スターティングメンバー
栃木SC [4-4-2] 9位
前節岡山戦は終了間際の得点で逆転勝利。2連勝、4戦負けなしとチームは上昇気流に乗っている。スタメンの変更は3人。両ボランチと右SHにフレッシュな選手が入り、ここまで途中出場がメインだった和田は今季初先発となった。
愛媛FC [4-2-3-1] 20位
前節は山形に0-1で敗れて3連敗。大逆転勝利をあげた徳島戦のインパクトが強いが、現在は8戦勝ちなしと厳しい序盤戦となっている。スタメンの変更は4人。川井愛媛にしては珍しい4バックでのスタートとなった。
二度追いを要した理由
愛媛の川井監督といえばクラブOBで現在39歳ながら就任3年目となる青年監督。相手に応じてシステムを自在に変化させる采配はいかにもモダンな監督である。良い内容に結果が伴ってきている栃木に対してどんな策を講じてくるか楽しみにしていたが、やはり期待を裏切らない興味深いアプローチを行ってきた。
愛媛の基本フォーメーションは[4-2-3-1]。ボールを保持する際は2CBの間にGK岡本が入り、栃木の2トップに対して3人でビルドアップを開始する。SBも低めの位置取りでCBと距離を離し過ぎず、プレッシングが厳しいときはボランチの田中も最終ラインに下りてビルドアップを助ける役割となっていた。
目的はいずれも栃木のプレッシングを誘い出すこと。最終ラインでサイドを変えるように横パスを繋げば、それを阻止しようと栃木はSH(和田)がCB(池田)に対して素早くプレスをかける。このときパスコースの先にいるSB(茂木)に対して栃木はSB(溝渕)が寄せ、サイドからどんどん追い込んでいく形は栃木が今季取り組んでいるものだが、愛媛はSH(小暮)がサイドの高い位置に張ることで栃木の連動を遮断する狙いを持っていた。
立ち上がりこそ栃木は、前からのプレッシングでボールを奪い取ったり、愛媛の最終ラインに苦しい体勢で前に蹴り出させることができていたが、徐々にSBがプレスに加われなくなってくるとトーンダウン。フリーになった愛媛のSBに対してボランチが引きずり出されることが増え、フリーマン気味に動く森谷への対応も含め、栃木のボランチは難しい対応を迫られる時間が増えていった。
ボランチがサイドに出ていけば中央にはスペースが空いてしまう。バイタルエリアをオープンにするのを避けたい栃木は、やむなくプレッシングのスタート位置を下げ、SHもプレッシングのターゲットを愛媛のSBに固定。中央を閉じてブロックを敷き、ボールがサイドに出れば追い込んでいく形にスイッチした。
これに伴い仕事量が増えたのがFWの2人。人数をかけてビルドアップする愛媛のバックラインに対して、ボランチへのパスコースを切りながらサイドに追い込むようにプレスをかけていく。GKに戻されたらリセットしてプレッシング、の繰り返しは相当な運動量を強いられたと思う。攻撃に転じればもちろんフィニッシャーになるわけで、攻守におけるFWの存在は非常に大きなものとなっていた。
虚を突かれた一連のプレー
ブロックを敷く栃木に対してボールは持てるものの、なかなか前進できない愛媛。両SHへのロングボールを打開策として持っていたが、栃木のスライドと囲い込みの早さによりカウンターを受ける場面もいくつか見られた。
うまくいかない時間帯のなかで興味深かったのが、左SB茂木のビルドアップへの関与の方法。栃木の2トップのプレッシングに対してボランチの位置に入り、中央から前方や右サイドにボールを供給するシーンがあった。前半36分には、最終ラインに下りる田中とともに栃木のFWを剥がすと、ボランチの渡邊がフリーで縦パスを供給。右サイドの西岡のクロスは直接GK川田に飛んでいったが、ゴールに迫る形としてはスムーズだった。起点となった茂木の動きは準備していたものかは分からないが、栃木にとっては虚を突かれた一連のプレーであった。
両指揮官の更なる駆け引き
愛媛はハーフタイムに3枚替え。フォーメーションを[3-4-2-1]に変更して後半を迎えた。
愛媛にとってこの形は慣れ親しんだシステムである。とりわけ右シャドーに入った森谷は水を得た魚のように栃木のボランチ脇に頻繁に顔を出し、自身に入ったボールを素早く右WBの小暮に預けることで、右サイドからクロスを供給するシーンは何度も見られた。このとき右CBの茂木はゴール前に入ったり、ビルドアップをサポートしたりと森谷のポジショニングに合わせてトライアングルの形成に貢献していた。
愛媛の巧みなビルドアップに対してプレスがかからず、攻撃も抑え込まれてしまっていた栃木だったが、後半12分に3枚替えを敢行。プレッシングの形を整理し、FWとSHの関係性から愛媛の最終ラインに圧力をかけ、プレスバックも怠らずに行うことで流れを取り戻していく。後半27分に大島がカットした場面や、後半39分に森が回収してエスクデロのシュートに至った場面などは、まさにこの形から生まれたものだった。
ホームで決勝点を狙う栃木は、セットプレーから攻勢を強めていく。全員で守る愛媛に対して栃木がセカンドボールを回収し続けることで、二次攻撃、三次攻撃を実行。そこで再び得たセットプレーからゴールに迫ることの繰り返しとなった試合終盤だった。後半ATに入り、ペナルティエリア手前からの瀬川のFKに田代が頭で合わせたシュートは誰もが隙を突かれたサインプレーだっただけに決めきりたかった。
両チームともゴールネットを揺らせずにスコアレスで終了。栃木は5試合負けなし、愛媛は連敗を3でストップさせた。
最後に
スコアこそ動かなかったものの、90分を通じて両指揮官の駆け引きが目まぐるしく見られた試合展開はとても見応えのあるものだった。勝ち点3が取れればともにベストだったと思うが、自分たちの強みを消さずにマイナーチェンジを繰り返しながら得られた勝ち点1の意味も大きいはずである。栃木はセットプレーも含めた最後の局面のクオリティ、愛媛はビルドアップを剥がした後のアタッキングサードでの振る舞いが向上してくれば、より勝利に近づくに違いない。
栃木の次節の対戦相手はFC琉球。5連戦の4試合目、中2日、アウェイ琉球と厳しい条件は揃っているが、昨季3失点を喫したスタジアムでぜひリベンジを果たしてほしい。
試合結果
主審 田中玲匡
観客 1,964人
会場 栃木県グリーンスタジアム