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【スタイルの正面衝突】J2 第30節 栃木SC vs ロアッソ熊本

スターティングメンバー

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栃木SC [3-4-2-1] 15位

 前節徳島戦は終盤のゴールでドローに持ち込んだ栃木。後半戦に入ってここまで8試合で1敗のみと安定した結果を残しており、さらなる浮上に向けて弾みをつけたい一戦となる。スタメンの変更は1人。谷内田に代わってボランチには磯村が今季二度目の先発。ベンチには大森と植田が戻ってきた。

 

ロアッソ熊本 [3-3-1-3] 6位

 堂々の戦いぶりでプレーオフ圏内につけている熊本。7月の6試合では4勝をあげ、その全てでクリーンシートを達成するなど好調を維持している。前節は琉球に足をすくわれただけに今節はネジを締め直して臨んでくるだろう。スタメンの変更は2人。左WGの東山は今季初先発、左WB田辺は約2ヶ月ぶりの先発となった。

 

 

分岐点を制される

 自陣での守備の時間が長くなった前節を払拭するように、立ち上がりから猛烈なハイプレスをかけていくこの日の栃木。対する熊本も上等とばかりに巧みなボール回しとロスト後の即時奪回を披露。両チームのアグレッシブなスタイルにより試合は落ち着かない展開で進んでいった。

 熊本のボール保持の特徴は前進するにしても横パスをするにしてもとにかくテンポが速いことだ。熊本は一人一人の止める蹴るの技術が非常に高く、狭い距離間に人を集めてショートパスを多用してくる。栃木としてはこのテンポの速さを上回る予測と反応でプレスをかけなければボールを奪うことはできない。

 その意味で立ち上がりは鋭いアプローチからカウンターに移行する場面を何度か作ることができた。栃木がボールを奪うパターンとしては前線から相手を捕まえつつ、河原の脇でもう一人のボランチ役を担った選手に強く寄せることができたときだった。

 例えば12分には、左WBの田辺がインサイドで菅田からの縦パスを受けようとしたところを磯村がインターセプトし、カウンターを発動。ライン間でボールを受けた髙萩は反転して前を向くとエリアの外からミドルシュートを放った。続く13分には、田辺と河原がポジションをスイッチし、アンカーの位置に入った田辺が左の河原へ預けようとしたところをCB鈴木が出足良く回収。そのまま押し込み、最後は3列目から磯村が飛び出す分厚い攻撃を演出した。

 前線3枚が熊本の3バックを、神戸がアンカー河原を監視しつつ、入れ代わり立ち代わり河原のサポートに入る選手に対しては近くの選手が寄せていく。1トップ高橋がここに下りてくることも少なくなく、ハーフラインを越えてグティエレスがプレスにいく場面もしばしば。栃木が前傾姿勢で来るならばと、熊本は牽制するようにWGを背後に走らせるロングボールでブロックの引き伸ばしを図ることもあった。両チームのスタイルを踏まえれば、ここの勝敗はまさに試合を左右する分岐点であり、互いに譲れないところであった。

 こうした激しい駆け引きのなか、先にネットを揺らしたのはホームチームだった。中盤での被ファールからクイックリスタートで再開すると、竹本・黒木と繋いで右サイドに張る杉山へ。杉山は対面の福森をかわし、カットインしていくとペナルティエリア外から得意の左足を強振。GK川田にとってノーチャンスのゴラッソで熊本が先制に成功した。

 先制点を許した栃木はここからハイプレスを基調に盛り返したいところだが、熊本の流れるようなパスワークに苦戦。とりわけグティエレスは下りて味方へ繋ぐ高橋のポストプレーに制限をかけられず、また、役割を入れ替えて竹本が同様の動きをした際の対応にも完全に後手を踏んだ。熊本のシームレスな動き直しやテンポの良さが見事だったのは言うまでもないが、前への勢いを溶かされてしまう栃木は序盤のようにカウンターを発動できなくなっていった。

 それでも攻撃機会が全くなかったわけではない。テンポが速いなりに生じた熊本のミスからマイボールにし、髙萩や磯村を中心に落ち着かせてサイドへ展開するシーンは少ないながらも作ることはできていた。

 ただ、熊本も守備への切り替えやボールホルダーへの寄せは非常に速かった。黒﨑に対して田辺が縦を切りつつ東山が挟み込むなど、ストロングである黒﨑の右足は徹底的に封じられた。クロスを上げられない栃木はボールを下げざるを得ず、後ろで作り直している間に生じたミスからボールロスト。熊本に献上した追加点はこうした流れを掴めない時間帯に喫したものだった。

 自分たちのスタイルを前面に押し出した前半は、ホームサポーターの声援を受けた熊本が圧倒。栃木が前半のうちに複数失点を喫したのは第2節東京ヴェルディ戦以来のことだった。

 

 

それぞれのシステム変更の狙い

 後半から栃木はグティエレスに変えて大森を投入。大森を左SB、福森を左SHに配置する[4-2-3-1]に変更し仕切り直しを図るが、結果的にこの采配は悪手となってしまった。

 変更の意図としては、熊本の3バックには根本と両SH、アンカー河原には髙萩をはっきり当てることで、ハイプレスの威力を高める狙いだっただろう。2点ビハインドとなれば後ろに人を余らせておく余裕はない。グティエレスを下げたのは前に人数をかけるための戦術的交代だった。

 ただ、ここでもシステムの噛み合わせから問題が生じてしまう。前から寄せたいSHと相手WGによりピン留めされるSBとの間で熊本のWBがフリーになってしまうのである。

 イヨハが持ったタイミングで田辺が斜めに下りてきたり、WG坂本に当てた落としを受けるなどして、熊本は意図的にWBが前を向けるようにボールを動かしていく。後半序盤の熊本は後ろの選手はシンプルな捌きに徹し、WBがゲームメイクするようにしたことでサイドから斜めのパスでライン間に侵入することが増えていった。

 この時間帯の栃木は全体のコンパクトさを著しく欠いた。マイボールにできるのは自陣深くで何とか耐えてからであり、そこから熊本の襲いかかるようなプレスを受けながらのビルドアップではハーフラインをまたぐのも一苦労。そうした苦しい展開を受けて、58分に2枚替えとさらなるシステム変更を敢行。これにより栃木はようやく落ち着きを取り戻すことができた。

 [3-4-1-2]に変更したことで大きく変わったのは、熊本の3バックに対して2トップを当てたことだ。あえて少ない枚数を当てることで2トップには3人分の運動量を期待しつつ、中盤以下はそこから先のパスの受け手を監視する。後ろには3バックが控えていることから黒﨑・福森も前へ思い切りよくプレスをかけられるように。4バックの時とのアグレッシブさの差は明らかだった。

 守備が安定し始めた栃木は、2トップの圧倒的なポストプレーの強さを起点に攻撃の比重を高めていく。62分、西谷の左足で放ったループ気味のシュートはGK佐藤の好セーブに阻まれ、68分には黒﨑のクロスにゴール前に飛び込んだ磯村のヘディングはわずかに枠の外。同点へのきっかけを掴むならばこの時間帯だった。

 大島・植田を投入してフレッシュな選手でまずは1点を返したい栃木だが、残り時間が迫ってくるなかで焦りがプレーにも表れていた。上村に対して鈴木が寄せたタックルは危険なプレーであり、そのほかビルドアップにおいても丁寧に繋げればそれなりにゴール前まで進めることができた一方で、稚拙なミスも目立った。それでも2点差を維持できたのは守護神川田の非凡なシュートストップがあったからにほかならない。

 85分、前節のように右サイドを切り込んで西谷がクロスを上げるが、ゴール前の混戦からシュートには至らず。86分には、スローインの流れで相手のミスから矢野に決定機が訪れたものの、ギリギリのところでクリアされた。熊本の攻撃には苦しめられつつも、チャンス自体はそれなりにあった。

 最後まで攻めた栃木だったが、3試合ぶりのノーゴールでこのまま試合は終了。栃木は5試合ぶりの敗戦、熊本はホーム3連勝を飾った。

 

 

最後に

 栃木にとってはアウェイで手痛い敗戦となった。中位との対戦が続いた7月はしっかりと勝ち点を積み上げることができたことで中位の仲間入りを果たすことができたが、その上に位置する熊本の壁は高かった。自分たちのスタイルを前面に押し出した前半に2失点を喫したインパクトは大きく、後半はシステム変更と守護神の活躍でペースを少しずつ取り戻すので精一杯な印象だった。

 それでも前節に引き続き、前からアグレッシブに戦う大枠は維持したままシステム変更によるメリットを生かすことができた意味は大きいだろう。苦戦しながら築いた基礎があるこそ柔軟に対応することができる。時崎監督の目指すスタイルがようやく整備されてきた。

 8月は上位につけるチームとの対戦が続く。ホームに新潟を迎える次節で仕切り直しを図ることで、再びプレーオフ圏内への挑戦状を携えたいところだ。

 

 

試合結果・ハイライト

栃木SC 0-2 ロアッソ熊本

得点 18分、37分 杉山直宏(熊本)

主審 川俣秀

観客 3611人

会場 えがお健康スタジアム

 

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