栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【栃木スタイルは次のステージへ】J2 第42節 栃木SC vs FC琉球

f:id:y_tochi19:20211208200143p:plain

スターティングメンバー

f:id:y_tochi19:20211208200147p:plain

栃木SC [4-4-2] 14位

 前節アウェイで北九州に勝利しJ2残留を決めた栃木。試合前には田坂監督の今季限りでの退任が発表されており、指揮官のラストマッチに花を添えたい一戦となる。スタメンの変更は2人。ジュニーニョと森がメンバーを外れ、有馬と植田が先発。面矢と上田は久々ベンチ入り。ベンチの和田は今季初のメンバー入りとなった。

 

FC琉球 [4-2-3-1] 9位

 ジェットコースターのように浮き沈みの激しいシーズンとなった琉球。シーズン途中に樋口監督がチームを去り、喜名監督が就任すると、そこからの7試合ではわずかに1敗のみ。チームの立て直しに成功し、クラブ初の一桁順位も見えてきた。リヨンジを出場停止で欠くCBには福井が先発。ベンチの鳥養はこれが現役最後の試合となる。

 

 

集中した守備で締まった展開に

 巧みなビルドアップで敵陣を攻略していく攻撃的なスタイルで今季前半戦を席巻してきた琉球。怪我人続出や監督交代など紆余曲折を経てきたが、チームとして志向するスタイルは今も変わらず。栃木としては、後ろからしっかり繋いでくる琉球のビルドアップをどう塞き止め、どう効果的にカウンターを打てるかがポイントとなってくる。

 この日の栃木はアグレッシブに前から圧力をかけたここ数試合と比べると、少し落ち着いた立ち上がりとなった。

 栃木がまず徹底的に抑えたのが琉球ボランチ。縦パスを差し込んだり、左右に大きく展開したりとチームの中心として攻撃のタクトを振るうボランチに時間を与えてしまえば厄介。栃木は2トップが琉球ボランチに張り付き、中央の起点を減らすことで琉球のビルドアップに規制をかけていく。プレスに奔走できるジュニーニョを欠いたことからも有馬に任せるタスクとしては妥当だったように思う。

f:id:y_tochi19:20211208200152p:plain

 

 栃木が2トップを琉球ボランチに張り付かせたのには後方の事情もあったと思う。この日琉球の最前線に入ったのは清武。本来は二列目を本職とする選手のため、栃木のCBと競り合うというよりは上手く離れて中盤でボールを引き出すことが主なタスクだった。よって栃木としては2トップがやみくもにプレスをかけてしまえば中盤が薄くなってしまう。そこのバランスを踏まえての判断だったのだと思う。清武に縦パスを通されても柳が敵陣まで入って寄せていくなど、中盤で前を向かせない守備は非常にアラートだった。

f:id:y_tochi19:20211208200156p:plain

 

 琉球は細かく繋ぐビルドアップを大枠としながらも、前進の仕方は両サイドで少し異なる印象だった。それぞれサイドの選手のキャラクターに沿った攻撃だったと言えるだろう。左サイドでは沼田が最終ラインに残って栃木のプレスを引き出しつつ、前方のスペースには茂木や清武が流れていく。沼田が低い位置取りをするため黒崎はプレス距離が遠くなり、特に前半は小野寺が後ろのスペースをカバーする機会が多かった。

 一方右サイドでは金井が中盤を基本としつつ、沼田と同様に下りて栃木のプレスを引き出すこともあれば、内側に入った風間宏矢や清武、池田らと早いテンポのパス回しでサイドを崩そうというパターンもあった。富所が内側から攻撃参加するなど右サイドはかなり密集しての崩しが目立った。

f:id:y_tochi19:20211208200201p:plain

f:id:y_tochi19:20211208200206p:plain

 

 これに対する栃木の守備はというと、縦横のスライドを切らさず非常にキビキビと対応できていた。ライン間で受けようとする選手に対してはボランチと最終ラインが受け渡し合いながらボールホルダーをフリーにしない。サイドを変えられても、SBがいち早く寄せて前進を牽制するのか、SHも含めて一度自陣に戻ってセットするのかがはっきりしていた。栃木はボールを持たずとも守備でコントロールできていたため、琉球は何度も後ろからビルドアップをやり直さざるを得なかった。

 ただ、栃木も狙いとする奪ってからのカウンターがなかなか上手くいかなかった。琉球の守備への切り替えが非常に早く、いつもならすぐに入れるロングボールも一度バックパスを挟む場面もあり、その一つの合間に琉球はブロックを構築させていた。

 チャンスまでは至らずも理想的だったのは36分に植田がミドルシュートを放ったシーンだろう。中盤で乾が跳ね返したボールを矢野が競るとボランチ脇でフリーの植田のもとへ。前に運んでミドルシュートという形は前節北九州戦で森がCKを得たのと同じ流れである。ちなみに前節はこのCKから柳の先制弾に繋がっている。

 前半良い形で前を向けたのはこのシーンくらい。栃木のプレス位置がそこまで高くなかったこと、琉球の守備対応が良かったことなどから目立ったチャンスもなく、スコアレスでハーフタイムを迎えた。

 

 

先制点で目を覚ます

 後半も互いにゴール前への侵入を許さない締まった展開で試合が進んでいくなか、先手を取ったのはホームの栃木だった。

 きっかけはオビのロングキックで得たロングスローから。一度は跳ね返されるもその流れから左サイドを突破した畑がクロスを供給。前残りしていた柳が佐藤からリターンを受けると左足でゴール右隅に突き刺した。チームの絶対的武器であるセットプレーから幸先良く先制に成功した。柳は2試合連続、CBながら今季8ゴール目である。

 

 ビハインドを背負った琉球はこれまでどおりブロックの外で回していても埒が明かない。66分には清武がブロックのなかを強引にドリブル突破しようとするが、ロストしたボールを繋いだ栃木が黒崎の単独カウンターを発動。栃木としては前傾姿勢になる琉球をひっくり返しての絶好機だっただけに、ここで連続ゴールを奪えていれば試合を決めることができたシーンだった。

 しかしその直後に琉球が同点に追い付く。起点となったのは密集からの右サイド突破。琉球が前半から繰り返してきた形である。ペナルティエリアの隅から突破する風間宏矢を捕まえられずに深い位置まで侵入されると、柳と黒崎の間に落とす絶妙なクロスを清武に合わせられた。

 先制後は追加点を狙う前向きな雰囲気を確かに感じたが、そのなかで喫した失点と直後に挟んだ飲水タイムを経てからは完全に琉球の勢いに飲み込まれてしまった。琉球の目を覚まさせてしまったと言えるかもしれない。赤嶺投入で勢いを増していく琉球に対して、栃木は攻撃がままならず悪い流れを覆すことができない。そして76分、CKから赤嶺に混戦から押し込まれてしまった。

 

 逆転を許してからは菊池や上田、面矢らを次々にピッチへ投入。本職SBの面矢にはCBを任せ、柳を最前線に送り込むことで強引にゴールを目指していく。ただ、オープンな展開でスペースが空きやすくなると琉球も技術に優れた前線の選手がそこへ流れて上手く時間を稼いでいく。

 終了間際には面矢のロングスローから何度もゴールへ迫るも琉球の守備を割れず、1-2で終了。栃木は最終節を白星で飾ることはできなかった。

 

 

最後に

 最後まで猛攻を仕掛けるも一歩及ばずといった試合だった。改めて振り返ってみても攻撃面では得点以外にチャンスシーンを作ることはできず、流れを手放してからは脆くも逆転を許してしまった。終盤残留争いを戦うライバルに力強く2連勝をあげたものの、安定的に中位を争うにはまだまだ力不足であることを痛感させられる試合だった。

 それでも試合終了のホイッスルと同時に響いた惜しみない拍手は田坂栃木の3年間に対するサポーターの感謝の感情全てだと思う。成績では目標とする一桁順位を達成できず、辛く厳しい残留争いは二度も味わうこととなった。しかし、それ以上にクラブは手にしたものがある。ハードワークをベースにアグレッシブに戦う栃木スタイル、下部組織出身者を含めた若手を成長させる土壌、そしてチーム全体を纏う一体感。

 この3年間でクラブに根付いたものは間違いなくこれからの栃木SCの哲学になっていくはずである。チームの体制が大きく入れ替わる来季からは新指揮官のもと、更なる栃木スタイルの進化と深化に期待したい。

 

 

試合結果・ハイライト

栃木SC 1-2 FC琉球

得点 64分 柳育崇(栃木)

   69分 清武功暉琉球

   76分 赤嶺真吾琉球

主審 川俣秀

観客 5676人

会場 カンセキスタジアムとちぎ