栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【組織力で武装した個】J2 第32節 栃木SCvs徳島ヴォルティス

 今回は第32節徳島ヴォルティスとの試合を振り返ります。

 

 両チームのスタメンと配置は次のとおり。

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 ホームの徳島ヴォルティスは前節讃岐とのダービーマッチに快勝(〇4-0)し2連勝。現在プレーオフ圏の6位と勝ち点差4の8位につけている。今季の徳島というと、前半戦は下位グループに入りかけていたが、激しい夏の移籍市場を経てチームが甦ったという印象が強い。スタメンの変更は2人。シシーニョと前節負傷した広瀬に代わり、杉本竜士とピーターウタカが入った。ホーム7連勝のクラブ記録を目指して栃木戦に臨む。

 

 対するアウェイ栃木SCは前節10試合ぶりに敗戦を喫した(岡山戦 ●0-1)。今節は仕切り直しを図る。スタメンは西澤に代わって出場停止開けのへニキが3試合ぶりにボランチに入った。

 

 両チームの今シーズンの対戦は、4月に行われたJ2第8節(△1-1)と6月に行われた天皇杯2回戦(栃木から見て●0-1)の2試合。三度目の正直ということで今回こそは勝ちたい!

 

 

前半

出鼻をくじかれた立ち上がり

 前半6分、試合は早々に動いた。左WBの杉本竜がセンターライン付近でボールを受けると、すかさず栃木CB裏へ浮き玉スルーパス。ウタカ目掛けて飛んだボールに対して、マーカーの服部は目測を誤りクリアミス。ボールを受けたウタカがシュートを放つと、福岡もライン上で触れることができずにゴールネットが揺れた。徳島は栃木のCB背後の弱さ天候を考慮した攻撃で先制することに成功した。

 

 次は前半11分。岩尾のCKをバラルが頭で合わせて追加点を上げた。栃木はCK時の守備はゾーンとマンマークを併用しているが、この時バラルのマーカーは福岡だった。バラルの回り込んでニアへ寄る動き出しに付いていけずに、ヘディングシーンでは完全ドフリーに。ある意味マンマークにありがちな失点となってしまった。

 

 2つともミスによる失点である。この時間のミス絡みの失点がどういう意味を成すか、栃木サポーターは嫌でも分かるだろう。今季前半15分までに失点をした試合は、いまだに勝ち点がゼロである。またしても栃木の悪癖が出てしまう立ち上がりとなってしまった。

 

 

ボールを運べない栃木

 序盤から2失点を喫した栃木。いつまでも徳島にボールを支配されては仕方ないということで、自分たちで意図を持ってボールを動かし始める。

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 前半、栃木が目を付けたのはミドルゾーンのサイドのエリア。徳島が守備時5-3-2を採用していることから分かるように、ここはシステム上空きやすい。強力2トップもさすがにここまで守備に追ってくることはなく、栃木は両WBと福岡の前進から敵陣への進入を繰り返した。

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 この時の徳島の対応が上の図(前半16分のシーン)。左WBの夛田にボールが渡ると、徳島は対面の右WBの表原と右IHの小西が寄せる。これに合わせて、DFラインは位置を微修正し、岩尾と前川は3MFの距離間を維持するように「繋がった動き」でボールサイドにスライドして対応した。

 夛田を後方でサポートしたのはボランチの岡﨑。岡﨑は前方にパスの出しどころがなく、やむなく夛田へリターンパスを送るが、これがズレて徳島ボールのスローインに変わった。

 

 この時栃木はなぜ前方に運べない苦しい展開になってしまったのか。答えは端的に言うと、後ろに比重を置きすぎて前線が数的不利だったからである。

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 まず、栃木の最終ラインと徳島FWの関係性を見ると、3vs2の数的優位の状態である。マイボール時にプラス1の選手(福岡)がリスクを冒して上がりすぎるようなことがなければ、余程のことがない限り守備で後手を踏むことはないだろう。よってWBの後方支援は左右のCBが行うことで十分だった

 ただ実際には福岡ではなく、岡﨑がサポートに回っていた。おそらく心理的な面で、守備に意識がいっていたのだろう。ビハインドという状況であれだけ個が強烈な選手が居れば仕方ないかもしれないが、岡﨑が降りることで徳島2トップに対して栃木は最終ラインに4枚置くことになってしまった

 こうなると当然前線は枚数が足りなくなる。中央のへニキに入れる手もあったが、数的不利の中盤&バラルのプレスバックなどを考慮すれば現実的ではない。結局は夛田へのリターンを選択した。

 サイドチェンジを多用して3MFのスライドを遅らせることができればベストだったかもしれない。徳島戦はここ最近の試合と比べればサイドを変える動きもあり、ある程度同サイド攻撃に拘ることはなかった。前半3分、サイドが変わり福岡が縦にドリブル、へニキのシュートに至るというシーンにあるように、もっと繰り返しサイドを揺さぶる動きがあっても良かったのではと思う。徳島のそれをさせない追い込み方も素晴らしいが、そこを修正できずに前半を過ごしてしまったのは栃木にとってはもったいなかった。

 

 

徳島のボール保持時の狙い

相手を引いて守らせないようにし、空けたスペースへどんどんとボールを入れていくトレーニングに今週は取り組んでいました。(リカルドロドリゲス監督)

栃木の前5人と後ろ5人の間を使うことと、前に来たときに背後を狙うことを今週はフォーカスしながらやってきました。(DF 5 藤原広太朗

 徳島の狙いは試合後のこのコメントによく表れている。これについて、ゴールキック時とボール保持時に分けて確認する。

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 ゴールキック時、徳島は左右のCBがペナルティエリア脇に開き、自陣から繋ぐようなセッティングを取った。ただ実際にはほとんど繋がず、キーパーからのボールはターゲットのウタカに向けて蹴られていた。栃木の3トップが徳島CBと完全にマッチする形&徳島CBにボールが入っても3MFへのパスコースが切られていたということが、地上戦を最初の選択肢に入れなかった理由だと思われる。ただ、それ以上にシンプルにウタカに入れた方が収められるからという方が理由としては強いかもしれない。福岡との競り合いはほぼ完勝し、落としたボールもボールサイドの枚数の差で徳島が上回っていた。この時点で栃木は徳島に対して、質的にも数的にも不利な状態になっていた。

 

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 次にボール保持時。徳島は左右のCBを開かせてアンカーの岩尾も含めダイヤモンドを形成。大黒の岩尾へのコースを切ったプレッシングには3CBの数の優位性で無効化。同様に3トップのプレスには3CB+岩尾でと、常に優位性を保ちながら対応した。そして栃木のボランチが岩尾へプレッシングを行うと、空いたライン間を利用して前川やバラルが受けて一気にアタッキングゾーンへ、という形になっていた。バラルが下がった時は必ず前川が入れ替わるように前線に入り、栃木CBに対して常にプレッシャーを与え続けた。

 徳島は、栃木が空けやすいスペースを利用し、簡単に高い位置を取り続けた。中央から攻めきれないと、ボールをWBへ渡し徹底的にサイドで1vs1を仕掛ける。また、栃木がライン間のギャップを埋めようとするとウタカへ向けてロングボールが飛ぶなど、出方を窺いながら準備してきたプランを使い分ける徳島に対して栃木は後手を踏むことしかできなかった。追加点に至るPK獲得も縦パスによるライン間進入を起点に生まれたものであった。リカ将恐るべし。

 

 

後半

攻撃的采配もパウロンの退場により厳しく...

 栃木はハーフタイムに岡﨑に代えて端山を投入。これにより西谷和がボランチにスライドした。どうしても攻める必要のある栃木は攻撃時にへニキを2トップの一角に置くことを明確化し、攻撃時3-1-4-2⇔守備時5-4-1というかなり攻撃に比重を置いた可変システムを取った。

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 ただ、後半も猛威を奮ったのがウタカ。後半15分、岩尾のスルーパスに反応するとスピードで抜け出し、対応したパウロンは堪らずファール。イエロー2枚目で退場となった。

 3点ビハインド&一人退場となり、非常に厳しくなった栃木。端山が移籍後初得点となる直接FK弾を決めたが、それ以降も試合の大勢は変わらなかった。

 

 

退場の影響と圧倒的個の力

 栃木は一人少なくなったことによりシステムを5-3-1に変更。後ろでしっかり耐えて、WBの持ち上がりとともに最低限の厚みを作ろう作戦に変わった。

 しかし、やはり数の壁を越えることはできなかった。前半栃木が使おうとしていた3MF脇のスペースを、今度は徳島に簡単に使われてしまう。徳島の左右のCBも前進し、より高い位置でアンカーの岩尾をサポートした。

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 この左右のCBにプレスをかけたのが上の図の後半40分のシーン。徳島の後方4枚に対して栃木が前線4枚の同数プレッシングを行う。これによりライン間は完全に分断。へニキが途中、ポジションを上げてアンカー気味にプレーすることもあったが、IH2枚(杉本太郎シシーニョ)が完全にフリーとなり、栃木は自陣でDF5枚に対して徳島の選手6人と相対する形になってしまった

 こうなると苦しい栃木。右WBの表原を経由して簡単にライン間にボールを送ると、引いて受けた狩野からウタカへ。ウタカが3人を引き連れ、最後は服部を剥がしてシュートはゴールイン。リスク管理よりも優先したプレッシングは、徳島の個を最大限に引き出す下準備となり、決定的な4点目を生んだ。

 

 

最後に

 栃木は好調の徳島相手に引くことなく、これまでと戦い方を大きく変えずに真っ向勝負を挑んだ。ある意味諸刃の剣になってしまったが、徳島の組織力と個の強さを身をもって感じた栃木の選手にとっては大きな経験になっただろう。

 退場後の戦い方は少し気になった。CBが退場したことにより4-4-1を採用するという手もあったが、最終ラインのオーガナイズを変えない5-3-1を選んだ。この選択自体は間違いだとは思わないが、結果的に後ろと前の選手間が前半以上に広がってしまった。攻守のリンクマンとして投入された二川も、この間を結ぶことはできなかった。この点再考の余地はあるだろう。

 栃木はこれで2連敗。残留に向けて安全圏に入りつつあると信じたいが、まだ下位との対戦は残っている。まさに次の愛媛戦はそのひとつ。6連敗後浮上した時のように、再度真価を問われる一戦になる。

 

 

↓試合結果(Jリーグ公式サイト)↓

徳島vs栃木の試合結果・データ(明治安田生命J2リーグ:2018年9月8日):Jリーグ.jp

 

↓試合ハイライト(YouTube)↓