで平松が折り返し、最後はゴール前でフリーとなった太田がヘディングで押し込んだ。相手DFはボールウォッチャーになっており、ニアに走り込んで3人を引き付けた棚橋の動き出しも非常に効いていた。流れが傾いてきた時間帯をモノにすることができた。
守備の堅いチームどうしの対戦ではマストともいえる先制点を手にした栃木。ここから前半を終えるまでの時間はおおむね栃木が主導権を握ったと言っていいだろう。
相手のロングボールに対しては高橋と大森が空中戦の強さを見せ、セカンドボールには青島が目を光らせる。久保との1vs1を迎えた岩﨑は安定した守備対応で深いエリアへの進入を封鎖。それでも入り込まれた場面では、シャドー勢の献身的なプレスバックで相手のプレー精度を削ぎ落とし、藤原も身体を張ったシュートブロックで対抗。チーム全体が集中した守備でFC大阪の攻撃を未然に防ぎ、これで生み出した良い流れを攻撃に繋げることができていた。
特に38分のショートカウンターは決め切れればパーフェクトだった。相手の繋ぎを太田が前線で引っ掛けると右サイドから攻撃開始。中野→太田→藤原→中野でポケットを取ると、中野の折り返しに飛び込んだ棚橋は合わせられず、ファーの川名も上手くコントロールできなかった。前からの守備を機能させ、幅とポケットを使いつつミスマッチを生かすことができた良いカウンターだった。
そのほか、決勝点となったセットプレーをはじめ、この日は藤原のキックも冴えていた。先制直後の27分には、藤原のCKを平松がニアでフリックし、ファーから入ってきた大森が反応するもミートできず。35分には、再び藤原のCKに大森が合わせるも、シュートはわずか枠右へ外れていった。どちらも入ってもおかしくない決定機だった。
FC大阪のメインの前進手段であるロングボールを抑え込み、セカンドボールも掌握し、相手が重心を上げる間もなく押し込む展開を作り出すことができた栃木。充実の内容で1点をリードしてハーフタイムを迎えた。
▼耐えるべき時に耐える
FC大阪はハーフタイムに芳賀と久保に代えて島田と武井を投入。3トップの中央に島田、右WGに西村を移して後半を迎える。
狙いは明確。ロングボールでの起点作りを右サイドでも行えるようにすること。前半抑え込まれた高橋、大森サイドを避けることで少しでも空中戦の勝率を高めようというところだっただろう。キックオフからわずか数十秒でこのサイドを割ってシュートを放つなど、ハーフタイムに施した策の効果はすぐに現れていた。
1点リードの栃木は前半同様にロングボールと幅を使った攻撃を狙っていくが、なかなか上手くいかず。太田の競り合いはファールを取られてしまい、GK川田のキックも不安定。サイド攻撃は枚数を合わせて守られてしまい思うようにチャンスを作り出すことができなかった。60分を経過する頃にはペースはFC大阪に移っていたといえるだろう。
ペースを握ったFC大阪は60分を過ぎると、それまでとは打って変わってボールをしっかりと握ることでポゼッションの色を強めていく。栃木にとって悩ましかったのは最終ラインに加えて中盤でも数的優位を作られてしまい、前からの守備がことごとくハマらなかったことである。
4-3-3でボールを握るFC大阪に対して栃木は状況に応じて川名を押し出すことで、なるべくボールサイドに圧力をかけようとしていた。このとき前線は棚橋が太田と横並びでCBをケア。しかし、前述のとおりFC大阪が川名のサイドにロングボールを入れてくるため川名は前に出にくく、棚橋がCB川上とSB美馬を同時に見なければならない場面が多くなった。

川名が前に出て守備を行えた場面でも、今度は中盤の枚数の差を生かされてしまい十分に圧力をかけることができず。相手のIHに最終ラインからの縦パスをタイミングよくレシーブされ、左右CBの迎撃も効かなかった。前からの守備がハマらず全体的に間延びしてしまった。
主導権を握ったFC大阪は立て続けに決定機。66分には、フリーになったCB秋山からの背後へのパスに反応した左SB橋本が大森と平松を引き付けて折り返すと、ボレーで合わせた島田のシュートはわずかに枠上へ。67分には中央混戦から澤崎が背後に抜け出したが、シュートはサイドネットを揺らした。
栃木は74分に川名に代えて福森を投入し、高橋を左WBに移すことでようやく守備が落ち着いた。ただ、5バック化した最終ラインが長いボールを弾き返してもシャドー勢との距離が遠く、セカンドボールを収められない。82分にオタボーと五十嵐を投入してもあまり流れは変わらなかった。
それでもパワープレーを強めていくFC大阪に対して、60分代のピンチ以降は集中した守備で危険なシーンをほとんど作らせなかった。放り込まれるボールに対して先にポジションを取ることで相手に思うように収めさせない。劣勢なら劣勢なりに粘りの守備を発揮することで相手の攻撃を次々とシャットアウト。それでも最終盤の90+4分には、左からのクロスにゴール前で西村に合わせられたが、シュートはGK川田の正面に飛び、何とか難を逃れた。
この直後に試合は終了。ピンチの連続といった後半だったが、何とか乗り切った栃木が敵地で貴重なウノゼロ勝利を達成。プレーオフ進出に向けて大きな勝ち点3を挙げることに成功した。
選手寸評
GK 1 川田 修平
前半とは打って変わって後半は際どいシュートに曝されたが、ゴールマウスに鍵をかけた。GKキックのミスをなくしたい。
DF 2 平松 航
大森、岩﨑と連携を取りながら相手のロングボールを前向きに弾き返した。藤原のFKを折り返して太田のゴールをお膳立てした。
DF 3 大森 博
ロングボールに対して高さと強さを示した。先制直後のCKに合わせたシーン、左からの藤原のインスイングのボールに飛び込んだシーンはどちらか決めたかった。
DF 25 岩﨑 博
前半は久保のドリブルへの対応、後半はロングボールへの対応がメインとなったが、堅調な守備対応で安定感を示した。
MF 11 青島 太一
90分を通して足が止まることなく、セカンドボールへの反応やカウンター局面をはじめとした攻守における様々な場面で顔を出した。
MF 18 川名 連介
前半深い位置までサイドを抉ってCKを獲得したシーンが一度。相手の圧のある攻撃を集中して凌いだ。
MF 22 高橋 秀典
3バックとともに空中戦での強さを見せ、攻撃時にはサイドに張ることでロングボールの受け手となった。後半途中から左サイドに回り、相手のターゲットに対応した。
MF 77 藤原 健介
高精度のキックでセットプレーから何度も脅威を与え、そのうち一つが太田の決勝点に繋がった。守備でも身体を張り、前半にはゴール前で渾身のシュートブロックを見せた。
FW 7 棚橋 尭士
狭い局面でボールを収め、簡単に失わないことでサイド攻撃を促した。後半は繋ぐようになった相手に対して守備で走らされたが、押し込まれた局面で一つ身体を張ったシュートブロックを見せた。
FW 32 太田 龍之介
相手を背負いながらボールを収め、起点を作り、サイド攻撃を促した。平松からの折り返しを確実にゴールに押し込んだ。2桁は目前。
FW 81 中野 克哉
後半ミドルシュートを放った以外はあまりチャンスは訪れなかったが、献身的なプレスバックで相手のミスを誘うなど、相変わらずの守備面での貢献ぶりだった。
DF 8 福森 健太
投入直後に何度か背後へのボールを狙われたが、上手く対応した。ロングレンジのパスに対するインターセプトの反応も良かった。
MF 10 五十嵐 太陽
オープンな展開では持ち味を発揮できなかったが、GKまでプレスをかけたりと守備面でやれることはした。
FW 80 オタボー ケネス
カウンターシーンや守備時のスプリントで推進力を見せた。
FW 29 矢野 貴章
後半ATにピッチに入り、前からの守備で試合を締めた。
最後に
非常に試合巧者な戦い方ができたように思う。どれだけ相手と力の差があったとしても、逆に均衡していたとしても、90分のなかには優勢な時間帯と劣勢な時間帯があるものだが、この日の栃木は自分たちが置かれた状況に適したプレーをピッチ上で体現することができていた。自分たちの攻守がハマったときに先制点を取りきり、押し込まれた局面では全員が身体を張って守備をする。90分全てで試合をコントロールするのが試合巧者ではない。それが不可能であることを理解し、時間帯によって変わりゆく展開を読み、適切なプレーを示す。当たり前のことだが、これをチーム全体で緩みなく表現できたという点で試合巧者といえるパフォーマンスだったように思う。
試合結果・ハイライト
2025.10.24 19:00K.O.
J3リーグ 第33節
得点 26分 太田 龍之介(栃木)
主審 小林 健太朗
観客 2210人