栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【結実の一歩前】J2 第15節 栃木SC vs ヴァンフォーレ甲府

スターティングメンバー

栃木SC [3-4-2-1] 19位

 2試合連続で終了間際の失点により涙を呑んでいる栃木。前節からはスタメンを3人入れ替え。藤田が出場停止のGKには6試合ぶりに川田を起用。シャドーには松岡と山本が入り、これまでシャドー起用の多かった谷内田はボランチでのスタートとなった。

 

ヴァンフォーレ甲府 [3-4-2-1] 7位

 ここ6試合で5勝と絶好調の甲府。北関東3連戦の最後はアウェイ栃木に乗り込む。こちらもスタメンの変更は3人。最前線のブルーノパライバは3月にチームに合流してから初先発。シャドーの長谷川はチームトップの5得点を記録している。

 

 

前へ意識を高めるための可変

 今季最多7304人の入ったスタジアムに後押しされるように立ち上がりから主導権を握ったのは栃木。この日の栃木は攻守において前へのベクトルをもってやり切ることができていた。

 これまでと大きく変化が見られたのが攻撃の局面。矢野、松岡、山本で組んだ前線3枚は距離感が良く、ある程度アバウトなボールを入れても3人の関係性から前向きにボールを持ち出すことができていた。18分、山本のシュートが右ポストに直撃したシーンは足元に要求しがちだったこれまでにはなかったシーンである。シャドーのキャラクターが変わり、シンプルに前へ向かう意識が高まったことで、序盤は甲府陣地で優勢に試合を進めることができた。

 前線の選手が前への意識を高められたのもこの日準備してきた可変システムによる影響が大きい。可変のトリガーはボランチのどちらかがグティエレスの右側に下りること。これに合わせて鈴木海音と大森がSB化することでサイドを一列押し上げる。そこから前の配置は両サイドで多少異なっていたが、サイドを押し上げることで前線の選手をゴールにより近い位置でプレーさせるという狙いは十分表現できていただろう。

 この可変の形は今季取り組んでいるものだが、ここまで意識的に繰り返し行った試合はこの日が初めてだったように思う。少ない準備期間のなかでミラーゲームに対して主体的にズレを作って前進しようという意図が伝わってきた。

 可変するときにありがちなパスに固執するような雰囲気がなかったのもポジティブな要素。前線の選手が裏に抜けるアクションを見せれば後ろはロングパスで応じる。甲府がプレスをかけてこなかったことは考慮しなければならないが、グティエレスや谷内田が最後方からスパスパとパスを通すのは甲府にとっては厄介だっただろう。

 

 栃木優勢の流れが少しずつ変わり始めたのが20分を過ぎたあたりから。それまで甲府は全体の配置を右肩上がりにして右CB須貝に攻撃参加させていたが、後ろの枚数が少ないことで栃木のハイプレスを受ける格好になっていた。余裕のない状態で無理にパスを差し込めば受け手はボールを収めるのが難しくなってしまう。

 よって、前半途中から対抗策としてボランチの石川を下ろしてバックラインへのサポートを手厚くする形にシフト。これにより栃木は左サイドのプレスで徐々に後手を踏むように。松岡に対してはベンチから下がり過ぎないようにと指示が出ていた分、前がかりになった背中を須貝に運ばれる機会は増えていった。

 それでも前半甲府のシュートを1本に抑えられたのはそこから先の攻撃をシャットアウトできていたから。栃木の選手はボールの移動中の寄せが早く、甲府は後ろで繋げるようになったとはいえ相当圧は感じていただろう。ライン間で受けようとする長谷川には鈴木海音がガツンと迎撃し、ブルーノパライバにはボランチも戻ってポストプレーの威力を半減させる。裏抜けを繰り返す飯島にも目を離さないことで甲府の攻撃を無力化していった。

 危なげない守備でやり切った前半は概ね栃木ペースだったといえるだろう。ただ、甲府の堅固なブロックに対してアバウトな攻撃以外にチャンスは作れず。事故的な要素に頼らざるを得ない現状においては、後ろが形を変えながら前を支える感覚は大事にしたいところである。

 

 

あの手この手を尽くす

 後半は一転、立ち上がりからペースを握ったのはアウェイチーム。栃木のハイプレスに対して甲府は局面に人数をかけて細かいパスで剥がしていくことで徐々に攻撃のテンポを上げていく。

 前半から繰り返し行っていた石川のサポートに加えて、シャドーの選手がボールに触れる機会を増やすことができたのが後半流れを掴んだ要因の一つだろう。後半から入った鳥海はボランチ脇のスペースでボールを引き出すのに長け、長谷川もプレスを受けにくいエリアで前を向くことで安定してアタッキングサードまで入れるようになった。立ち上がりから栃木は甲府の攻撃の芽を詰めず自由なボール保持を許してしまった。

 ただ、GK川田の好セーブも含めて我慢強く凌ぐと、59分に栃木にビッグチャンスが訪れる。後ろでのゆったりとした繋ぎからグティエレスロングフィードを供給。抜け出した黒﨑がゴール前でGKと1vs1になるも、切り返してパスを選択したことで甲府の選手たちが帰陣。山本のシュートはゴールライン上でブロックされてしまい、またしても絶好機を仕留めることができなかった。

 後半も栃木はバックラインの背後を突く攻撃とライン間を起点とする攻撃のバランスが上手く取れていたように思う。谷内田は司令塔として栃木の攻撃の中心に君臨。投入直後のシュートに見られたようにトカチも攻撃のテンポを意識して左足でやり切るプレーが多く見られた。

 74分に五十嵐を投入してからはより縦に早い攻撃にシフト。五十嵐の持ち味を生かすようにタッチライン際に配置し、代わりに黒﨑は空いたハーフスペースを駆け上がっていくなどプレーエリアの棲み分けも以前よりスムーズになったように見えた。

 終盤は両チームとも5連戦のラストとあって疲労の色は隠せなかった。栃木としては劇的敗戦を喫した過去2試合も頭をよぎっただろう。最後の最後までやり切ろうとカウンターを仕掛けても追随できる選手が周りに少なかったのはさすがにやむを得ない。それでも3連敗を喫すれば手痛すぎるダメージを負う可能性があったなかで、ロースコアを維持しながら一発にかける姿勢は栃木の勝利パターンを考えれば問題なかっただろう。最後まで得点シーンは訪れなかったが、見応えのあるスコアレスドローだった。

 

 

最後に

 課題へのアプローチとしてあの手この手で攻撃を繰り出した試合だった。その一つとして谷内田のボランチ起用に目処が立ったのは大きい。普段よりプレッシャーの少ない場所をプレーエリアとしたことで持ち前の技術の高さとプレービジョンを余すことなく発揮することができていた。あれだけ後方が安定すれば前線の選手は攻撃に専念しやすいだろう。よりゴールに向かう力強さが欲しい現状においてはこの日の起用法をベースにしても良いのではと思った人も多いのではないだろうか。

 目に見える結果は残せていないにしても、試行錯誤しながら取り組んでいるものが実を結ぶまであと少しという感覚は確実にある。少しずつでも前進していることが感じられた5連戦だったといえるだろう。

 

 

試合結果・ハイライト

栃木SC 0-0 ヴァンフォーレ甲府

得点 なし

主審 上田益也

観客 7304人

会場 カンセキスタジアムとちぎ