栃木SCのことをより考えるブログ

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【溌剌さのコントラスト】J2 第14節 栃木SC vs モンテディオ山形

スターティングメンバー

栃木SC [3-4-2-1] 18位

 前節山口戦は終了間際の失点で破れた栃木。5連戦も折り返して残り2試合、ホーム連戦は上位陣を迎える。スタメンの変更は8人。サブ組主体で戦った前節から主力を戻した格好であり、実質中6日とコンディションは万全。ルーキー神戸は初めてのベンチ入りとなった。

 

モンテディオ山形 [4-4-1-1] 5位

 ここ5試合負けなし、無失点での3連勝で一気にプレーオフ圏内に浮上した山形。中2日で迎える今節はスタメンを4人変更。チームトップの7ゴールを記録している藤本に代わってデラトーレが最前線に入り、全試合に出場していた南はメンバー外となった。

 

 

想定を裏切れない

 これまで出場機会の少なかった選手を中心に戦った前節はプレス連動に一定の手応えを感じたものの、攻撃面では消極的なプレー選択が目立った。時崎監督の送り出すこの日のメンバーは主力組として固定されつつある面々であり、その座を確固たるものにするためにも先発に相応しいプレーが求められる。4月勝ちなし、悔しい敗戦を喫した翌節となれば勝ち点3は必須である。

 立ち上がりは栃木が良い出足から山形のボール保持に対してプレスをかけることができていた。山形の特徴である幅を取るSHに対しても栃木のWBは自陣に張り付くことなく、CBに受け渡して自身は一つ前のSBへ寄せていく。プレス強度は十分であり、立ち上がりの主導権は栃木にあったと言えるだろう。早い時間から鈴木海音や大森がWBを追い越す動きを見せていたのは栃木が押し込めていたからである。

 しかし、自陣で与えた1本目のFKから先制点を許すこととなる。13分、小西の左足FKに合わせたのはデラトーレ。グティエレスは駆け引きでかわされ、逆サイドにループ気味に流し込まれた。

 この失点シーンで思い出されるのがアウェイ新潟戦で喫した立ち上がりの失点。ともにニアとファーに選手を集めて中央でターゲットがマーカーと勝負する形だが、その勝負の局面に他のDFはおらず、守備側はターゲットと純粋な1vs1を強いられる格好になる。ともにそこで相手に屈したことで許した失点だった。

 

 早い時間帯にリードされた栃木だが、プレス強度は落ちずにしっかり保つことができていた。山形のビルドアップは自陣から鋭い縦パスで一気に前進するものであり、球足が長くなる分受け手の特定やトラップ際を狙える隙はあった。実際に、引っ掛ける回数やそこから攻撃に移行する回数は決して少なくなかった。

 ただ、手にした攻撃回をフィニッシュに繋げられた機会はかなり限定的だった。とりわけ気になったのが広げた先のサイドで詰まってしまうこと。こう攻めようというイメージはあるのだと思うが、ピッチ上で見られたのは出し手と受け手の2人の関係性のみ。思うように崩せずに自陣に下げてしまい、終いにはロストする場面ばかりが目立ってしまった。

 ビルドアップにおけるパスミスやズレは今に始まったことではなく、構築には時間がかかるもののため多少は目を瞑る必要があるだろう。それでも、3人目が関わる動き出しや背後を狙っているという怖さを感じさせる駆け引きはもっとあってもよい。何通りもの攻撃に備えさせる負荷を与えなければ守備側は守りやすくなる。想定を裏切れない栃木の攻撃に対して山形は低く構えるだけで安全な状態だった。

 

 一方山形は早い時間に先制したこともあり、そこまで無理をせずに時計の針を進めていく。バックラインでゆったりと繋ぎながら栃木のプレスを誘き出し、山田康太の下りる動きで中盤に数的優位を作り一気に前進していく。幅を取るSHに預けてからはDF-GK間を狙うクロスを送り込む。ハイプレスを仕掛ける栃木が試合のテンポを引き上げるのに呼応するように、山形もスピーディーな攻撃でチャンスを量産していった。

 スタッツにそれほど差はなかったものの、試合の主導権を握ったのはアウェイチームといえるだろう。昨季ほどボールを持つことへの拒絶反応は減っている栃木だが、明らかにボールを持たされてしまい、窮屈な振る舞いとなった45分間だった。

 

 

整理して前がかりに

 同点に追い付くまでの栃木は攻撃のテンポ感にいくらか改善が見えた。前半との大きな違いはサイド攻略が整理されたこと。左サイドでは逆サイドから谷内田が寄っていくことで人数をかけてこじ開けようとする一方で、右サイドは黒崎や鈴木海音がシンプルに縦をうかがっていく。

 片方のサイドに人数をかける攻撃は下手すれば手詰まり感を助長する恐れがあるが、どちらかといえば受け手が多くいることがプラスに作用したように思う。タメを作る福森の外側を大森が周り、ハーフスペースではトカチがボールを呼び込む。そこに谷内田や佐藤祥も関わっていく。相手を押し込んだことでバイタルエリアにはスペースが生まれ、左サイドを起点としたミドルシュートは短時間に4本生まれた。全て相手DFにブロックされてしまったが、作り出したスペースを有効活用できた感覚は大事にしたいところである。

 そして63分に矢野のゴールで追い付く。ゴールまでの過程は説明不要。佐藤祥はさすがのハンターぶりを見せ、谷内田と矢野のポジショニングがゴールを生んだ。

 

 後半の山形は栃木のWB裏を突く攻撃を前半以上に徹底して行ってきた印象である。46分には右サイドから藤田息吹、49分には左サイドから河合、65分には右サイドから國分。いずれも抜け出してから素早く低いクロスを供給し、特に46分と65分のデラトーレが合わせたシーンはどちらも一点ものだった。

 同点以降は途中出場の松岡や神戸が豊富な運動量で山形のボール保持に襲いかかっていくが、主導権は徐々に山形へ。ここまで抑えてきたペースを解放するようにハイプレスの勢いや押し込む頻度は明らかに増していった。山形の攻撃は押し込んで細かく崩すというよりは、ピッチ幅を広く使って相手を守備に走らせ、最終的には緩急で出し抜くのが主なパターン。その意味で裏抜けからポストプレーまで何でもござれな途中出場藤本の存在は非常に厄介だった。

 

 終盤に入り山本、五十嵐、宮崎を投入していく栃木。前線にフレッシュな選手を次々と入れて攻勢を強めていくが、前がかりになったことが裏目に出てしまったのがアディショナルタイムに入ってから。自分たちのCKをひっくり返されての被カウンターに対して、ゴールマウスを離れたGK藤田は何がなんでも制止するほかなかった。ホームで勝ちを取りに行った結果の退場は藤田だけを責めることはできないだろう。

 すでに交代枠を使い切っている栃木は直前に入ったばかりの宮崎にGKを任せるが、チームが混乱に陥った最中、最後は本職GKでも対応の難しい浮き球を押し込まれてしまった。その直後に試合終了のホイッスル。栃木は2試合連続で終了間際の失点で涙を呑むこととなった。

 

 

最後に

 栃木にとってはあまりにも残酷な結末となったが、最後の部分はアクシデントと割り切るしかないだろう。起こるときは起こってしまうし、基本は起こらないもの。チャレンジする藤田のプレーは彼の最大の魅力である。

 それ以上に目を向けなければならないのが前半の試合運び。勝てていないチーム状況がそうさせているのか攻撃に迫力が欠けている。溌剌と攻撃を繰り返す山形とのコントラストがあまりにもくっきり見えてしまった。スタッツには表れないところに埋めきれない両者の大きな差があった。

 藤田を欠く次節、GKのポジションには川田か青嶋のどちらかが入ることになる。何度も先発に這い上がってきた川田であれば豊富な経験でチームに落ち着きをもたらすことができるだろうし、出場すればデビュー戦となる青嶋は重苦しい雰囲気を一掃する起爆剤になる可能性がある。

 いずれにせよ今のチームにある悪い流れは手遅れになる前に早く断ち切らなければならない。

 

 

試合結果・ハイライト

栃木SC 1-2 モンテディオ山形

得点 13分 デラトーレ(山形)

   63分 矢野貴章(栃木)

   90+6分 チアゴアウベス(山形)

主審 笠原寛貴

観客 6038人

会場 カンセキスタジアムとちぎ