栃木SCのことをより考えるブログ

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【自信のつくシーズンダブル】J2 第28節 栃木SCvsアルビレックス新潟

 今回は第28節のアルビレックス新潟戦です。

 

 両チームのスタメンと配置は次のとおり。

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 ホームの新潟は前節大分に敗れて3連敗。1年でのJ1復帰を目標に掲げるも現在19位と苦しんでいる。水曜日には鈴木政一監督との契約を解除し、暫定的に片渕浩一郎ヘッドコーチが指揮を執る。スタメンの変更は3人。MF加藤・高木・FW矢野に代わって、MF原・河田・FWターレスがスタメンに入った。

 

 アウェイの栃木は後半戦に入ってから6試合無敗で好調を維持している。前節勝利した岐阜戦と同じメンバーで敵地ビックスワンに乗り込む。何としても勝ちたい6ポイントマッチだ。

 

 

前半

岡﨑のポジショニングの妙

 序盤はリスクをかけずに前線の選手をターゲットにロングボールを入れる両チーム。中盤を越す展開が落ち着いてくると、ボールを効果的に保持することができたのは栃木だった。

 

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 上図は栃木のビルドアップの形。DFラインは3枚で新潟の2トップに対して数的優位を維持している。それに加えて岡﨑が2トップ裏にポジションを取り、DFラインからのボールの引き出し役になった。マークの担当は対面の原であるが、寄せはそれほど厳しいものではなかった。どちらか言えば背後のバイタルエリアの強度を維持するタスクの方がメインだったのだろう。

 

 新潟の2トップもそれに応じてプレッシャーラインを低く設定し陣形をコンパクトに。センターラインを越えたあたりから方向を限定し始め、最終的に4-4ブロックで挟み込んで奪うというものだった。

 

  安定してボールを持つことができるようになると、前方のスペースを見つけてDFラインから福岡が大きく運ぶドリブルを試みる。このとき左サイドではひし形が形成されていた。選手間の動き方や立ち位置によって入れ替わることがあったが、形自体は保たれていた。

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 福岡が持ち上がると、DFラインに岡﨑が斜めに下りる。それに合わせて西谷和が内側下がり目に、夛田は福岡の持ち上がる方向によってペナルティエリア角や大外レーンにポジションを取るなど、流動的な変化とカバーが自動的にできていた。これにより新潟は守備の基準点をズラされ、後手後手の対応に回ることとなる。右サイドよりも左サイドで主に見られたのは岡﨑の元々の立ち位置によるものだろう。また、新潟DF(安田)がこれに食いつくとその裏を大黒がダイアゴナルに狙うというような応用的な形も組み合わされていた。

 

サイドバックの攻撃力を生かした新潟のビルドアップ

 新潟の強みはサイドバックの推進力とそのクロスに合わせる前線の選手の存在である。シンプルだがメンバー構成的に理に適った戦術である。新潟はこの戦術をより効果的に実行するためにサイドバックが上がりやすい形をとった。

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 2CBとボランチ(主に原)の3人で大黒を囲むようにトライアングルを形成。中央で数的優位になると両SBはミドルゾーンに上がった。両SHはインサイドレーンに入り前線中央の厚みとSBの上がるスペースを確保。栃木の前からのプレッシングの際は、小川やSBの位置取りで安定化を図った。

 

 しかし、後方でのオーガナイズは整備されていたものの、なかなか効果的に崩せない。ライン間を締めた栃木の守備を突破できず、ミドルゾーンからのクロスボールを入れることが多くなった。単純なクロスへの対応はそれほど難しくはなく、アタッキングサードでの対ターレスはほぼ完封していた。

 

◎攻守に力強さをもたらすパウロンの存在

 前半24分、パウロンのゴールで栃木先制。ショートコーナーから最後はパウロンが巧みなトラップと右足シュートで待望の先制点を奪った。これで2試合連続の先制点。やはり、結果が出るまでの即効性が違う。

 

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 もちろん、守備についてもチームに順応してきている。栃木のネガティブトランジション(攻から守に変わる瞬間)時には、へニキの前進により空いたスペースに進入した相手へのプレッシングが徹底され、新潟のカウンターの芽を未然に摘んでいた。初出場となった金沢戦、岐阜戦に比べファウルも減り、新たなDFの核の一人として存在感を発揮してきている。

 

後半

4バックの原則は横圧縮

 後半早々、栃木が追加点を上げる。右サイドでボールを奪うと、3トップの連携から最後は浜下がこぼれ球を決め切った。記念すべきプロ入り初ゴールだ。

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 このシーンの新潟の守備陣形を見ると、右SBの安田のみブロックから外れている。それにより生まれたスペースを栃木に使われた格好である。安田は事前に水色の矢印の方向に横圧縮することで中央を締めるべきだった。 

 

 最終ラインにおいて5バックに比べ4バックは、担当するピッチ幅が一人あたり3.4メートル多くなる。これを無防備に均等に割り振ってしまうと選手間の距離が広がり簡単に縦パスを通されてしまう。そこを埋めるのが横圧縮である。横の選手との距離を離し過ぎず、適度な間隔を保ちながら全体でスライドしてボールサイドに寄せる。これによりボールを後方に下げさせ(時には奪取し)、攻撃の芽を摘む。この時逆サイドの広大なスペースは捨ててしまっても構わないというものだ。

 

 これを踏まえたうえで安田のポジショニングを見ると、明らかに原則から逸れていることが分かる。後半立ち上がりの注意すべき時間帯にこのスペースを空けてしまえば、十分失点に直結するだろう。現に西谷和はそこを意識的に突くことで、結果的にゴールをもたらした。

 

◎選手交代で打開を図る新潟

 新潟は2点ビハインドになると小川と田中に代えて渡邉と今夏加入の梶山を投入。この交代によって最前線はターレス-田中から渡邉-ターレスの縦関係に変わった。明確な意図は分からなかったが、少なくとも下がり目のFWがターレスになったことから中盤を助ける動きは減少した。

 

 それによりサイドから打開を図る回数が増え、さらに矢野投入後は、川田とのミスマッチを狙って右サイドからのクロスが増えた。パウロンがうまくズレてカバーしていたが、栃木は迫力のある空中戦に少しずつ押されていった。後半32分、服部が与えたPKもこの展開から生まれたものであった。

 

 このPKを決められれば逆転への足掛かりとなったが、安田のPKは武重が神セーブ。逆に自身のミスから与えたPKは大黒がしっかり決め、試合は万事休す。栃木が3-0で勝利し新潟に対してシーズンダブルを飾った。

 

 

最後に

 栃木としてはいい時間にいい形で得点を重ねることができた。新潟の調子が良くなかったことを考慮しても、アウェイで上げた完封勝利はチームの勢いをより加速させるエネルギーになるはずだ。次の相手はアビスパ福岡。連勝中で4位につけるチームは自動昇格圏に向けて敵地に乗り込んでも勝利だけを狙ってくるだろう。栃木は中位戦線に入り込めるか正念場となる一戦だ。

 

 最後に、この記事を書くタイミングでネイツ、仙石、牛之濵の退団が決定した。3人ともJ2復帰の功労者であり、彼らがいなければ今J2の舞台で戦うことはできなかったかもしれない。間違いなく3人は栃木SCの歴史に残る選手たちだ。感謝の思いを胸に、新天地での活躍を期待する。

 

新潟vs栃木の試合結果・データ(明治安田生命J2リーグ:2018年8月11日):Jリーグ.jp