栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【良い攻撃は良い守備から】J2 第27節 栃木SCvsFC岐阜

 今回は第27節FC岐阜戦を取り上げます。

 両チームのスタメンと配置は次のとおり。

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 前節ホームで金沢に1-1で引き分け、3試合連続ドローとなった栃木は、スタメンを2人変更。西谷優と前節負傷した和田に代わって浜下と夛田が入った。浜下は2試合ぶり、夛田は6試合ぶりのスタメン。

 岐阜は、前節大分に0-2で敗戦。連敗を3に伸ばし、その間8失点と苦しい戦いが続いている。スタメンの変更点は1人。神戸へ移籍が決まった古橋に代わって風間が右WGに入り、山岸が左WGに移った。田中パウロ淳一は引き続き負傷離脱中。岐阜はここまで11ゴールと攻撃を牽引してきた古橋が移籍した最初の試合でどのように戦うか。

 

 

前半

ボールを持たされる岐阜

 大方の予想どおり岐阜がボールを持つ展開に。試合を通じて、ボールを保持して回す岐阜に対して、栃木はブロック守備とポジティブトランジション(守→攻に変わる瞬間)の出足の早さで対抗する形となった。

 

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 上図は栃木が自陣でブロックを組んだシーン。大黒は宮本にプレスバックをそれほどしなかったことから、システムの噛み合わせ上、宮本がフリーでボールを持って捌くシーンが非常に多くなった。それにより栃木陣内に多くの選手を配置できるようになった岐阜は、仮にボールを失ったとしても、周囲の選手がパスコースを切りながら素早く囲い込んで奪取し再び攻撃へ、という形を作り徐々に主導権を握ろうとした。言わば「ずっと俺のターン!」である。

 栃木は岐阜に長い時間ボールを握られるものの、ボール非保持時の対応には慣れている。あえて宮本にボールを持たせ、宮本より前方の選手はマンマーク気味に捕まえることで、パスを受けても後方へのリターンパスや苦し紛れのフリックを誘発させるなど効果的な守備を見せた。そのため岐阜はDFラインでボールを回すことが多くなり、ボールポゼッションだけが増えていく展開に。最終ラインまでボールが下がると、タイミング(特に多かったのは田森→北谷への横パス)を見てへニキ・西谷和を起点にプレッシングをかけ全体のラインを押し上げるなど、徐々に栃木がペースを握っていった。前半13分のビクトルのバックパスの処理ミスも全体のラインの押し上げと大黒のプレッシングから生まれたものである。

 

◎鍵はセットプレーにあり

 徐々に押し込んでいった栃木が前半32分、CKからパウロンの豪快ヘディングで先制。岡﨑の入れるボールに対して、①服部がファーに流れながらニアのスペースを作る、②福岡がそのニアのスペースに走り込む、③遅れてパウロンが福岡の空けたエリアに飛び込む、の三段階の動きでセットプレーをものにした。直前の前半29分にも似たような形から福岡がニアで合わせるシーンがあり、練習した形を出すことができた。(得点後にパウロンに抱きつく岡﨑の喜びようはファン必見です!)

 岐阜は失点パターンのうち最も多いセットプレーからまたしても失点を喫してしまった。セットプレーからの失点の予防として、そもそもセットプレーを与えないことも重要ではあるが、栃木にCKを6本与え(岐阜のCKは1本)、またロングスローのある栃木に対して簡単に自陣深い位置でセーフティにタッチラインに逃げるなど、もう少し弱点をカバーするようなプレーの選択が必要だったと思われる。

 

良い攻撃は良い守備から

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 先制点も束の間の前半33分、岐阜は中島のゴールで同点に追いついた。へニキの前へのプレスに合わせてスペースに下りたライアンが宮本からパスを受け、北谷へ。左SBの福村に展開すると、へニキの空けたスペースを埋めていた浜下の右側(円で囲ったスペース)を前進しクロス。最後は中島が決めた。

 栃木の前から行こうという姿勢は称賛すべきであるが、それは背後にあるリスク管理があってのこと。配置上ボランチのプレッシングに対してカバーリングをするWGは数的不利となる場面が多く、そこはチームとしてタイミングとプレスの追い込み方を整理する必要がある。でないと、両WGが守備に相当な運動量を強いられ、攻撃がパワーダウンしてしまう。栃木と対戦する相手はここを狙いとしてしてくるだろうし、栃木はここを一つの課題としてレベルアップしてもらいたい。

 

 栃木はその後1点を追加し、2-1で前半終了。右サイドのコンビネーションから最後は大黒が決めて勝ち越した。岐阜の寄せが若干甘かったにしても、浜下の突破力は魅力的である。西谷和とはまた違ったタイプのドリブラーの今後の成長が楽しみだ。

 

 

◆後半◆

プランBの欠如

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 後半に入り試合はより互いの色が濃くなっていく。点を取らなくてはならない岐阜は右SBの阿部を大外レーン高い位置に上げ、風間がインサイドレーンに流れることが多くなった。全体のラインを押し上げながら、岡﨑の脇のエリアを使う狙いだろう。上図は後半5分の配置であるが、左サイドに人が多くなったことから、前半に比べて左で組み立てて右はシンプルに縦に早い攻撃という形が多くなった。

 ただ栃木としてはすることは変わらなかった。自陣にブロックを組む際は、5レーン全てに人を配置し進入を許さない。後半早い時間に岐阜のミスから西谷和と大黒のゴラッソにより2点を追加し4-1になったこともあり、岐阜にボールを保持されても焦れずに守ることができた。

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 岐阜は後半11分に三島に代えて長沼、後半20分にライアンに代えてミシャエルを投入。依然右SBが高い位置を取りつつ個のキャラクターと位置取りを変化させながら隙を狙うも栃木のブロックを崩せない。前線の選手が下がってパスを受けても前半同様リターンパスが多く、大外レーンに流れると素早く囲い込まれて奪われてしまう。しまいにはパスミスからカウンターを受けてしまうという八方塞がりな状態になってしまった。

 「もう少し前に重心がかかる状態を作らないといけないと思います。」(大木監督の試合後コメント)とあるように、より効果的にボールを動かして、栃木のブロックのDF-MFライン間や中央のバイタルエリアを起点に攻撃に厚みを作りたかった。アンカーの宮本の役割は栃木がブロックをセットし切れないうちに左右に振り、マークをずらした上で縦パスを通すことである。前提条件である揺さぶりができていない状態では、選手を入れ替えたとしても守備側としては守りやすいはずである。

 サッカーに「たられば」は禁物ではあるが、組織の中に一人、個の能力に秀でる選手がいれば最後まで栃木にとって脅威だったかもしれない。また、ウインガーに対角線の長いボールを入れて裏への抜け出しや電柱系FWへフィードを送りセカンドボールを拾う等、地上戦以外の選択肢はいくつもある。これらは属人的な手法なので一概にどのチームも採用できるわけではないが、オプションとして持つに越したことはないものである。この試合の岐阜には現状を打破するだけのプランBがなかった。

 

 試合は最終的に4-1で終了。栃木が勝ち点3を獲得し、6戦負けなし。一方岐阜は4連敗に。ここ最近の調子の差がそのまま出た結果となった。

 

最後に

 ボール支配率に大きく差のある両チームの対決は栃木が狙いどおりの形で完勝を収めた。攻守に良いバランスで主導権を握り、アタッキングサードでは個のクオリティの高さを発揮し、第12節以来16試合ぶりの複数得点を上げることができた。特に良かったのは前から行うプレッシングの姿勢。失点はその裏返しだが、それよりも多くの得点を生んだ。相手にとって十分厄介だっただろう。

 岐阜は、連勝を重ね順位を上げた時期もあったが、現時点では16位。古橋が移籍し田中パウロ淳一が負傷離脱中の影響は相当大きいようだ。そのなかでも初出場となったミシャエルは面白い選手だった。若く荒削りな部分はあるが、攻撃への積極性は十分期待できる。

 次節の栃木の相手はアルビレックス新潟。監督交代もあり未知数な部分もあるが、粘り強く戦えば間違いなく勝機はある。良い試合になるよう全力で応援しましょう!