栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【選手別レビュー】栃木SCの2022シーズンを振り返る(中)

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16 DF カルロス グティエレス

36試合/3089分/4得点/1アシスト

■スタイルチェンジの原動力となったDFリーダー

 これまでの栃木の強みである堅守に、最終ラインからのビルドアップという現代サッカーでは欠かせない要素をもたらしたDFリーダー。柳、乾という昨季のレギュラーCBが退団した影響を思い起こさせない圧倒的な存在感で栃木の守備を牽引した。

 展開を読み適切に判断する能力はこれまで栃木に所属してきたCBのなかではずば抜けて高かった。繋ぐべきところは繋ぎ、相手の重心が前に傾けば最終ラインの背後やタッチライン際の選手へロングフィードを届ける。リーグのなかで見ればパス数もポゼッション率も低い方だが、それまで非保持ありきだったチームが保持でできることを増やせたのはグティエレスの存在が大きい。若い鈴木海音や大森がのびのびとプレーできたのもグティエレスのクレバーなプレーと高いリーダーシップのおかげだろう。

 1vs1の守備対応はとにかく堅調。タイミングを見て長い足を相手とボールの間に潜り込ませることで、一見分が悪そうな局面でも勝利するデュエルはお見事。先にボールをつついて相手のコントロール下からズラすだけでなく、タッチラインをギリギリ割らないような力加減で触れる技術はもはや芸術の域だった。

 基本的には文句の付けどころのない素晴らしい選手だが、強いてあげるとすれば、機動力には多少の不安があった。23節岩手戦(△1-1)では一発背後に抜け出した選手を倒してしまい退場処分に。ハイラインを基調とするチームの泣きどころではあるが、その後も執拗に狙われ手を焼いた印象だった。

 とはいえ、シーズンを通して見れば十分過ぎる活躍を見せてくれただろう。個人としても怪我に泣いた2シーズンから完全復活を遂げ、4得点をマークした。スペイン2部で主将を務めていただけあって当然なのだが、J2中位~下位に置いておくにはもったいない選手である。

 

 

17 MF 山本 廉

15試合/548分/0得点/0アシスト

■怪我と向き合った経験を糧に

 ハードワークできるテクニシャンは昨季に続き今季も怪我に泣かされた。出場試合数が15、うち先発が6試合は加入後最も少ない数字である。

 田坂監督時代はSHでの働きが評価され定期的な出場機会を得たが、今季はベンチ入りを争う立場からスタート。3節岡山戦(●0-1)で途中出場から初出場を飾ると、連敗でチームが調子を落とした春先からは先発出場と途中出場をコンスタントに重ねた。派手なプレーはなかったものの、守備で計算できる選手として監督にとっても起用しやすい選手だっただろう。

 しかしながら、ようやく出場機会を掴み始めた矢先の16節琉球戦(●0-1)で右鎖骨を骨折。苦悶の表情で肩のあたりを抑える山本の姿に心を痛めたサポーターも多かっただろう。それ以上に本人が悔しかったのは間違いない。またしても上半身の負傷により離脱を余儀なくされることとなった。

 天皇杯マリノス戦(〇2-0)で復帰を果たすも、それ以降はあまり出番を得られず。少ない時間で自ら流れを変えるというよりは、出場を重ねてリズムを掴んでいく選手なのだろう。フィットネスがよくなれば2020年に見せた輝きを取り戻せるはずである。

 ユースからトップに昇格して5年。今や古参ともいえる在籍年数になるが、よくよく考えれば大卒ルーキーの年である。若いうちに怪我と向き合った経験を糧に来季こそはフルシーズンでの活躍が見たい。

 

 

18 MF 大森 渚生

34試合/2689分/0得点/0アシスト

■時崎スタイルの申し子

 日本大学から加入した大卒ルーキー。当初はヴェルディユース出身で左利きの技巧派という触れ込みで加入したが、蓋を開けてみれば開幕から左CBとして出場。育成年代を見てきた有識者が揃って驚いたのは記憶に新しい。

 ただ、求められたプレーは純粋なCBというよりはより攻撃時を意識してのもの。チームが保持を始めるとWBと連携して左サイドの攻撃に積極的に関わっていく。状況に応じて内側と外側を使い分けたり、縦のタッグを組む相方が誰になっても卒なく熟せるあたりは高い戦術理解を感じさせた。守備の堅調さも試合を重ねていくごとに安定していった印象だ。

 できれば得点かアシストが欲しかったのは正直なところ。26節千葉戦(〇1-0)で右からのクロスに合わせたシュートが相手GK正面となったシーンは今季最も惜しいチャンスだった。高精度の左足でプレースキックも多く任されていただけにアシストへの期待値は高かったはずである。

 ルーキーイヤーは監督の信頼を掴み、可変スタイルの肝になるなど中心選手としてハイパフォーマンスを見せた。勝負の2年目はより数字を積み重ねることができればキャリアの道筋は明るいだろう。

 

 

19 FW 大島 康樹

21試合/812分/0得点/2アシスト

■突き抜ける何かが欲しい

 今年も1人で複数ポジションをこなしたユーティリティープレイヤー。WBでもシャドーでも、右でも左でもプレーレベルに波がなく、状況に応じて柔軟に起用できる選手として時崎監督のもとでも貴重な戦力となった。途中出場13試合は宮崎に続きチーム2位の数字。ベンチ入りすれば必ずどこかで起用されていた印象である。

 柏ユース出身者らしく足元の技術や相手のライン間で受ける技術はハイレベル。夏場から終盤にかけて右シャドーの位置で先発を掴むと、相手に捕まらない絶妙なポジショニングでチームの攻撃のアクセントになった。32節秋田戦(〇3-0)や34節群馬戦(△1-1)では、[4-4-2]のブロックを組む相手の泣きどころに顔を出し続けることで、ハーフコートゲームにする時間も多く作った。

 一方、ゴール前に自ら入っていく迫力は今季は目減り。これまではシーズン早々に点を取り2点目を期待するのがお馴染みだったが、栃木加入後初めて無得点でシーズンを終えることとなった。できることが多いのと器用貧乏は表裏一体なだけに、一つ突き抜ける何かが欲しいところである。

 

 

20 DF 三國 ケネディエブス

3試合/186分/0得点/0アシスト

■メンタリティが鍵となる未完の大器

 出番を減らした昨季終盤を考えればレンタル期間の延長は意外だったが、今季も思うように出場機会を得ることはできなかった。若手の起用に積極的な時崎監督のもとでもアピールし切れず、8/10に福岡への復帰が決定した。

 栃木で出場した3試合はいずれも三國にとって難しい試合だった。5節岩手戦(△1-1)ではクローザーとして途中出場するも直後に同点被弾。初先発した13節山口戦(●1-2)は終盤の失点で逆転負け。鈴木海音が代表活動で離脱していた20節長崎戦(●2-3)も同じように終盤に逆転弾を喫した。三國個人の責任ではないにしても最終ラインを構成する一角として厳しい評価になってしまった。

 課題は明確、プレーにムラがあること。ノリに乗るとドリブルで相手を剥がして持ち運んだり、そこからスルーパスを出すクオリティはあるのだが、ミスが生じると途端にプレーが小さくなってしまう。CBというポジション柄、メンタリティの持ちようでプレーに大きく波が生じてしまうと起用しにくい。

 福岡復帰後はリーグ戦5試合に出場。最終節浦和戦ではフル出場でチームのJ1残留に貢献したが、シビアな残留争いを戦ってきた栃木での経験が多少は生きただろうか。栃木在籍が特大のポテンシャルを発揮するきっかけとなってくれることに期待したい。

 

 

21 FW エメル トカチ

21試合/995分/1得点/1アシスト

■FWらしいエゴがネックに

 時崎監督が福島から連れてきた秘蔵っ子は最終的に契約解除という形でチームを去ることになった。

 出だしは悪くなかった。開幕戦秋田戦(〇1-0)では積極的に振っていったミドルシュートが西谷に当たりゴールイン。4節大宮戦(△1-1)では直接FKから値千金の同点弾をあげた。14節までで先発は12試合。その他の2試合は過密日程により先発起用が避けられたミッドウィークの試合であり、序盤戦の攻撃の中心だった。

 しかし、その後は徐々に出場機会を減らしていく。一番の理由はチームプレーという観点で疑問符が付くプレーが散見されたことである。球離れの悪いドリブルや強引なシュート選択、交代時の不貞腐れたような態度はいかにも外国人FWらしい側面だが、決して褒められたものではなかった。17節徳島戦(〇1-0)では途中出場からピッチに入るも守備強度が足りずにわずか10分程度で途中交代を命じられた。

 それでも福島時代からの恩師である時崎監督への想いは変わらなかった。天皇杯岡山戦(〇1-0)でゴール後にベンチの時崎監督のもとへ一目散に走っていく姿は、これまでの背景があるだけに印象深いワンシーンだった。

 トカチが今どこで何をしているのか、サッカーを続けているのかすら分からないが、FWとして良くも悪くもエゴの強い選手がいたことは記憶しておきたい。

 

 

22 DF 小野寺 健也

5試合/367分/0得点/0アシスト

■守備者としては頼りになる存在

 昨季は残留を決めるキーマンとなり栃木への完全移籍の切符を手にしたが、今季はチーム戦術の変化に苦しんだ。天皇杯敗退後の8月に出場機会を求めて鹿児島への期限付き移籍が決定した。

 相手の攻撃を弾き返すパワー感やフィジカル、ハイボール対応はチーム随一の強さ。ここの勝負ではグティエレスにも鈴木海音にも十分引けを取らなかったように思うが、保持にも力を入れたチームにおいて攻撃の運び出しのスムーズさでは彼らの方に分があった。あいにく開幕から堅守を維持できていたため、出番が訪れたのはごくわずか。鈴木海音が代表活動で離脱した際の起用も徐々にコンディションを上げた大谷に譲ることとなった。

 それでも少ない出場機会で見せたパフォーマンスは守備者として頼りになるものだった。控え組中心となった天皇杯ではDFリーダーとして奮闘。とりわけマリノス戦では、両脇に若く経験の浅い小堀と井出を従えながらクリーンシートを達成し、大金星の立役者の一人となった。

 鹿児島に移籍してからはレギュラーとして広瀬健太とともに2CBを構成。選手レビュー作成時は昇格争い真っ只中だが、どのような結末を迎えるか。

 

 

23 MF 植田 啓太

25試合/1112分/3得点/0アシスト

■泥臭さも身に付けた成長著しい有望株

 マリノスからのレンタルを延長した今季は昨季の7試合を大幅に上回る25試合に出場。プロ初ゴールを含む3得点を記録し、高卒2年目としては十分過ぎるインパクトを残した。

 今季絡んだ得点シーンを見れば分かるように、巧さだけではなく泥臭さやチームプレーという点でも目に見えて成長したように思う。シャドーで先発した17節徳島戦(〇1-0)は大きなターニングポイントになった。右からのクロスに飛び込んで潰れ役になると、ファーでフリーになった矢野がボレーシュート。矢野の決定力の高さはもちろん素晴らしいが、そのシチュエーションを生んだのは紛れもなく植田の献身性だった。24節山形戦(〇2-0)でも同じようにクロスに対してニアに飛び込み西谷のゴールをお膳立て。26節千葉戦(〇1-0)で自身に生まれた得点はこれまでの貢献が報われたようなクロスからのヘディング弾だった。

 元からの特徴であるパンチ力あるシュートも健在。18節町田戦(〇1-0)で記録したプロ初ゴールや33節長崎戦(△1-1)であげた得点は少し遠目でも振り抜く判断をしたからこそ生まれたもの。シュートレンジの広さは魅力の一つである。

 かつてマリノスから栃木へ武者修行した水沼が時を経てリーグを代表する選手に成長したように、植田の今後の行く末に期待したい。

 

 

24 MF 神戸 康輔

25試合/1479分/0得点/0アシスト

■時崎栃木を牽引する若き心臓

 神戸ほどシーズンを通して日に日に成長し存在感を増していった選手はいないだろう。神戸が初めてプロのピッチに立ったのは14節山形戦(●1-2)の途中から。同じ大卒ルーキー組や自分よりも若い選手が出場機会を重ねていくなか、ベンチ入りすらできない厳しい立場に置かれていた序盤戦だった。

 しかし、17節徳島戦(〇1-0)で途中からまとまった出場時間を得ると、これまでの悔しさを晴らすかのように躍動。豊富な運動量でピッチの至るところに顔を出し、ボールを持てばパスを散らして攻撃のテンポを上げていく。それまで出場していた西谷や佐藤とは違ったクオリティを見せ、チームの10試合ぶりの勝利に大きく貢献した。この試合を機にボランチのレギュラーに定着するわけだが、自身の力でポジションを掴み切る姿は非常に頼もしかった記憶がある。最終的にそれから欠場したのはたった2試合だった。

 守備の強度やタフさも兼ね備える神戸だが、それを相当意識するようになったきっかけは間違いなく20節長崎戦(●2-3)だろう。本人にとって初めてフルタイム出場を果たした試合だが、終了間際にクリスティアーノとの球際勝負に弾き飛ばされてそのまま逆転弾を献上した苦い記憶の方が深く刻み込まれているだろう。この敗戦が神戸を一つ逞しくさせる要因になった。

 攻撃面では天皇杯マリノス戦(〇2-0)でプロ初ゴールとなる決勝点を記録。積極的に振っていった右足シュートが綺麗な放物線を描き、昨季まで栃木のゴールマウスを守ったオビの手をかすめてネットを揺らした。普段からミドルシュートの意識は非常に高く、リーグ戦での初得点も時間の問題だろう。

 万能型のボランチとして存在感を示しただけに去就に注目していたが、すでに複数年での契約更新が決定。時崎栃木を牽引する若き心臓として来季も力強いプレーを見せてくれるだろう。

 

 

25 GK 青嶋 佑弥

0試合/0分/0失点

■まずは第2GKの座を掴みたい

 明治大学から加入した元Jリーガーの父を持つGK。川田、藤田と高いレベルでポジションを争ったが、今季の登録選手では唯一出場機会を得ることができなかった。

 プレーする姿を見ることができなかったので特徴は分からないが、明治大学4年生時は主力GKとしてチームのリーグ戦最小失点に貢献。多数のJリーガーを排出する名門で守護神を張ってきたことを考えれば、GKとして十分なポテンシャルを持っていることが窺える。プロ1年目の試合出場は適わなかったが、まずは第2GKの座を掴むべく練習からアピールを続けていきたい。

 

 

27 FW 五十嵐 理人

11試合/138分/0得点/1アシスト

■求められるのはゲームチェンジャーに留まらない活躍

 特別指定選手として在籍した昨季を経て、今季鹿屋体育大学から正式に加入した大卒ルーキー。前半戦は流れを変える存在として途中出場を重ねたが、後半戦に入ってからは全く試合に絡めなくなってしまった。

 リード時はシャドーとして相手保持者を追い回し、ビハインド時はWBで将棋の香車のように縦突破からクロスを繰り返す。並走する相手を置き去りにする快足は魅力で、攻守両面で重宝された。そもそもの出場数が少ないが、ベンチ入りした試合はもれなく途中出場していることからも時崎監督から評価されていたことが窺える。

 多少ピーキーな存在ではあっただろう。それゆえ戦術面で物足りない部分があったのか、それともコンディション面で整わなかったのか、後半戦に絡めなかった理由は分からないが、勝負の(実質)3年目を迎える来季はピッチで躍動する姿を多く見たい。

 

 

28 DF 吉田 朋恭

7試合/479分/0得点/0アシスト

■競争を激化させる存在

 ルーキーイヤーを選手、コーチの関係で過ごした時崎監督のもとで再起を誓うべく夏に山形から加入。3バックの左CBは大森と大谷を使い分けながらも絶対的な存在がおらず、左WBは福森も森も右利きでレフティが不在だった状況を踏まえれば、勝手知ったる吉田の存在はまさに打ってつけの補強だったように思う。

 加入直後から継続してベンチには入っていたものの、出場機会は限定的だった。残留争いを戦うチームにおいて最低限堅守を維持できているなかでは組み込みにくいという事情はあったかもしれない。ミッドウィーク開催の36節仙台戦(●0-1)で初先発を果たすと、終盤戦は負傷離脱した大谷に代わり左CBに定着。コロナ陽性者が多発するなか先発した39節甲府戦(〇1-0)では急造最終ラインを見事に束ね、クリーンシートでJ2残留を決めた。

 武器は精度の高い左足キック。40節町田戦(〇1-0)では膠着した展開のなか獲得したFKから決勝点を演出。ひと山越えて佐藤祥にドンピシャで合わせると、最後はこぼれ球を高萩が押し込んだ。大森にとっては左利きのプレースキッカーという意味でもライバルになることを印象づけたシーンだった。

 完全移籍で加入しているだけに来季の契約更新は濃厚と見るのが自然だろう。競争を激化させる存在として来季もチームの中心人物の一人になるだろう。