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【チームに求められることとは】J2 第3節 栃木SC vs 横浜FC(●0-1)

はじめに

開幕から無得点で未勝利とスタートダッシュを飾ることのできなかった両チーム。このままでは早くも遅れを取りかねない両チームに求められるのは、フィニッシュの質と量を上げることでしょう。

最前線にはJ2屈指の点取り屋を有するだけに、ゴールを決めることで状況を好転させたい両チームによる一戦は、栃木SCのホーム、グリーンスタジアムにて行われました。

 

 

スタメン

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栃木は開幕から引き続き[3-4-2-1]を採用。3失点で完敗した前節からスタメンを2人変更し、シャドーには大﨑、左WBには西谷優希が入りました。西谷優希は今季初出場。開幕からフル出場を続けていた浜下はメンバー外に、GK川田、DF久富、FW大島らは初のメンバー入りとなりました。

 

対する横浜もベースとなるフォーメーションは栃木と同じ[3-4-2-1]。横浜といえば[3-5-1-1]のイメージがありますが、この試合ではレアンドロドミンゲスと松浦が横並びの2シャドーの形。スタメンも前節から5人変わるなど試行錯誤中といったところでしょうか。ベンチには古巣戦となるGK竹重とFW瀬沼、前節良い動きを見せた17歳MF斉藤が入りました。

 

前半

密集とポジションチェンジを駆使した栃木の設計

両チームとも[3-4-2-1]のフォーメーションで入ったこの試合。噛み合わせ的にピッチ上の各所でマッチアップする相手が明確になるミラーゲームになりました。

この時大事なのが対面の相手を攻守においていかに上回るか。マッチアップがはっきりしている分、ここの勝敗次第で一気にピンチにもチャンスにもなります。

両チームともトランジションからの早い攻撃を第一とするなか、栃木はサイドでオーバーロード(密集)とその中でのポジションチェンジにより打開をしようという狙いが見られました。

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図は前半13分に見られた形。

左サイドのユニット(和希、優希、岩間、温井)に加え、この場面では右シャドーの大﨑、そして寺田も左寄りにポジションを取りました。このとき横浜のCB田代はヨンアピンとともに大黒のマーク、CH佐藤はバイタルを埋めることを優先しているため、栃木は左サイドで6vs4の数的優位を得ることができていました。

加えて、この場面では温井が大外レーンに流れたのを起点に、左サイドのユニットが右方向に旋回することで、全体の形を変えずに持ち場を移していました。

このとき困るのが密集内の横浜の選手。この項の初めに書きましたが、ミラーゲームの基本は対面の相手を上回ることです。そのため、旋回し大きくポジションを動かす栃木の選手にただ付いていってしまうと、移動の間に生じたマークのズレやスペースから栃木に付け入る隙を与えてしまいます。

したがって、横浜は基本的には選手を大きく動かさず、自陣にブロックを構えることでバイタルエリアを閉めながら栃木のミスを待つという展開になっていました。構える横浜に対して栃木が唯一崩せそうだったのがヨンアピンを釣り出した下図のシーンでしたが、横浜はCHが素早く下りて埋めることで空いたスペースを有効的に利用することはできませんでした。

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CHが下りて埋めることでスペースをカバー

 

ここまで見れば横浜が受け身になっていたという感じもしますが、実際はその逆のイメージ。ピッチコンディションと練度の低さから栃木のパスワークにミスが多かったこと、カウンターに移行した際にイバがボールを収められることなどから、横浜は主体的にあえてミドルゾーンに構えて待つことを選択していました。そこから奪って繰り出すカウンターは栃木の脅威になっており、栃木は横浜の敷いた罠にはまった格好になっていました。

 

栃木の構造的弱点を突きたい横浜

一方、横浜は自陣から繋ぐというよりは早めにイバに当てて、セカンドボールを拾うことで高い位置を取ろうという狙いがあったように見えました。

マッチアップすることの多かった藤原は、イバと通常ではミスマッチといえるほどの身長差があり、栃木にとっては「いかにイバを抑えるか」というよりは、「ボールを供給する出し手に自由を与えない」という点に重きが置かれていました。その現れが比較的高い位置からの同数プレッシングでした。

 

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その時の横浜の対応が上の図。

ハイプレスを行い、オールコートマンツーマンになった栃木に対して、GKをCB化することでプレスの逃げ場を作り対応しました。この形は前半10分と38分に見られ、横浜はCBへの同数プレスを受けた際の解決策を用意していました。

 

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栃木がミドルゾーンからプレッシングを開始したときも似た形で対応。CHがCB化し最終ラインで数的優位を確保すると、慌ててプレスにいく大﨑の背後のヨンアピンを使いながら、主に左サイドでギャップを作ることができていました。

そのため栃木の右WB川田は瞬間的に武田とヨンアピンを同時に見なくてはならない状況になり、一方CH岩間はライン間のレアンドロドミンゲスや松浦が気になるため前に出られないなど、栃木にとってはプレスの空転から苦しい状況になっていました。

 

前半は両者得点なしで折り返し。

 

後半

一進一退の様相

後半も展開変わらず一進一退の攻防が続きます。

序盤は栃木が左サイドを起点に西谷優希からのクロスでチャンスを作った一方、横浜はポジドラからの栃木CH脇や、イバの高さを中心にゴールへと迫りました。

そのなかでも特にゴールの可能性が高かったのが横浜のセットプレー。実際に後半1分にはイバが、後半20分には田代がそれぞれ競り合いのなかでフリーになりフィニッシュに至りましたがゴールならず。栃木としてはセットプレーでボールウォッチャーになってしまう点はできるだけ早く修正したいところです。

 

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上の図は、後半の中盤に2度見られた栃木のチャンスシーン。

横浜は前半から継続してGKのCB化により最終ラインで数的優位を作っていましたが、この場面ではヨンアピンではなく左WBの武田が最終ラインに入っていました。

このときヨンアピンは図の矢印のようにインナーラップ。この少し前から横浜は左サイドを起点にしながらヨンアピンの攻撃参加も交え、分厚い攻撃から攻勢をかけていました。このシーンでも「武田が最終ラインにいるから数的優位は作れそう!」と思ったかは分かりませんが、ヨンアピンは積極的に前進し攻撃参加を狙っていました。

ただ、これにより問題が生じたのは横浜の方。武田が最終ラインの選手となったことで、栃木は右WBの川田がプレッシングをかけられるようになり、四角で囲ったエリアで数的同数、武田のエリアでは1vs2と数的不利となっていました。後半23分には奪ったボールを大﨑が運び、ゴール前に供給することでゴールまであと1歩のところまで迫りました。

 

途中投入の選手が試合を動かす

横浜は後半23分、25分、27分にそれぞれ戸島、斉藤、安永を投入。武田→安永の交代はアクシデントによるものでしたが、これらの采配は停滞する横浜の攻撃を加速させるには十分なものでした。

まず良さを見せたのがMFの斉藤。松浦に代わり左シャドーに入ると、後方からボールを引き出し前への推進力とテクニックを発揮し、短い出場時間のなかで2本のシュートをマークしました。左WBに入った安永も落ち着いたプレーで得点に絡むなど、両者ともに年齢を感じさせない強かさが見られました。横浜FC下部組織の育成レベルの充実度が伺えます。

また、外せないのがイバに代わり最前線に入った戸島。オフザボールの動きから栃木のWB裏に流れて起点を作りつつ、ゴール前の局面では高さを見せつけ、最終的には左足で決勝点を奪いました。これが横浜にとって今季のチーム初ゴール。チームを救うゴールは絶対的なエースに代わって入った選手により生まれた点も、また大きいと思います。

 

一方栃木は3枚とも負傷によりカードを切ることになるなど、終始アクシデントに悩まされました。怪我の功名だったのは古波津のフィットネスの良さでしょうか。毎年ケガに悩まされていた古波津が今季は開幕期からコンディションを維持し、初出場となったこの試合でも、予測を効かせたインターセプトや激しいプレッシングだけでなく、攻撃面でも大黒らへの縦パスを常に意識したプレーで岩間が欠けた中盤を牽引していました。

しかし、ゴールを奪うまでには至らず。試合は後半アディショナルタイムにマークした戸島のゴールにより0-1で横浜が勝利しました。

 

最後に

ここまでの2試合に比べ、横浜戦は走力も球際の激しさも、得点の匂いも十分感じられました。しかし結果は無情な失点による敗戦。これにより順位は21位に落ち、またリーグ唯一の開幕からノーゴールのチームになってしまいました。順位表でポジティブに捉えられるのは失点数の差で辛うじて最下位にはなっていないことくらいでしょうか。

1年目のチームが完成度を高めていくためには、これからも同じような痛みと時間が伴うかもしれません。内容が悪くても勝ち点を得ることが長いリーグ戦を生き抜くポイントであるとすれば、まずは一勝、そのための一得点を上げることが大事です。チームとして苦しい時期ではありますが、まずは目の前の小さいようで大きな目標を達成することから一歩進んでいってほしいと思います。

 

試合結果

J2 第3節 栃木SC 0-1 横浜FC

得点 横浜=90+3'戸島

主審 山本 雄大

会場 栃木グリーンスタジアム

観客 4829人

 

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