栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【ピリッとしない】J2 第8節 栃木SC vs ツエーゲン金沢

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スターティングメンバー

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栃木SC [3-4-2-1] 5位

 前節は水戸との北関東ダービーを制して今季初の連勝を飾った栃木。3連戦の最後はホームに金沢を迎える。前節からのスタメンの変更は4人。3トップを千葉戦の3人に戻し、最終ラインにはU-21代表帰りの鈴木海音が入った。

 

ツエーゲン金沢 [4-4-2] 12位

 ここ3試合負けなしと序盤の出遅れを取り戻しつつある金沢。前節は豊田に移籍後初得点が生まれるなどチームを取り巻く雰囲気は明るい。スタメンの変更は4人。ここまでフルタイム出場していた松本大輔はアップ中に負傷し、変わってベテラン廣井が今季初出場となった。

 

 

ダイヤモンドの中盤に手を焼く

 栃木にとって柳下金沢といえば昨季終盤に戦った残留争い直接対決の印象が強い。その試合ではこの日も先発している小野寺がボランチとして攻守に存在感を見せ、自身の得点で残留を大きく手繰り寄せた。

 その時の金沢は2トップに大谷と丹羽を起用し、彼らの機動力を生かして最終ラインの裏と表で攻撃陣が前を向くスペースを確保することを狙いとしていた。裏とはシンプルに2トップが背後を突くこと、表とはそれによって間延びしたライン間でSHにボールを届けることである。

 ハイプレスハイラインの要素が強かった昨季の栃木に対してこのアプローチは悪いものではなかったが、栃木が的確なラインコントロールで金沢の前線に息をさせず、ボランチに起用された小野寺も最終ライン手前でロングボールを弾き返す防波堤となり金沢の攻撃をシャットアウト。危なげなく1点のリードを守り切るという試合だった。

 

 残留争いの渦中とあって現実的な手段で戦った金沢だったが、そのようなプレッシャーのないこの日の対戦では本来柳下監督がやりたいだろうサッカーの一端が伺えるものだった。

 金沢の基本フォーメーションは藤村と松本をダブルボランチに置く[4-4-2]だが、ボールを保持すると中盤の形が藤村を1アンカーとする菱形に変化する。松本は左IH、嶋田はトップ下、平松は右IHとなり、それぞれがボランチを挟み込むようなポジションに移動するのが大きな特徴。8分の形は特に分かりやすいシーンである。

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 捕まえにくいポジションに選手を配置するメリットは、相手が無理に捕まえに行こうとすればその分フォーメーションに歪みが生まれることである。

 例えば、平松が外に流れる動きで佐藤祥を引き出すと嶋田へのパスコースが開通する。西谷のスライドが間に合ったとしても、後ろでサイドを変えるなど繰り返しやり直すことでどこかでスライドの間に合わない瞬間が生まれる。金沢は栃木が[5-2-3]で守るときのシャドーとボランチの繋がりの希薄さを突くアプローチを続けたことで、栃木としてはプレッシングをはめることができなかった。

 なお、金沢の2トップは栃木の3CBをピン留めしており、小野寺や鈴木海音は嫌らしいポジションを取るIHにアプローチをかけにくい状況になっていた。

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 守備からリズムを作れない栃木がシステムを変えたのが27分ごろ。前線の組み合わせを1トップ+2シャドーから2トップ+1トップ下にし、谷内田をアンカーの藤村に当てる形で応急処置を図る。それまで捕まえ切れなかったIHにはボランチが付き、トップ下の嶋田には最終ラインとマークを受け渡しながら対応していく。

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 噛み合わせがハマったことでプレスをかけやすくなった栃木だったが、直後にミスから失点。ハイラインの背後にある広大なエリアをGKが守るデメリットが表れたシーンだった。それでもGKにはボールをタッチラインに逃がすという選択肢もあったなかでの判断だったため軽率なミスだったと言わざるを得ない。

 

 システム変更後は基本的には思い切りよく守備にいけるようになった栃木だが、プレス強度を高めれば金沢がシンプルに前線のターゲットに逃げるためなかなか上手く捕まえることができない。とりわけ古巣対戦となる豊田のポストプレーにはグティエレスも後手を踏み、セカンドボールへの反応も金沢の方が一歩早かった。守備がピリっとしない栃木は良い攻撃へ移行することもできず、システム変更後もほとんど金沢にペースを握られたまま前半が終了した。

 

 

許容範囲内で持たされる

 栃木は後半から佐藤祥に変えて植田を投入。ボールを持ったときの技術と判断力に優れる植田を入れることで反撃にシフトしていきたいところだったが、後半立ち上がりの時間帯に再びリードを献上してしまった。

 問題は最後の対応よりもセカンド争いにひたすら勝てなかったこと。豊田とのファーストバトルではなくその次の対応である。守備力に勝る佐藤祥が出ていた時間もチーム全体でセカンド争いの反応や球際が鈍く、植田のパフォーマンスいかんに問わず栃木が本来強みを発揮すべき部分で完全に上回られてしまった。栃木としては前半同様仕切り直したタイミングで出鼻をくじかれる失点となった。

 

 その後は栃木がボールを保持して攻めるターンが続くが、プレスをトーンダウンさせたことで中央を堅く構える金沢の守備を破ることができない。時間を与えられた最終ラインは2トップの脇までボールを持ち運べるものの、受け手となる選手には金沢のマークがしっかりついている。

 64分には鈴木海音から瀬沼へ差し込んだパスをダイレクトで抜け出したトカチへ預けるというシーンがあったように、縦に進むときにはこれくらいスピード感をもてると良かったように思う。最終ラインにはボールを持つ余裕があり受け手には時間がない分、受け手は1タッチで捌く準備をし、周りは3人目の動きで素早くサポートする。一瞬の呼吸を合わせる必要があるが、ここでは開幕から前線で同時起用されることの多い2人が良い関係性からシュートに持ち込んだシーンだった。

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 金沢の最終ラインを破りかけたのはこのシーンくらい。栃木はほとんどの時間を通して金沢の許容する範囲内でボールを持たされてしまい、ただただパス本数と支配率だけが増えていってしまった。金沢の守備が緩むはずのサイドでも崩しに時間がかかってしまいクロスがDFに当たるなどペナルティエリア内に効果的にボールを入れられず。久しぶりの出場となった山本もアクセントになり切れなかった。

 一方、割り切った守備で構える金沢は自分たちの思い通りの展開で時計の針を進めていった。前がかりになった栃木が空けた背後のスペースには途中出場の大谷を走らせることでカウンターの脅威をチラつかせつつ、あくまで守備に軸足を置いたプレーで栃木のビルドアップを牽制していく。実際大谷がボールに触れた機会はほとんどなかったが、栃木視点では目を離せない厄介な存在ではあった。

 最後まで金沢の堅守を攻略できなかった栃木。今季最初の3連戦の最後を黒星で終え、5試合ぶりに敗戦。金沢は連勝ストップ後に再び上昇気流に乗るような複数得点・無失点での勝利となった。

 

 

最後に

 岩手戦での終盤の同点被弾のショックを千葉戦、水戸戦の連勝で完全に払拭した栃木だったが、この日は全体的にプレーの精細さを欠いた。もちろん手を抜いたり油断したなんてことは絶対になかったはず。ただ、立ち上がり最初の間接FKやセカンドボールへの反応の鈍さ、相手への対応策を講じた直後に許した失点などは今季これまで見られなかったものでもある。

 連戦の最後で疲労があったと言えばそれまでだが、水曜開催が6度もあり過密日程となる今季ならばなおさら不安は高まるもの。GWには5連戦も待っている。今一度やるべきことを見つめ直し、ここまで試合に絡めていないメンバー含めてチーム全体で底上げを図っていくのは急務である。

 

 

試合結果・ハイライト

栃木SC 0-2 ツエーゲン金沢

得点 30分 豊田陽平(金沢)

   56分 林誠道(金沢)

主審 川俣秀

観客 2966人

会場 カンセキスタジアムとちぎ